お家に帰るまでが冒険です 3
久しぶりにアレクセイさんの腹筋を見た。
白皙の美青年な風態で中身はもれなくおっさん属性であるギルドマスターは、むんと筋肉ポーズを決めたりして嬉しそうだ。
一方、領主のシグムンド様は傍目にもわかる落ち込みっぷり。
「お、おめでとうございます。」
言葉と裏腹に、薄っすら涙目だ。
あれだな。
仄かに恋心も抱いていた美女がおっさんになってしまったんだもんな。
「あーっ。これで飲みに出られる!長かった!黒、付き合え。そもそもなんでお前がいるんだ?ヒルダはどうした。」
「ぽんこつは竜人商人にほいほいついて行った。俺はっ。そもそもなんでカティがこんな姿なんだ?てめえが付いていながら呪いを受けるなんてどんな相手とやり合った?」
「あ、えーと、それは、凄い強敵だ。なあ、エカテリーナ?」
誤魔化した。
「そうそう。厳しい戦いだったわねっ。」
カティも誤魔化した。
魔王と炎帝が喧嘩してやらかしたなんて恥ずかしくて言えないよな。
「カティとアレクセイが喧嘩したんだ。仲良くしなきゃ駄目だぞ!」
ふんすとシグたん。
「は?喧嘩、だ、と?てめえら、ごほん。」
それ以上はシグの耳が腐る。
沈黙のお札をちらつかせたら、黙ってくれました。
「で、カティは元に戻らないのか?」
「あんた、シグが戻った時の事忘れたの?」
「………お、おう。」
子ども服に収まりきらずまっ裸になっていたっけ。
「リヒャルト、帰るわよ。城まで送りなさい。」
「ちっ。だとよ。」
「飲みに行くのはまた今度だな。」
リヒャルトさんとアレクセイさんが拳を当てて挨拶を交わす。仲良しさんだな。
「あ、ちょっと。お帰りの前にシャイロックさんの所へ空間?繋いで下さいよ。何も言わずに別れたので、一言お礼ぐらいは。」
「無理無理。戻れねえよ、目印ないから。」
「ええ?困りますよ!」
「はっ。あんな奴とつるむな。」
「シャイロック?またなんでそんな名前の奴と。」
「名前つうかよ。トカゲ本人だ。」
「げ。」
「アレクセイさんのご友人ですよね。あっちですっかり世話になってしまって。ダンジョン攻略までの助っ人を依頼していたんですが、ちゃんとご挨拶も出来ないまま別れてしまいました。ご連絡を取るような事があったら宜しく伝えて下さい。」
「………、」
「シグも世話になったんだよな?」
「シャイロックとはお握りの取り合いをした仲だぜ!」
「………………分かった。」
何か長い葛藤があった気もするが、まあいいか。
「心配しなくても向こうから押しかけてくるよ。じゃあ、アレクもむさ苦しく戻ったことだし、ボクも帰ろうかな。」
メイドさんに包んだ茶菓子を山のように持たされたルキさんが立ち上がる。
「王都へ戻るならオレも一緒に行くよ。」
緑騎士団の皆んなの墓参りくらいはしたいしな。
あと、就活。
………はあ。
結局、ダンジョンの稼ぎは女神様達が持ち逃げしてしまったし。
めぼしいドロップ品は文左衛門さんが総取りしていった。
手元にあるのは使い道のない呪いアイテムばかりだ。
「そうだ。エルフからエリクサーを預かってました。」
「おお、助かる。手持ちがなくてな。シグは腹を壊しやすいからなあ。」
それは拾い食いをするからだと思う。
こうして、長かった冒険は終わった。
領主城の結界を出てそれぞれに旅立つ。
百年の勤めを終えていたアレクセイさんとシグは冒険者として。
リヒャルトさんは目付役として当分はカティに付き添うと言う。
サーラ神殿に戻るルキさんと職探しのオレは王都へ。
「それじゃあ、」
「まあまあ楽しかったわ。」
別れ際、未だちびっ子姿のカティがとんとオレの腕に収まり胸に顔を埋めてきた。
「カティ……。」
リヒャルトさんにめっちゃ睨まれているけど、別れを惜しむくらいいいよな?
オレもカティを抱く腕に少しだけ力を込める。
頼り甲斐があるような、ないような。
可愛げがあるような、ないような。
姉のような、妹のような。
側に居たら迷惑だけど、きっと居ないと寂しくなる。
「どうせなら大人姿に戻った時にハグしたかったな。」
きゅっとオレのシャツにしがみつくカティに、照れ隠しで囁く。
胸が仄かに暖かい。
まさか、涙?
「カティ?い……った!ちょっと!何してるんですかあっ??」
ぶん、とカティを引き剥がしてリヒャルトさんへ投げ渡す。
火傷のようにヒリヒリする胸を見下ろせば。
「くっそ!何やってんだよっ!おい、貴様、覚えてろよ!」
激怒したリヒャルトさんがオレに捨て台詞を吐いてニンマリ笑うカティを猫掴みしたまま翔び去る。
いやいや、カティに怒ってくれよ。
はだけた胸元に痛々しく残る紋様には見覚えがある。
「これって、まさか。」
「カティちゃんの言うところの魔王の下僕印ですね。」
「まじか!」
どういう制約があるんだよ?
ちらとアレクセイさんを見たら、あからさまに視線を外された。
「あのう?」
「すまん。詳細はルキウスに聞いてくれ。俺の口からは、俺の精神力が削られるから語りたくない。」
理由!
何それ、怖っ。
「だがまあ、これで晴れてお前も八将の一員だな。」
「八将じゃなくて九将じゃないですか。」
「ヒルダと入れ替えでいいだろ?」
いいのかな?いいか、ヒルダさんだし。
「はあ。それじゃあ氷帝の称号を貰っておきます。」
就活に肩書きが何も無いよりはいいよな?多分。
「トールう、また会えるか?」
「シグ。もちろん、会えるさ!」
「困った事があったら俺様を頼れよ?」
「わかった。ありがとうな。」
ええ子や!
「俺様も。」
「うん、」
「唐揚げが食べたくなったら逢いに行くからな!」
ははは。毎食来たりして。
「おう、任せておけ!」
「わっふ。」
ば可愛いなあ。
「アレクセイさん、シグを連れて行ってもいいですかね?」
「別に構わないぞ。今夜は高級ステーキだが。」
「じゃあトールまたなっ!」
ドヤ顔のアレクセイさんを引きずりながらシグがステーキ屋に走り去って行く。
「さあ、ボク達も行きましょう。」
ルキさんに促され、領主様が用意してくれた馬車に乗り込む。
ばたんと扉がしまり、直ぐに馬車は走り始めた。




