お家に帰るまでが冒険です 1
試練だとか神威だとか錬成だとか。
他にも気になるキーワードは山盛りだったが。
とりあえず今は戦争中だ。
何故そんな騒ぎになっているかといえば話は簡単だ。
金目のものである。
主義主張思想信条の余地は無い。
いっそ清々しいまでの欲望である。
ダンジョンコアの破壊と共に帰還したオレ達が見知らぬ冒険者と肩を抱き合い喜び合ったのはほんの一瞬だけだった。
足元に転がる無数のドロップ品。
「うおおおお!」
即座に血みどろの戦争となった。
バーゲン会場でおかんが参戦するタイプの奴な。
最初に独り占めを目論んで抜剣した者は、その分タイムロスをしていいポジションを取り損なった。
今はガラクタ混じりの宝の山を皆黙々と漁り中だ。
いや、ほんの一握り、周りを威嚇してお宝を集めているバカがいる。
「あ、その魔剣アタシのよ!ここ、ここは、あ、た、し、の!あーっ、その槍もあたしの!」
「その金塊はわいのや!触るな!そっちのも!」
「この肉は俺様のだからな!」
真っ先に威嚇しそうなヒルダさんの声が聞こえないと思いきや、端でコソコソと片っ端からバックヤードに仕舞っていた。
質より量を取ったらしい。
武器とか金とか肉とかじゃなくて解呪アイテムを探してくれ。
鑑定スキルを発動。
レア度三十以上っと。
くらりと目眩がした。
五十以上に変えてみる。
うはあ。それでもまだ目がしばしばするよ。
とりあえず手近な奴を掴み上げる。
「なんだこれ?こけしか?」
<『怨形』どんな加護もすりぬけて呪えるアイテム。末代まで祟ることも可能。>
あかん奴や。欲しくはないけどしまっておこう。
えーと、これは?目薬かな。
<『腐毒』 一滴地面に垂らせば水源まで毒水に変わる。>
…しまっておこう。要らないけど。
って、こんなヤバイ宝物をみんな好きに持ち帰って大丈夫なのか?!
鑑定、毒物呪い系アイテム。う、げ。半分以上に怪しげな呪がかかっているじゃないか。
「お、これは娘の土産に良さそうだ。」
待て待ておっちゃん。
それ人喰い人形って名前だぞ?
「女の子ならアクセサリーの方が喜びますよ。これなんかどうです?悪い虫を追い払うリングです。」
「まだ三才だぞ?」
「初恋はもう経験済みだと思いますよ?」
「そっちにしとこう。」
十回失恋する呪いアイテムだが、喰われるよりはマシだ。
娘さん、強く生きてくれ。
結局、呪いアイテムしか拾えなかったよ。
それでも幾らかは誰かに持っていかれたようだがもう知らん。
旅行の先々で殺人事件に巻き込まれる呪いとか、別荘に泊まると嵐で三日閉じ込められる呪いとか、風呂場を開けると必ず裸の異性がいる呪いとか。
…ラッキースケベは呪いなんだろうか。
極力ヤバイアイテムは回収した筈なので、それぐらいは大目に見てくれ。
「トールう!肉、焼き肉にしてくれっ。」
「トール、金の心配はもう必要ないで。わいに任せておきや!」
バックヤード持ちでない君たちがそんなに生肉と金属塊をあつめてどうする気だよ。
任されているのはオレだよな。
「リヒャルト?手を離しなさい?こ、れ、は!あたし、の!」
「はああん?自分よりデカイ斧を持ってどうする気だ?チビ。」
伝説級の武器はどうやらカティとリヒャルトさんが総取りしたようだ。
アレらもアレらで市場に出回るとヤバそうだものな。
他に回収するアイテムは。
「解呪アイテムは誰か回収したか?無効の指輪とか、伝説の宝箱とか。」
「「「え?」」」
「え?」
う、嘘だろ?
何のためにダンジョン攻略をしたと思っているんだ!
「肉が!」
「金が!」
「「武器が!」」
結局、一番高価な物と引き換えにして文左衛門さんがせしめていた解呪アイテムを譲って貰いました。
世話をする代わりにバックヤードを使う契約もヒルダさんと提携済み。
流石商売人だ。
ちなみに呪いアイテムは固辞された。
オレだって要らないのに。
「ルキさんは何か拾えたか?」
「ボクはコア戦に参戦してませんからね。」
「いやいや、近所の子供たちも拾いに来てたぞ?」
冒険者達より余程目利きで、高い魔石を狙って拾っていたよ。
「実は記念に一つだけ。」
ふふっと悪戯な笑顔を浮かべて握っていた掌を開く。
「………イケメンはぜろ?」
「いきなり何ですか。酷いなあ。」
「それ、老若男女全てにモテる護石。」
「あ、要らないかな。トールさんにあげましょうか。」
「………石のおかげでモテるのもやだ。」
男にはプライドがあるんだよ!
「充分モテていると思いますけどね。」
確かに肉と金塊を惜しんだ獣人と竜人が足元でメソメソしているが、これはモテている内に入れないで欲しい。
仕方なしに二人の頭を撫でながら宥めていたら。
「それを寄越せ!」
「やあねえ。人の物ばかり欲しがって。浅ましいー。」
「ざけんな!このクソ女、」
はいはい。
こっちの二人は少しくらいめげて欲しい。
卑猥語が出る前にリヒャルトさんの口を封じておこう。
沈黙の呪いのお札を背中にぺたり。
「………!」
うわー、リヒャルトさん身体硬っ。
もじもじと背の張り紙を剥がそうとしているが当分取れそうにないな。よしよし。
「で?ダンジョン攻略の次は魔王戦か?あんまり虐めるなよカティ。」
「解呪アイテムを奪おうとしてきたのよ。あたしは悪くないわっ。」
「リヒャルトさんも呪いにかかっているのか?」
「あたしが八将につけた下僕印を消したいんだって。全くありえないわね。」
「………!!!」
「火に油を注ぐなよ。リヒャルトさんも、武器ばかり漁っていたせいですよ。自業自得です。」
「あ、そうだ。アレクセイの分ならやってもいいわ。」
「それは駄目ですって!」
駄目、だよな?
美人さんのままでもオレ的には目の保養だけど。
「駄目だ!アレクセイは俺様が治してやるんだ!」
うん、その割には肉しか集めてなかったよね、シグたん。アレクセイさんの事忘れていたよね?目が泳いでいるよ。
「何か揉めてはりますか?よかったらもう一つ、売りましょか?」
文左衛門さんがえびす顔かつ揉み手しながら寄って来た。
「さっき散々足元見られて、レア物は残っていませんよ。オレの拾得物以外は。」
「どちらかと言えば追加で拾ってやって欲しいんですわ。」
「何をです?」
「その鬱陶しい輩を。」
「ええのんか?!」
がばりとシャイロックさんが身を起こし、期待に満ちた眼差し、かどうかは細目なので判別しにくいが、まあそんな雰囲気でオレの答えを待っている。
「吉備団子あげましたっけ?」
「ホゲ?おにぎりを貰った。」
「…そんなにお握りが気に入ったんだ。」
「唐揚げも一生食わせてくれ!」
「はいはい。唐揚げも気に入ったんですね。」
「あと、服も貸してくれ。」
「また文無しですもんね。」
「う。」
見事に固まったシャイロックさんを拾いました。
バックヤードに仕舞えないけどな!




