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七.リーマンはみんなと一緒に立ち向かう

 鏡には、古来より魔を払う力があるとされてきた。


 世界各地の神話や伝承にも、鏡の力を借りて闇を打ち払い、魔を討ち滅ぼすなんて類いの逸話があふれかえってるだろう?


 鏡は死者の通り道だ、別の世界への入り口だ、なんて言われたりもするな。


 実際、ミュステリウムには鏡を通して〝越境〟してきた人がいる訳だから、日本や世界各地で囁かれ続けるオカルト話が眉唾だとは言いづらい。


 なんでいきなりこんな話をし始めたのかって? もちろん、今回のレイドバトルに関係のあることだからだよ。





 〝魔法の矢(マジカル・アロー)〟〝魔力の光弾(エネルギー・ボルト)〟は、属性や系統関係なく、魔術師なら誰でも使える攻撃魔法だ。


 見た目、まんま光線銃から出るレーザービーム(のようなもの)や、丸い光の弾が目標に向かって飛んでいくんだが……使用時の注意点として、鏡に当てると反射する特性を持つことから、実際に撃つ前に、周囲をよく確認しなければならない。


 でもさ、これっておかしいんだよ。


 物理学を専攻している学生さんや、工業用レーザー溶接機なんかを使う業界の人たちにとっては常識だと思うが、この手のレーザー光を反射するためには反射率の高い専用の鏡(モノにもよるが定価ン万円とか)を使わなきゃならない。


 なんでかというと、


 完全に反射できない = 一部を受け止めてる


 ってことだから、反射率が低いと、レーザー自体の熱エネルギーを受け止めた鏡が焼けちまうんだ。太陽光とは違う、高熱線なんだからまぁそうなるわな。


 それを踏まえて考えると、攻撃魔法として成り立つほどのエネルギーを内包する〝魔法の矢〟〝魔力の光弾〟を受けた鏡は破壊されなきゃおかしい。それなのに、実際に鏡で跳ね返してみても、傷ひとつ付かないんだな、これが。


 地球の物理法則を、魔法が実在するような世界に当てはめるなって?


 ごもっとも。けど、それはそれで気になるだろ?


 疑問を持ったのが学院在学中だったから、各種属性魔術の使い手に協力を申し込んで、さんざん実験を繰り返したんだよ。


 その甲斐あって、鏡には魔力を跳ね返すという性質があることがわかった。


 ただし、魔力以外のエネルギーを纏う魔法――たとえば〝雷撃(ライトニング)〟みたいな、光だけじゃない、電気エネルギー込みだと、鏡では跳ね返せずに壊しちまう。


 逆に言えば〝魔法の矢〟や〝魔力の光弾〟みたいに、魔力そのものを撃ち出して目標を攻撃する魔法なら、跳ね返せるってことだ。


 〝祝福の光(ブレッシング・ライト)〟みたいな、不死系のバケモノに特効持った魔法も跳ね返ってたし。けど、祝福なのにいいのかね? 反射しちまっても。


 ……とまあ、それはさておき。実はこの実験、意外な副産物をもたらした。


 なんと、鏡で跳ね返した魔法は、微量だけど例外なく威力が増加するんだよ!


 一体どういう理屈なんだ! と、協力してくれたみんなと一緒に盛り上がったのは記憶に新しい。俺もそうなんだけど、魔法の素養を開花させるような連中って、基本的に好奇心旺盛なんだよ。


 んで、最終的に世紀の大天才・学院長先生まで巻き込んだ大実験の結果。跳ね返る時に〝世界の壁〟の魔力を吸収するからだ、という理論に行き着いた。


 と、ここに来て最初に触れた『別の世界への入り口云々』が関わってくる。


 ミュステリウムにおいて、鏡は姿見の他にも魔法の触媒として使われる。鏡同士を関連づけることで、扉として利用する、とかな。俺が使う〝転移門〟の空間系魔法バージョンってとこか。


『鏡は、別の世界への入り口である』


 この考え方はミュステリウムの魔法使いたちの間では常識とされていて、実際に〝向こう側〟へ行こうとする研究がさかんに行われている。


 ここで立ちふさがってくるのが〝世界の壁〟だ。


 こいつをブチ破るのが〝越境〟であり、それを成し遂げた者が〝越境者〟と呼ばれるというのは、この実験の最中に学院長先生から聞いた。


 ……俺の場合は完全に偶然なんだが、それはまあ置いといて。


 ところがこの〝世界の壁〟というやつ、なかなかに頑強でな。


 俺は寝ることで地球とミュステリウムを行き来できるが、未だ〝転移〟の魔法で世界を渡ることはできない。水晶で更新するたびに挑戦してるんだが、跳躍しようとするたびに、見えない何かに跳ね返されるんだよ。


 まあ、そうだよな。そう簡単に別の世界、もしかすると別宇宙? を行き来できたりしたら、世の中はもっと不思議であふれてると思うし。


 とはいえ〝世界の壁〟の表面が魔力の塊で覆われている、あるいは魔力で守られているという仮説は学院長を含む最上位魔術師たちの研究魂に火をつけたらしく、多少なりとも魔法理論が進歩しているようだから、もしかすると、そのうち自分の意思で、自由に〝越境〟できるヤツが出てくるかもしれないな。


 ――さて、話をレイドバトルに戻す。


 問題:鏡で跳ね返った〝魔法の矢〟や〝魔力の光弾〟は威力を増すが、連続で跳ね返し続けた場合はどうなるか。


 解答:さらに威力を増します。


 ※ただし、これを合わせ鏡で実行した場合のみ数十回の反射後に消失します。


 長い通路、曲がり角が多いというキーワードでピンときたあんた、冴えてるぜ。というわけで、早速作戦開始だ!





「『魔力反射理論』は読んだことあったけど、この規模での実践は初めてだわ」


「ああ、これは貴重な機会だ!」


「はいそこ! 気持ちはわかるが今は準備に集中してくれ!」


 斥候班決死の偵察により、必要な空間は確保できた。幸いなことに死者・負傷者共に無し。そのまま敵の観察を続けてもらっている。


 という訳で作戦開始!



 一.俺の〝魔法の背負い鞄〟から手鏡百枚を取り出します。


 二.歩幅くらいの感覚で、縦横五枚ずつ、計二十五箇所に印を書きます。


 三.印の上に、鏡を置きます。


 四.移動系が得意な魔術師に、これらを〝浮遊〟で浮かべてもらいます。


 五.残りの鏡を、適当に床へ並べます。


 六.これも〝浮遊〟で浮かべてもらいます。


 七.俺が事前に計算した位置・角度で全ての鏡を〝転送〟します。



『位置取りヨシ! 攻撃担当! 全員印の上に立ってくれ!』


 〝転移〟発動の直後に〝伝達〟魔法が得意な使い手に、チーム全員へ俺の声を届けて貰う。こいつはSNSのグループボイス会話みたいなモノだと思ってくれ。


『おっちゃん! 魔獣の先頭集団がポイントAを抜けたよ!』


『カトゥさん、Dポイントにも別の集団が差し掛かってます!』


『こちらBポイント! 同じく二十体ほどの集団が暴れています!』


『〝門番〟はどうだ!?』


『Eポイントで暴走中よ! ごめんなさい、危険だから離れます!』


『わかった、無理すんなよ!』


『ありがとう、悪いわね』


『気にすんな!』


 情報を元に、鏡の角度を微調整する。〝浮遊〟の効果が切れて、鏡が床へ落ちる前に勝負を決めなきゃならないが、できる限り慎重に。


 狙撃隊をまとめるリーダーが、声を張り上げた。


『砲撃準備ヨーシ! 撃ち方、構えッ!』


 印の上に立った魔術師たちが、いっせいに手、あるいは杖をはじめとした魔力の発動体を構え、上へ向ける。


 それを見た俺が、右手をぐるぐると回した。ゴーの合図だ。


『砲撃開始五秒前、四、三、二、一、撃て――ッ!!』


 輝く光線が、天井方向へ向けて一斉に放たれた。俺たちの護衛として側に控えてくれていた重戦士曰く、


「まるで、自由に飛び交っていた流星が、空からいっせいに降り注いできたかのような光景だった」


 ……うーむ、詩人だ。


 魔獣たちが唯一存在しない、天井付近で乱反射を繰り返した〝魔法の矢〟が、通路に配備した鏡に向けて降り注ぐ。刹那、狭い通路を駆けていた魔獣の群れを文字通り貫いていった。


 魔獣の肉体という減衰要素のせいで一時的に威力を落とした光の矢軍は、曲がり角で再び鏡と衝突。反射して、さらに奥へ奥へと突き進んでいく。


『どうだ!?』


『すっげー! Aの先頭集団三十五匹、みーんな消し飛んじゃった!』


 クーの報告に、周囲からどよめきの声が上がった。


『Bの暴走集団も壊滅です! 動いているのもいるけど、ほぼ瀕死ね』


 どよめきが、歓声に変わる。


『Cポイント、撃ち漏らしが出ています! 残存戦力はジャイアントオーガが五、後ほど討伐の必要があります』


 その〝伝達〟を受けた戦闘職たちが、互いを見て頷き合った。


『Dポイントも同じく撃ち漏らしあり、こちらはジャイアントオーガ、ミノタウロスがそれぞれ四体、ウルフドッグが三!』


『Eにいた門番は、動きを止めたみたい。足音が聞こえないわ!』


『偵察いけそうか?』


『大丈夫、これは……うん、足を引きずってるから、ダメージは確実に通ってる。でも、さすがに倒すまでは行かなかったわね』


『いや! 正直、想定以上の大戦果だ! そのまま偵察を継続してくれ』


『任せて!』


 〝伝達〟に投げた通り、こいつは想像以上にうまくいった。まさか暴走していた魔獣の九割が壊滅、門番の動きを鈍らせることまで成功するとはな……。


「やったな、カトゥさん!」


「ああ、みんなのお陰だ! ありがとう!」


「私たちも、いいモノ見せてもらったわ!」


 場に集った探索者たちとお互いの健闘を讃え合う。だけど、残念ながらまだ終わっちゃいない。


「気を抜くのは早いぞ。敵はまだ残ってる! 事前の打ち合わせ通り、射手のみんなと属性攻撃魔法の使い手は、軽装戦士と一緒に残った魔獣を駆除してくれ」


「おうよ!」


「任せろ!」


 待機していた集団の半分が、残存兵力を潰しに向かう。


 ローブのポケットに入れておいた魔力回復薬を飲み干した俺は、改めて今いるメンツに視線を巡らせた。


「残りは、俺と一緒に〝門番〟狩りだ! 準備はいいか!?」


「応――ッ!!」


 両手で足の震えを誤魔化しながら、目標がいるであろう方向を睨み付ける。


 それなりに体力を消耗しちまったが、薬のお陰で、せいぜい都内某駅のホームから連絡通路への階段を駆け上がった程度だ、どうってことはない。


 ああ、息切れしてるのは見逃してくれ!


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