鬼は
「ねぇねぇ土方さんッ!」
寒さに頬を染めた総司が、ガキの頃の癖のまま、俺・土方の長い髪を引く。
今や、俺にこんなことができんのは、コイツだけだ。
「バッカ! いッてぇっての!」
つかそんな凍えたツラしてまで外出てくんじゃねぇよ。
「今日は何の日でしょ~う?」
一枚多く着てくるぐれぇの知恵も回んねぇのかよ。
俺は眉間を寄せながら、自分の羽織を頭からバッサリ掛けてやった。
大の男の癖に少しも厭がる素振りも見せずに、イソイソと袖を通しながらせっつく。
「ねぇってば!」
「知らねぇよ」
と、面倒そうに言ってやると、コイツは得意気に歯を見せるんだ。
「ええ? 知らないんですかぁ? 節分ですよ~!」
豆まき遊びなら、ガキ同士でやれよ。俺はやんねぇぞ。
悪い予感に襲われた。
「可哀想だなぁ……外に出されるなんて。家に居たいかもしれないのに。」
……こっちか。
九歳のまだほんの子どもの頃、両親を失い、姉夫婦と暮らしていた総司は、口減らしに家を追われ、試衛館の内弟子になった。
そして今は、不治の病である労咳に侵され、療養の為に新撰組屯所から独り、離れなければならないと、総司自身が知っている。
どうしたものかと考える俺を余所に、総司はあっけらかんと顔を上げた。
「子ども達と豆まきするんです! 土方さん、鬼役やってくださいよぉ!」
あまり心配し過ぎると、コイツはそれさえ読み取りやがるから、わざと鬱陶しそうに低い声を作る。
「お前、この俺に鬼の面付けろってのかよ」
「まさか! そのままでイケます!」
普段やり慣れながら、節分では最初で最後の鬼役は、春を思い出すくらいに暖かく、いやむしろ暑くなるまでこき使われた。
コイツが元気でいてくれるなら、来年も、再来年も、ずっと、俺は鬼役でいい……などと、不覚にも思ってしまった。
了