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俺には最愛の女性がいた。
とても可愛くて、料理が上手くて、読書が大好きで。
そして寂しがり屋で、泣き虫で、
何よりも笑顔が素敵な、最高の彼女。
しかし、俺は彼女に別れを告げた。
俺は、幼い頃から得意だった英語を生かしたくて、通訳の仕事をしている。
自分が好きな事が仕事になるのはとても嬉しかったし、就職が決まったときに彼女も喜んでくれたけど、
その分、彼女と一緒にいられる時間は殆ど無かった。
俺はそれでも良かったけど、やっぱり彼女は寂しかったのだろう。
「寂しい」とは口には出さなかったが、俺が仕事で海外に飛んで、帰ってきて、すぐまた海外に行くとなると、よく少し寂しそうな顔をした。
「寂しい?」と聞いても、俺が気に病んだりしないように、「大丈夫だよ!」笑顔を振る舞った。
それを見ているのが痛々しかったけれど、あの頃の俺は彼女がどれだけ自分の想いを押さえ込んでいるのか、しっかりと分かっていなかった。
そして、そうやって我慢に我慢を重ね続けた彼女
は、とうとうその我慢の限界を超えた。
爆発することは無かったけれど、元々温厚な彼女がよく怒るようになった。
仕事が延期になってしまうと、
「明日帰ってこれるって言ってたのに!」
と泣き、
時差がキツくてうっかりデートに遅刻してしまうと、
「ねぇ、何で遅刻したの!?そんなに時差がキツいならデートしなければいいじゃない!」
と喚いたりした。
全部俺が悪いし、怒られるのはいいのだけど、気が付けば最近、彼女の笑顔を全く見ていなかった。
最近の彼女で思い出せる顔は、泣いている顔か、怒っている顔だった。
それに気付いたとき、俺は別れを決心した。
-きっと俺には、もう彼女を笑顔にしてあげられない。
俺は、彼女の顔も、彼女の声も、彼女の仕草も、彼女の黒くて長い綺麗な髪も、彼女の料理も、寂しがり屋な所も、泣き虫な所も、
全部全部大好きだけれど、
何よりも好きなのは、彼女の笑顔だった。
だから。
もう、あの彼女の笑顔が無くなってしまう位なら。
俺は自ら別れを告げよう。
そして、過ぎた真似かもしれないけれど、
彼女の幸せを願わせて貰おう。
俺は、彼女にメールで別れを告げた。
直接会えば、心変わりしたり、泣いてしまうだろうから、悪いと思いながらもメールにした。
彼女からの返事は
『わかった。今までありがとう。さようなら』
だけだった。
俺はその日、一晩中泣き明かした。
それから俺はアメリカに渡米することにした。
アメリカの有名な企業から斡旋が来たからだ。
もう彼女に会わない為にも、彼女の幸せを邪魔しない為にも、俺はアメリカで働くことを決めた。
次にいつ日本に帰ってこられるかはわからない。
俺は今、空港でロビーへと続くエスカレーターの前にいる。
振り返っても、いつもなら見送りに来てくれる彼女はもういない。
それでいい。
思い残すことはない。
彼女が幸せになって、笑顔でいてさえくれれば、それでいい。
ただ、もしも。
もしも、最後に願いが叶うのならば-…