第二話
目覚めるとそこは図書館だった。
確か登校中にトラックとぶつかって・・・
そうだ、ぶつかったと思ったらルーマニアにいたのだった。ルーマニアかどうかは分からないけど。そして確か変な唸り方をする猪に襲われて気を失ってしまったのだったっけ。とにかく訳がわからない状況にあるのは間違いない。夢であればと思うのだが、僕は夢が夢であると認識できる人間だ。その望みは薄い。
一通り現状を確認したところで、自分が生きていることに安堵する。不思議と体に痛みは無い。気を失ってからかなりの時間が経過してしまったのだろう。しかしまたなぜ図書館なんだ?ここはあの街の図書館なんだろうか?誰か助けてくれたのかな?
ひとまず自分が置かれている状況を把握すべく、図書館内を散策してみることにした。あたりを見回してみて、どうやら今いる場所は僕の記憶にある図書館とは些か趣が異なることに気がついた。
図書が鎖で繋がれていて、背表紙が棚の奥を向いている。
いわゆる鎖付図書にいるらしい。印刷技術が生まれる以前の中世では、図書は貴重品であった。盗難を防ぐ目的で図書に鎖をつけていたのだ。現存する鎖付図書は数館程度だと記憶しているが、僕は今そのうちのどれかにいるということだろうか?
それにしても静かすぎる。人の気配というものがまるで無い。まだ開館前の早い時間帯なのだろう。窓からの朝日が心地よい。
散策を続ける。エアコンやパソコンなどが一切見当たらない。書籍は環境の変化に敏感だ。気温や湿度を一定に保たなければすぐに傷んでしまうため、空調設備を整えることは重要だ。そして今や恐らくどの図書館にも蔵書検索システムが備わっているだろが、そのような類のものは一切見当たらない。驚いたことに、照明もない。
目に付く本を詳しく調べてみる。いわゆるアンティーク調の装丁で、大きく分厚いものばかりだ。どの書籍も比較的新しいもののように見える。ヤケやシミが多少ある程度で、それ以上の劣化が見受けられない。
自分が現代のヨーロッパにいる可能性は限りなく低いだろう。今の時代の鎖付図書にいるのであれば、本は劣化し赤茶けているだろう。「3種のチーズ牛丼!」とうめく猪に出会った事実が、自分の推論を補強する。
手にとった本を開いて中身をあらためてみようとしたところ、複数人の足音が聞こえて来た。咄嗟に身を潜める。音の主を確認すべく、棚の隙間から音のする方を覗く。目に映ったのは・・・・