二十三話 やはり教官のアドバイスは遅かった。
「黒い…鹿?」
生物的には鹿なのだろう。造形は俺が元の世界で見てきた鹿に近い。
だがーー。鹿と呼ぶには余りにも邪悪な姿をしていた。
本来茶色い毛は黒く染まり、白い毛は薄紫に。
目は赤く発光しており、頭から尻尾にかけて一直線にたてがみが伸びている。
そして頭には一本の角があり、黒い稲妻を纏いバタバタと音を撒き散らす。
流石にヤバそうな奴が出てきたな。教官殿、コイツはどんな魔物なんですか?
《 邪鹿 鹿類の魔物に悪霊が憑依し、その数が膨大になると発生する霊獣です 》
おい待て!魔物にも悪霊が憑依するのか!?恨みのある人間だけじゃねぇのかよ!
《 本来はそうです。しかし、人を陥れて、破滅させる事自体が目的となってしまう存在もそれなりに多いです。復讐対象が消失して尚、現界に留まり活動を続けます 》
虐められてた奴が、虐め返して、それが気持ちよくなっちゃうのと一緒みたいな感じか? それで現界に留まるのはわかったが、なんで魔物に憑依する!?
《 霊体にとって、現界で依り代無しでの活動は十分な力を発揮出来ません。本来それが『位牌』になるのですが、生物への『完全憑依』をすれば依り代の代わりとなり得ます。『完全憑依』は対象の自我を完全に奪い、肉体の支配権を蹂躙するものです。魔物とは言え、簡単に出来るものではありませんが、憑依する悪霊の数が膨大であればそれが可能です 》
集団で憑依して肉体を奪ったってことか……。クソッタレだな本当に。
可哀想だがーー。やるしか無いか。
邪鹿を見つめ、刀を抜く。しかしなんだ、普通の鹿の3倍は大きいぞ……。おかげで攻撃は当たりやすいんだろうが、流石に勝てるかわからないぞ……
すると邪鹿の体が僅かにブレたーー。次に認識した時ヤツは俺の目の前で角を真っ直ぐに伸ばし突進をする。
ギィン!
咄嗟に刀で角をイナシ、側面へと抜けていく。
なんて速度だ、『剣術』が無かったらさっさと死んでるぞ。
…あの『角』石すら簡単に切り捨てたこの刀で切れなかった。正直、こいつの性能頼りだったから……本格的に不味いことになった。
そして幾度か角と刀を交える。
ギィン!ギィン!ギィン!
「はぁ………はぁ……」
クソッ、いなすだけで精一杯か、『剣術』と魔力での身体強化魔法を合わせてやっと対応出来るレベルだ。
悪霊が原因なんだから、聖魔法を当てられれば勝機は見える、はず。だが奴を捕らえられない。どうするーー
《 身体強化魔法を瞳に集中する事で動体視力を飛躍的に上昇する事が可能です 》
だからそう言う事先に言って!!!言われたままにしか出来んのが悔しいッ!
言われるがまま、瞳に魔力を集中していくーー。
再び邪鹿が突進をしてきたのだが、今度は『視えた』
俺は最低限の動きで角を『躱し』、一撃を胴体に贈る。
プシュッ!
堅いな、深く入らない。一応、出血しているがそれも申し訳程度だ。
いくら躱せるようになったとしても、その前に俺の魔力が尽きるだろうーー。
早く、聖魔法で浄化をしたいんだが、、、
聖魔法の光は届く速度が遅い。幼児がボールを投げる程度の速度しか出ない。
そんなもんあんな早く動き回る的に当てられるかよ……。
それに今は突進したして来ないけど、他の攻撃手段とか使われたらどうなっーーーー。
バチバチバチッッ!!!
ドゴォォォンンンン!!!!!!
あっぶな……。アイツの角から黒い電流が空に伸びたと思ったら、馬鹿でかい雷が上から落ちてきたぞ……。
雷が落ちた地点には大きな穴が空いていた。
底は見えない。その威力の恐ろしさを物語っている。
一発でも食らえば即、終了。
何か別の手段を考えなけれーー
《 聖魔法を刀に纏わせる事を推奨します 》
だからそう言うの早く言って。