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箱の中の悪意6

 

 砂寺サテラは、静まり返った廊下を進んでいた。

 ここ文化部棟には様々な部室が軒を連ねている。

 文芸部、鉄道研究部など、様々なプレートが取り付けられた扉を通り過ぎ、目的の場所を目指す。


 廊下の突き当り、他の部室より幅の広い扉の部屋の前で歩みを止める。

 サテラは躊躇なくドアノブを掴み、扉を開けた。


 まず最初に感じたのは暖房によって暖められた空気、そしてふわりと香るアロマの匂いだった。

 室内はESS部とは比べ物にならないほど広い。

 突き当りのこの大きな部屋を使えるのは、活動実績が豊富で学校に期待されている部活動のみ。

 文化部棟が全四階なので、わずか四つの部活のみがこの大きな部屋を享受できることになる。


「あれ? サテラじゃん。こんな時間に来るなんて珍しい」


 部屋の奥のデスクに座っていた女生徒が、嬉しそうにサテラに声をかけた。


「迷惑だったかしら」


「いーや全然。さ、座ってよ」


 サテラは静かに頷き、部屋の中央に設置されているソファに腰掛けた。

 女生徒もサテラの対面のソファに座り、表情を綻ばせながらサテラを見つめる。


 彼女の名前は御影杏子(みかげきょうこ)

 数少ないサテラの友人の一人で、クラスは違うが彼女も勉学に優れる生徒が所属する特進科に籍を置く才女。

 そしてここ『郷土史及び地域風俗研究部』の創設者にして部長も務めていた。


「御影さん、また派手になりましたね」


「ああ、これ?」


 杏子は片手で自分の髪を撫でる。

 その一筋だけピンク色に染まっていた。


「良いっしょ、このピンクのメッシュ」


「ええ、とてもお似合いです」


 サテラが言ったように、この御影杏子という女生徒の身なりは非情に派手だった。

 ピンクのメッシュだけでなく、ボブヘアーの頭髪全体がブロンドで染められていた。

 その他にもメイク、ネイル、異常に短いスカートの丈など、その暴挙は枚挙に暇がない。

 サテラと違い、彼女の格好はほぼ全て校則違反だった。


「砂寺さん、どうぞ」


 部員の一人の男子生徒が、サテラの前にコーヒーの入ったカップを差し出した。

 緑色のネクタイ、二年生だった。


「あら、わざわざありがとうございます」


 シャイなのか、小さく首を上下に動かし、そそくさと後ろに下がった。


 サテラはその細い指でカップに触れ、ゆっくりと持ち上げる。

 良い匂いだった。

 安物ではないとすぐ分かった。


「とても美味しいわ」


「それは良かった。お口に合ったようでなにより」


「これはキリマンジャロですね?」


「ご名答。よくわかったね」


「独特の酸味がありますから。それにこの柑橘系のフルーティーな甘みも、キリマンジャロの特徴だわ」


 杏子は感心したような表情で目を細めた。


(エクス)がつくとはいえ、さすがお嬢様。違いを分かっていらっしゃる」


(エクス)だなんて失礼ね。現在進行形(アクティブ)でお嬢様のつもりよ」


 サテラはもう一度コーヒーの味を堪能する。

 小さく息を吐き、カップをガラステーブルに置いた。


「御影さんは補習は?」


「受けるわけないっしょ、そんな面倒なもん。そもそもあたしは別に良い点とか目指してないし」


 杏子は気怠そうにそう答えた。

 そして立ち上がり、先ほどまで座っていたデスクの方へ向かった。

 そこに置かれていたコーラの缶を手に取り、再びサテラの対面にどかりと座る。

 大きく缶を傾けて中の液体を胃に流し込み、大げさに息を吐き出した。


「それに」


 空になったアルミ缶をガラステーブルに置き、口を斜めに上げてサテラを見つめる。


「この時期に必死こいてるようじゃダメ、そうでしょ?」


「それについてはノーコメントで」


「相変わらず良い子ちゃんだなあ」


「ええ。私は良い子なので」


「どの口が言うんだか」


 呆れたように肩をすくめる。


「で、要件は?」


 ソファに大きく背中を預け、サテラを見据える。


「わざわざお喋りするために来たわけじゃないっしょ?」


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