インプリンティング 2
意識の無いトールを担いでエルフの郷に転がり込む。
何でもするから助けてくれ、と叫んでいた。
竜人ともあろう者が、対価も契約もなく、何でもすると空手形を発行してしまうなんて。
エルフの驚愕と、その後の怒涛の「何でも」な頼まれ事は思い出したく無い。
温厚かつ他者に思い入れのないエルフから本業に関する頼まれごとはされず、胸をなでおろす。
しかし、その他の頼まれ事は容赦なかった。
主に肉体労働。
ぼてぼてのエルフ達にこき使われて鶏ガラの如く痩せた。
意識の戻ったトールが何故か玉ねぎ眼鏡をくれた。
奇妙な面を被ったトールが久しぶりに料理を振る舞うというから、楽しみにしていたのにエルフどもにみんな食われた。
ちょい逆鱗を出してエルフの郷を壊滅させようかなと思ったら裏で魔王にぼこられた。
(ううう、トールはわいのやのに、何でや!…違う。そやない。やばい。)
日に日に自分がおかしくなっていくのが判る。
魔王軍と戦っていた暗黒時代を思い出しへこむ。
早々にルキウスには気づかれ洗いざらい白状させられた。
「とにかく、トールさんに黙っているのなら、シグちゃんを睨むのはやめて下さいね。」
「せやな。あのチビはなんも悪くない。」
で、も、な。
トールに可愛い可愛いと甘やかされて懐いているチビ犬を見たら。
「も、トールをどっかに閉じ込めたい。」
「シャイロックさん?」
「さもなきゃ、犬を捌きたい。」
「とりあえず、トールさんから貰ったパンツおすそ分けしますから。これで我慢してください。」
「えらいおおきに。」
そのルキウスの発案で狐耳をつけたらトールが目頭を押さえて喜んでくれた。
こん、と語尾につけたら更に喜ばれた。
もうこれでいいやん、と理性を飛ばしかけたところでまた魔王にどつかれた。
「す、すまん。」
「あんたねー。いっそトールに事情を話して可愛がって貰ったらー?」
「そんなん、姉貴らにバレたらトールの身が危ないわ。絶対あかん。」
もー、ほんと難儀やわ。
トールに守護神がついた。
とりあえず祓おうとしたらまた魔王にどつかれた。
度々すまん。
「…こういう訳で、トールに執着してますねん。なんとかならんやろか?」
「尊い。」
「許しますわ。」
「末永くそのままで。」
「姐さん、ちょっとこん神様ら祓いたいので手え貸してえな。」
「気持ちはわかるけどー。女神様達も?グレた竜人抑えるのは大変なんだから?」
「「「えー。」」」
えー、じゃねえよ。
ほんと頼んますわ。
「でもねえ、竜人の刷り込みは種の保存に関わる本能ですからねえ。」
「そうそう、本来は生まれたての竜人が危険行動を起こさないように、」
「保護者の言いつけを守る為で。…貴方、一体何人から刷り込まれてますの?」
「はい?おかんとトールだけちゃいますのん?」
「他にも、身内かしら?」
「そおねえ。」
うぐぐ。心当たりがありすぎて辛い。
「生まれた時に母親と姉三人と祖母二人と曽祖母四人に餌付けされてますわね。」
待望の男児誕生だったんだよ。それは過保護に育てられたとも!
「それから。あら、珍しいわね。人間に刷り込まれているなんて。」
反動でグレてうろついていた時に捕獲されたんや。
「心の傷をえぐらんといてえな。」
「あとはトールね。」
えぐるだけえぐってスルーか。
「…竜神がお前は危なっかしいから、目付けがつくぐらいで丁度いい、ですって。」
「子どもやない!」
「子どもじゃないのにねえ。冬眠して餌付けって、どんだけ温室育ち。」
「ぷふ。」
あかん。泣いてもいいやろか。ぺこんぽこんや。トールみが足りない。
いや、そうじゃなくて。
「ほんま、どないせいちゅうねん。」
「別にー?このまま引っ付いて歩けばいいんじゃない?トールは底抜けのお人好しだから疑問にも思わずにあんたに餌を与え続けるわよ、きっと。」
そうやろか。
ちょっと想像してみた。
十年後、二十年後、百年後……。
案外、いけるかも?
トールはアホやからな。
お握りも美味いし。
まー、なるようにしかならんか。
もそもそお握りを食べていたら金の話になっていた。
い、今、金の話はやめてくれ。
ほぼ文無しやって。
エルフにぼったくられて買わされたエリクサーはトールの役に立ったけど。
我ながら情けない顔で立ち尽くしたら、トールが何を思ったか破顔した。
ルキウスは兎も角、まとめて売り払うやて?
竜人の執着舐めんなや?
こん大陸道連れに心中したるわ!
カッと逆鱗あらわに叫ぼうとしたら魔王にどつかれて地面にめり込んだ。
痛い。
流石にやり過ぎちゃいますん?
一応、竜人の中でも二つ名持ちなんだけどな。
魔王と勇者の両方に喧嘩売って、そこそこ伝説になっている筈なんだけどな。
…負けたけど。




