インプリンティング 5
宿まで尾けて、もとい、送り届けた。
時折天人がこちらの様子をチラ見てくる。
分かってるちゅうねん。
刷り込まれている今、ヒルダよろしくトールの足に額ずいて縋り付いてシグの様に抱っこして貰いたい。
頭沸いているのも分かっているだけに、そんな醜態を街中で晒したく無い。
だけど、構われたい。
「中へ入らないんですか?」
うろうろしていたら入り口で警戒していたルキウスが見兼ねて声をかけてきた。
「入っていいんやろか?」
「はあ。いいと思いますよ?」
「いいんか?トールに抱きついて擦り擦りしてもいいんか?」
「それは、ドン引きされると思いますが。それくらいなら、大丈夫、かなあ?」
「攫って行って一生監禁してもええか?」
「はい、アウト。退場。」
分かっている。ダメなん、分かっておるから。
「…一生、わいの為に唐揚げ揚げてくれって言ってもあかんか?」
これならどや?
「言い直しても拉致監禁コースでしょうが。それよりも。」
ルキウスがちらと背後を伺う。
「あー、すまん。片付けてくる。」
そこそこ人気者なんで困るわ。借金取りやろか。賞金稼ぎやろか。
「穏便に済ませて下さいよ?」
「えー、無理ぃ。」
「トールに言いつけようかなー。」
「誠心誠意対応してきます。」
その後はばたばたと過ごす羽目になり、夜明け前にトールの寝顔を拝めたが、それもほんの一瞬でまた慌ただしくダンジョン攻略のクエストに向かう。
それが再会の約束のない長い別れになるとも知らずに。
「お前、獣臭いなー。」
「おっちゃんはトカゲくちゃーい。」
「おっちゃんやない!おにーちゃんや!あと、トカゲいうな。」
「すみませんすみませんすみません!」
低層階での子守クエストをこなす。
依頼主からすみませんを何回聞かされたことか。
そんな謝罪は要らないから報酬上乗せして欲しい。
「こら、マントの下潜り込むな!」
「だってコレちくちくしてやだ。やすもの。」
「すみませんすみません、」
「トールの匂いに獣臭が混じるやろが。しばくぞ。」
「トールってだあれ?」
「トールは、」
会いたくて、つーんと鼻の奥が痛くなる。
「わいの…オカン?に、なってくれる人や。」
「へんなのー。」
変なのは、分かってるからスルーしろ。
「おっちゃん、またねー。」
魔方陣が光って煩い餓鬼が消えた。
「二度と会うか、ぼけえ。」
ずっと抱っこしていた重みが消えて、寂しいとか、無いからな!
トールにされたい事を全部したったけどな。
されたい事って。
おはようからおやすみまでつきっきりで世話をして、もちろん、寝てる間も添い寝。
一瞬も目は離さなかった。
子守、パーフェクトすぎるやろ。
最後親が自信なくしておったわ。
はあ、とため息をついてからボス部屋を再攻略して現れた魔方陣に魔石を充てがう。
次は後衛担当で七十階待ち合わせだったか、面倒くさ。
「悪い、少し待たせたようやな。」
「あ、ああ、いや、大丈夫だ。」
「えーと、あんたらに付き添うて百階まで行けばいいんやったな?」
三日も待たせたと思うのに文句の一つも言ってこないとはええ人らや。
「その事なんだが。実は回復薬ももう尽きて、この通り武器も壊れてしまった。あんたを巻き込んで悪いんだが、なんとかこの階の出口まで行って、攻略を中止するつもりだ。手を貸して欲しい。」
「………。」
それって、クエスト不達成ってことになるのやろか。
「報酬はちゃんと支払う。」
「金くれるならどっちでもええねんけど。次の待ち合わせが一週間後に百五十階で、ちょっと押してるねん。でな。前の仕事がはよう片付いたのもあって、さっきまで先行して百階まで掃討してきてん。」
「え、」
「ドロップ品は拾ってへんよ。再湧きもあまり無いと思うんやけど、どないする?」
「い、いいのか?」
「悪いな、勝手して。あと、勝手ついでに前衛させてくれ。つうか、あんたら武器持たんといて?まとめて片付けてしまいそうやし。」
「は、はい!」
同じようなやり取りを他の依頼主とも繰り返し。
二百階まで潜ってもトール達は追いついて来なかった。
おかしい。
嫌な予感がする。
クエストを終えて脱出するパーティについて、久しぶりに外界へ戻った。
「青光り?は?二千階に跳んだやて?」
ばたばたと人が倒れる音がした。
あ、すまん。
つい激昂して爪先まで逆鱗生やしてしまった。
死屍累々となったギルドの中を動くもの数名。
おー、流石や。まだ、動ける奴おるんか。
「お前、何しとんのや!」
「げ、ブンザ。」
「う、鱗仕舞って下さいー。」
胸ぐらをひっ掴まれたままのギルド職員がきゅうと目を回しながらもっともなアドバイスを寄越した。
深呼吸して鱗を引っ込めると、よろと倒れていた連中が立ち上がる。
おお、みんな青息吐息だっただけか。よかった。
「丁度ええわ。ブンザ、トール探すの手伝え。あと、あんた。」
よろめき伏すどころかこっちに殺気を飛ばしてきた男を逃さぬよう、ヒルダ直伝の土下座をかます。
「すまん、手え貸してくれ。あんた変身魔族やろ?その魔力が欲しいねん。」
逃さへんで。
額は床に擦り付けながらも、生半可な奴では息も止まるくらいの殺気を突き返してやる。
「<冥府の使者>…。」
「久々に呼ばれたわ、そん名前。」
ちろと見上げたら、顔に三つの掻き傷を持つ男。
トールをぼかりと殴ったあいつか!コロス。
ぎんっと二重に結界が張られた。
一つは目の前の男。一つは、さっき動けていたもう一人の奴。
「ギルド内での揉め事は御法度だよ。」
「いや、ギルドマスター。俺は絡まれていただけだぞ?」
「見事な土下座させておいて通用するとでも?出て行け。」
「いや、」
「出て、行け。」
すごすごと男が出て行く。
「騒がせてすんませんでした。コレも外に捨ててきます。」
ブンザが床にのたうっているわいを引きずってゆく。
三の目突っつくなんて、酷い。
「ブンザあ、姉貴に言いつける。自分、虐められたって。それか、手伝って。」
「子どもか。」
「トールに会いたい。会いたい。会えないんだったら、他に八つ当たる。ケモ耳駆逐する。」
特に犬耳は八つ裂きや。
「あん?貴様、今なんつった?ケモ耳は正義だろうが!」
先に放り出されていた酒場の店主がふいと変身を解いて噛み付いて来た。
「…えーと。あんた誰やっけ。」
見覚えがあるような。ないような。魔族の黒髪がトールを思い出させて切ない。
「ふん。戦場以外で会う日が来るとはな。八将黒帝といえば思い出すか?トカゲめ。」
「誰がトカゲやねん。思い出したわ。噛ませの黒やん。おー、懐かしな。元気しとったか。ほな、ダンジョン行こか。」
「貴様、人の話を聞け!誰が黒やんだっ、リヒャルト様と呼べ!」
「黒やんの大事な魔王とへっぽこ氷帝も中におるで。」
頭の沸ききった自分と、頭の沸いたリヒャルトと、頭は冷えているが戦闘能力は微妙な文左衛門とで即座にダンジョンへ潜った。
一応、八将を名乗るだけありリヒャルトの魔力のおかげで千階層後半に直接乗り込めた。
死ぬかと思った。




