表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/15

箱の中の悪意

 

 その事件が起きたのは、一月(ひとつき)以上前の放課後の出来事だったらしい。

 なぜ『らしい』かというと、事件発生当初はそこまで大きな騒ぎにはならず、ただのいたずらと判断されたからだ。

 なので、皆の記憶からもすぐに薄れ、誰も正確な日付を覚えていないのだ。


 砂寺サテラは差し入れのカップのホットミルクティーを口に含み、今しがた聴いた事件のあらましを吸収するように、ゆっくりと飲み込んだ。

 温かい液体が喉を経由して胃に送られ、そこを中心にじんわりと放射状に温かさが体全体に広がっていく。


 季節は冬の訪れを感じさせる十月の下旬。

 ここ青城(せいじょう)高校の中でもとりわけ古い施設、文化部の部室棟には空調設備なんて備え付けられていない。

 予算が潤沢な、学校に期待されている部ならいざ知らず、なんの実績もないESS(English Speaking Society)部に暖房器具を設置するような、そんな予算はない。


 サテラはカップに口をつけながら、チラリと目の前の作業着を着た中年の男を見る。

 名前は砂寺逍遥(しょうよう)。元は青城高校で国語教師として教鞭を振るい、定年後の現在は用務員として在籍するに至っている。

 苗字から分かるように、彼はサテラとは親戚関係にある。

 彼は仮にも学校内というのに堂々と煙草を口に咥え、そして斜め上を向いて大きく煙を吐いた。


「以上が事件の内容なんだが、サテラちゃん、何か気づいたことや不審に思ったことはあるかい?」


 期待半分といった様子で目を細めてサテラを見る。品定めといってもいい目つきだ。


「そうですね」


 カップを口から離し、ゆっくりとした動作で机に置いた。コトリという軽い音が、冷えて静まり返った部屋に響く。


「私の一番の疑問は――」


 サテラは自分の叔父の眼を射抜くように見つめた。


「何故、先生方は今になって一月以上前の事件に執心しているのでしょう?」


 その回答に満足したのか、逍遥はにっと口角を上げた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ