二十五話 その名は『ハク』
どうやら倒れていた鹿が意識を取り戻したようだ。
ムクッと起き上がり、そしてこちらを見つめてくる。
角は残ってるのね。教官殿、アレはなんて魔物何ですか?
《 白鹿 鹿類の魔物が霊力を強く浴びて正しい進化をした霊獣です 》
魔物じゃなくて霊獣ね。さっきまでの邪鹿状態で霊獣って言われてたし、まぁ当然か。
《 恐らくは『緑鹿』が元の個体だと思われます。緑系統の魔物が得意とする魔法は身体強化なので 》
ちょっと待て、緑系って身体強化使ってくるの?緑の魔物しか戦った事ないから比較しようがないけど、確かにみんな素早かったような……。まぁ刀と剣術スキルのおかげで実感する事なく終わってたから気にした事ないけど。
と、言うことは魔物はみんな魔法を使ってくると考えた方が良いのか。
《 魔法を使える動物が魔物と呼ばれています。魔法の強さは個体差がありますが 》
じゃあ動物もいるってことになるのか。
《 家畜などは動物ですが、野生動物は基本的に魔物化していますので、動物の方が今は珍しいかと 》
なんと凶悪な世の中だ。色で使える魔法が変わるとみていいだろう。注意しておこう。
なんてやり取りをしている間も白鹿はこちらをずっと見つめていた。
……なんか可愛いな。背中のたてがみは残ったまま白くてモフモフだし、これはたまりませんな。
《 白鹿が仲間になりたそうにこちらを見つめています 》
あ、やっぱそう言う感じなのね。
しかし選択肢が出てこないんだが、どうすんのこれ?なんだクソゲーじゃないか。
白鹿が近づいてきたーー。
俺も合わせて近づいてみる。
するとそのまま顔を私に擦り付けてきたではないか!
んほぉぉぉぉ!! モフモフ、ッンギモッヂイイイ!!
一心不乱に撫で回す。
《 新しいスキルを習得しました。並びに白鹿の調教が成功しました 》
ちょっと待て、言い方が悪すぎる。
じゃあもしかして、スキルってーー。
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名前 レイダー・ラグーン
種族 人
守護霊 存在値(小)
調教済 白鹿
魔法 土、聖
スキル 墓荒らし(中級)剣術(上級)、弓術(中級)、視野拡大(上級)、植物理解(上級)、土壌理解(上級)、天候理解(初級)、石材加工(中級)、木材加工(上級)、金属加工(中級)、調理(初級)、調合(中級)、家政婦(中級)、恐怖耐性(上級)、魔力操作(中級)、魔力譲渡(初級)魔力使用量増加(初級)、乗馬(中級)、覗き(中級)、泥棒(中級)、
解体Lv1、調教員(初級)
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おいい!!なんだよ調教員って!!!
テイマーとかテイムとかあるじゃん!!!
俺はタクヤさんじゃないんだぞ!
って言うか何が調教だと判断されたんだ?
《 調教とは、飴と鞭。対象を痛めつけつつも殺さずに、逆らってはいけないと思わせ、自分にとって飴もくれる存在である。そう認識させる事が重要です 》
ちょっとあまり聞きたくないんですけど、どうせ続けるんですよねお願いします。
《 本来であれば鞭さえも飴と思わせる事が必要なのですが、刀身で切りつけダメージを与えつつも聖魔法で回復させ続けた事が、飴と鞭の両立になりました 》
確かに切りながら回復させるってそう言うことになるのか……。?、いやすみません、やっぱりよくわかんないです。
だとしてもこんな簡単にスキルって手に入るもんなの?? その割にはこの世界の人って多くても3つくらいしか持ってないのは少なすぎん?
《 スキルと発生条件にはそのスキルに該当する『行為』の熟練度や難易度、魔力の使用量なども関わってきます。魔物の最上位に位置する霊獣を対象にした事、膨大な霊力を行使した事が加味され、取得したかと 》
スキルってそうやって取得するのか。へー。
まぁ、なんか不名誉な称号持ちっぽくなっちゃったけど、配下が増えるのは得だね。うん、おいしい!
《 調教とは本来こうあるべきです鞭ばかり与えて飴を与えずにいつまでも望まない事をさせて嫌がる者を強制し続けるだけし続けて何も褒美も無いのは違うのです 》
きゅ、急に早口になったな、どうした教官殿?
《 ですのでアレは調教とは呼びません。存在値も散々消費させておいて褒めもせずひたすらに知識を詰め込み、嫌がれば無理矢理に抑え込み強制し続けるなど。なので私は『調教』されてません。勘違いしないでください 》
……よっぽど辛かったんですね。すみません。
教官殿にはもっと感謝しようと思います。
◆
さて、元の地点に戻らなければいかんのだが
鹿はこの崖を登れるのだろうか?
《 その前に名付けを推奨します 》
名付け?そういや名前つけてないな。別に構わないけどなんか意味あるの?
《 調教した魔物に名付けをすると『魂』の繋がりが出来ます。そうすれば言葉が通じなくても『言霊』を理解する事が出来るので、話しかければこちらの意図は通じます 》
何、言霊って?
《 全ての言語にはどのような言葉にも『言霊』が宿ります。そこには言葉を発した人物の想念が宿り、そこに意思が乗せられます。そしてそれは極めて少量の霊力を伴って相手に届きます。悪い言葉には悪想念が乗りますので、目には見えないレベルで影響はあります 》
なかなかめんどくさいな。
《 言霊の想念は魂の繋がりが強いと理解力が高くなるので、今後役に立つかと 》
そっかぁ、じゃあ名前付けなきゃ(使命感)
うーん、この。なんて付けようかな。
ハクシカだしハクでいいや。
川の神っぽい名前だけどまぁええやろ(適当)
「よし!お前の名前は今日からハクだ!よろしく頼むぞ!」
一瞬、ハク身体が光り、すぐに収まった。
終わった……のかな?
「じゃあ、ハク!一緒にこの崖を登っていくぞ!」
「ワン!」
泣き声犬じゃん。よく見たら尻尾長いなぁこいつ……。千切れんばかりに振っておられる。懐かれたようだな。
さて、しかしどう登るかな。
「ワン!ワン!」
ハクが俺に近づいてきて背中を低くして俺に擦り寄せてきた。
乗れって事かな?まぁ、崖を登るのに自信があるのだろうけど、俺動物に乗った事ないし大丈夫かな?
《 乗馬(中級)があるので問題ないかと 》
あ、それ鹿でも良いんだ。
ハクに跨るとハクが俺を乗せたまま崖を飛ぶように登って行く。
そして俺は全く振り落とされる事がなかった。
なんか、変な所ゆるいよねこの世界。
底辺作家なので
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