表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/15

箱の中の悪意3

 

 砂寺逍遥(すなでらしょうよう)は、仕事に戻ると言って部室から出て行った。

 実際のところ、本当に仕事をする気があるのか怪しい。

 なぜなら彼は名前の通り、掴みどころのない人物だからだ。


 一人きりになり、静寂が戻る。

 砂寺サテラは、先ほどの会話を思い出していた。


 実に、興味深い話だった。

 教室内で起きた事件、五十年前の殺人事件、呪い、どれもが新鮮で、多少不謹慎ではあるが、サテラは胸を高鳴らせていた。


 目を瞑り、思考を巡らせる。

 サテラは霊魂といったものを信じていない。

 なので当然、犯人は人間と確信していた。


 施錠されている室内に侵入する方法はいくらでもある。

 それが実現可能か、再現可能かはさておき、呪いなどという形のないものよりかは、いくらか現実的といえる。


 サテラは自嘲気味に口を斜めに上げる。


『現実』


 現実とはなにか。

 サテラは知っている。そんなもの、本来この世には存在しないということを。

 何故なら現実とは、脳が作り出した幻想だからだ。

 そういう意味では、現実も呪いも同じ集合に属するものなのかもしれない。


 しかし、なぜ呪いなのか。

 冷静に考えなくても、これがそんなオカルトめいたものではないと判断できるだろうに。


「分からないものに名前をつけ、安心を得るのは人間の得意とするところだろう?」


 背後から聞き覚えのある声がした。


 サテラは目を開け、振り返る。


「あら、いつからいらしたの?」


 サテラと同じ、一年生を象徴する赤いネクタイをつけた少年が立っていた。

 低い室温のせいか、それとも元よりそういう色なのか、少年の肌はやけに白い。


「ついさっき。それにしても、相変わらずありえない男だな。煙草の臭いがひどい」


 暮内蒼斗(くれないあおと)は端正な顔をしかめながら言った。


「私はもう慣れてしまったわ。制服に臭いがついてしまうのは、ちょっと迷惑ですけど」


「面白い話をしていたね」


 急に話を変えてくるのは、いつものことだった。

 サテラは彼の切り替えの早さに、いつも感心する。

 会話において導入部も接続詞も、脈絡といったものさえ不要だと、サテラは常々思っていた。


「盗み聞き?」


「たまたま聴こえただけさ」


 ゆっくりとした動作で、サテラの対面の席に座る。

 そこは先ほど、逍遥が座っていた場所と同じだった。


「私の心の声も、たまたま聴こえたのかしら?」


「そ、たまたま」


「壁が薄いのかしら」


「隙間が多いのかも」


「三匹の子豚のような?」


「僕は狼なわけだ」


「銀の家をこしらえなくちゃ」


 アルカイックな笑顔が交差する。

 互いの目は、互いの脳に集中していた。

 先に口を開いたのは蒼斗だった。


「第一発見者を疑ってる?」


「それが一番シンプルな答えだけど、多分違う。学校も警察も、まずはその可能性を潰すはず」


「ズバリ、犯人は?」


「七十七億人から、まだ全然絞れていないわ」


 目を伏せ、軽く頭を左右に振る。


「七十七億って、世界人口? 今そんな多いの?」


「ええ、西暦二千百年には百九億人に達するらしいですよ」


 蒼斗は椅子に深く座り直し、感嘆の息を漏らす。

 真っ白い息が立ち上り、そして風景に溶け込むように消える。


「外部の可能性も疑ってるんだ?」


「排除できる要因がありませんから。そもそも現状分からないことだらけで、まだまだ輪郭を描くだけの情報がありません」


「たしかに、安楽椅子探偵を気取るには、まだまだ情報が足りない。なにせ君は、登場人物どころかストーリーラインすらまだ把握していないんだから」


「あなたの言う通りです。私には情報が全然足りていません。だから教えていただけませんか?」


 蒼斗は意外といった表情でサテラを見る。


「君が望むような有益な情報なんて、なにもないはずだけど」


「五十年前」


 青斗の眉がピクリと動く。


「この学校で起きたという殺人事件を、もう一度」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] まだ、導入部なのでしょうが、学校で起こった事案が 五十年前の事件とどう関連付けされていくのか? ここからの物語が気になりますね。 [一言] 心霊物なのか はたまた 推理物なのか 興味深い作…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ