インプリンティング 4
小金稼ぎに冒険者ギルドへ向かったらトールの姿を見つけた。
ついて来いと言われてないのについて来たと鬱陶しがられたらどないしよう。
思わずフードを目深に被り柱の影から見守った。
しばらくして、しょぼと肩を落としたトールがギルドから出て来た。
何があったんだ?
ツカツカと中に入っていき、手近にいた奴にトールの様子を聞くとクエストを請け負うか悩んでいたらしい。
掲示板に行って、クエストを眺めれば殆どがメンバー募集の依頼だった。
わて以外とパーティを組むだと?ありえへん。
トールが戻ってきたら困るのであるだけのクエストを請け負う。
低レベパーティの引率とかしょもないタスクもあったが、小銭積もれば小金というし一石二鳥や。
「シャイロック様はプラチナタグをお持ちですよね?本当にこのクエストも受けられるのですか?」
丁度掲示板を眺めている時に貼られた子守クエストもまとめて剥がして受付に行ったら十回念押しされた。
「竜人だとあかんとは書いてない。」
「それはそうですが…。」
なんでもちょっと前に来た奴が子守についてぼやいていたのを耳にした冒険者が、違約金を払ってクエストを中止するかわりに子ども連れでクエストをこなす事に決めたとかどうとか。
そんな話どうでもいいが、要は子ども負ぶってダンジョン潜ればいいんやろ?
ギルド併設の酒場でたむろしている依頼主らを捕まえて、諸々調整をする。
「はあー。大した額にはならへんな。」
仕方ない。
金策はそこそこにトールを探すことにした。
トールの足取りを辿り喧騒の街並みを暗い方へと進む。
なんでこんな剣呑なとこに来てるねん。
気配を押し殺して歩けば、獣人に比べると小柄なので呆れる程絡まれた。
いっくら気を抑えているからって、竜人の匂いぐらい分かるやろ?
「トカゲの兄さん、ここ通りたかったら通行料を、ぐはあ!」
はー。また無駄な者を殴ってしまった。
誰がトカゲや。
面倒だから逆鱗をばっきばきに生やしておく。
出来る子なんやで?わし。
血行が良くなっているのか、身体がぽかぽかする。
暑いので袖を捲ろうかと腕を見たら手の甲まで鱗痕が出ていた。
やばいやばい。
こんなに出してたら流石に子守はできひん。
つうか、気の弱い奴なら殺気に当てられて頓死ぬレベルだ。
トールも含めて。
きょろ、と辺りを伺うが周りに人影はない。
皆、逃げられるぐらいには度胸があったらしい。
元々物騒な界隈だったのが幸いした。
「丁度ええか。少し剥がしとこ。」
トールの御守りにもなるし、売れば結構いい値がつく。
巷に出回っている逆鱗は『某が竜人と闘った際に剥がした鱗』とかのキャプションがついているが、実際には金に困った竜人が自ら売りさばいている。
そうそう逆鱗を生やした竜人をどうこう出来る者はいない。
とは言え、ささくれ毟る程度にはこ痛いから皆あまりやらないけどな。
『ぺり』
う、痛い。
もーほんと、痛いの苦手やねん。
はいはいする先に敷物ひかれて。
こけた身体の下には必ず座布団があり。
今ならわかる。
あほみたいに過保護に育てられた上、諸々の能力が竜人の中でもずば抜けて高い。
文字通り怪我をする程痛い目に遭ったのは。
(主に捕まっていた時…。)
悲しくてすうと逆鱗が消えかけたので慌ててべりっとまとめて剥がす。
「あ痛った!」
あと、魔王にぼこられた時と勇者にぼこられた時と猫城蹴っぽった時くらいか。
「あああ、凹む。」
トールに癒されたい。
薄汚れた扉を押し開いて店に入る。
一癖も二癖もありそうな輩達がぴきりと固まってこちらの動向を伺う。
そのあからさまに意識して避けられた視線の中をうっそりと進み、一番奥の席につく。
よっこいせと手を机についてから大抵この手の店は卓上を拭きもしないのでべたべたしている事を思い出し、また凹む。
長らく汚れはすぐに拭って貰えるのが当たり前だったので手が汚れるのは不快だ。
が、予想に反して机は綺麗だった。
(へえ、)
店主がやってきて酒瓶を一本置いて行く。
安くて不味くて度数が高くて、毒が混じればすぐに判る、裏稼業で一押しの酒だ。
まあ、毒じゃなくて普通に酔い潰れる事はあるんだけどな。
凹む。
ちびりと飲むが、やっぱりただのクソまずい水みたいでちっとも酔えない。
流石竜人、酒もお強いと煽てられ。
十本干したら記憶が飛んだ。
気づけば水牢に浸けられていて。
だ、大丈夫や。
九本目までは酔わへんもん。
ぶるりと嫌な記憶を振り払ったところで固まった。
いつのまにかトールが向かいに立ってお代わりはどうのこうのと話しかけていた。
お代わり?ご飯?作ってくれるのか?
不意打ちに泣きそうになる。というか、泣いた。
いやもう正体明かしてトール連れて帰ろう。
唐揚げ作って貰おう。
おにぎりも食べたい。
とりあえずこのみっともない顔は見せたくないから手の動きで一旦追い払う。あ、哀しくて断腸したわ。ぐはあ。
眉間に皺を寄せたら店主が慌てて寄って来てゴツと音がする程、トールの頭を叩いた。
その音を聞いて。
カッと頭に血が上り、逆鱗生やすどころじゃない、額に第三の目が開いたと思う。
これ開くと空間が歪むんで対魔耐性の強い高位魔術師とか年嵩の魔族とかじゃないと大惨事案件となる。
だからくれぐれも気をつけるようにと言われていたのに。
やらかしてもうた。トール、無事やろか。
即、三の目は閉じて、自覚はあるいつもの細目でそおと辺りを伺う。
あれ?
普通やん。
店主に睨まれた。
あいつ、変身魔族か。結界でも張ってくれたんやろか。
すまん、おおきに。
その後凹んでいる間に竜人がいると聞きつけたらしい輩達から面倒な仕事を二、三押し付けられ、更にルキウスに見つかってめっさ叱られた。
メソメソと十歩背後に離れて帰路に着く。
楽しそうに歓談しながら歩く二人に、というかルキウスにまた三の目が開きそうになる。
か、ら、あ、げ。
トールから揚げたての唐揚げの味見をさせて貰う事を妄想しながらなんとか自制する。
ふーふーあーん、て食べさせてえな。
もぐもぐごっくん、褒めてえな。
それでもって口の周りを拭き拭きして。
ぐはあ。インプリンティング、もおやだ。ほんま、勘弁して欲しいわ。




