表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/15

箱の中の悪意5

 

 冬の夜は、とても早い。

 時刻は17時を少し回ったあたりだが、外はすっかり暗くなっていた。


 砂寺サテラは大きくため息を吐いた。

 今日はもう帰ろう。

 開いていた本を閉じ、帰り支度を整えた。


 ESS部の活動は、全てサテラの気分で決まる。

 始めたいときに始め、そして帰りたいときに帰る。

 そもそもの活動内容があってないようなものだった。

 その証拠に部室内にあるキャビネットの中に、英語の教材なんて一冊も入ってなかった。


 この部室は学校内にプライベート空間を欲したサテラが、様々な手段をもって手に入れたものだった。

 元々ESS部は、部員数ゼロの実質廃部状態だった。

 入学早々、サテラはこの無人の部活に目を付けた。

 部の成立には最低四人の部員が必要なのだが、サテラは人員確保のために不登校の生徒の自宅まで押しかけ、入部届にサインさせたりもしていた。


 普段は静謐なサテラだが、時に常軌を逸した行動に出ることもある。

 彼女はまさに規格外な存在だった。

 それは学業においても例外ではない。

 優秀な生徒のみを集めた特進科に在籍し、その中でも彼女の成績は群を抜いていた。


『天才』


 まさにそう呼ぶに相応しい存在だった。



 鞄を背負い、冷え切った部室を出る。

 暮内蒼斗(くれないあおと)は既にいない。

 彼もまた、そのときの気分でいたりいなかったりする。とても自由だった。



 部室の扉を閉め、鍵をかける。

 サテラは最後に蒼斗と交わした会話を思い出す。


「あなたは呪いってあると思いますか?」


「それは一般論? それとも僕の意見かな?」


「後者で」


「呪いの定義は?」


「精神的、霊的な手段をもって、他者や社会に不幸をもたらす行為、としましょうか」


 蒼斗はわざとらしい考え込む仕草をとる。


「そうだね、僕の答えは――」



 サテラの思考は、近づいてくる足音で中断された。


「砂寺さん」


 聞き覚えのある声だった。


「あら、ごきげんよう。斎藤さん」


 サテラは振り返って、余所行きの笑顔で応えた。

 クラスメイトの斎藤郁美(さいとういくみ)だった。

 たしかクラス委員長だったような気がする。


「先生が職員室まで来てほしいってさ」


 不機嫌そうに、ぶっきらぼうに言い放つ。

 たまたま機嫌が悪いわけではない。

 これが彼女の平常運転なのだ。


「要件はそれだけ。じゃ、私はちゃんと伝えたから」


「はい、わざわざありがとうございます」


 サテラはぺこりと頭を下げ、その場を離れようとしたが、斎藤がまだ立っていた。

 度の合ってない眼鏡をかけたときのような、細めた目でサテラを見据えていた。


「まだなにか?」


「べつに」


 短くそれだけを言って、斎藤は体を反転させた。


「これから補習ですか?」


「そう。うちらはあんたと違って、遅くまで勉強しないと結果が出ないの」


「私だって勉強くらいしています」


「どうだか」


 斎藤は足早に去っていった。

 サテラはそんな後姿を見えなくなるまで見送った。


「さて」


 サテラは斎藤とは反対方向、つまり階段とは逆方向に体を向けた。

 職員室に行く気などさらさらなかった。


 話の内容など容易に想像できた。

 来月十一月の上旬に開催される全国模試、それについてあれこれ言われるのは火を見るよりも明らかだった。

 良く言えば期待されているということだが、サテラはそれが煩わしく思っていた。


「全教科0点をとったら、先生方はどんな反応をするかしら?」


 心の内に沸いた好奇心に、サテラは思わず笑みをこぼした。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ