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インプリンティング 1

 うかつだった。

 調子に乗りすぎた、とも言う。

 お前は詰めが甘い、とか、ちょろい、とか、へたれだ、とかまあ言いたい放題に身内から評されるのを毎度なんでやねんと憤慨していたのだが。

(あかん。誰か助けに来て欲しわー。)

 地下牢に閉じ込められてからどれだけ経ったのだろうか。

 もう自力で立ち上がる事も出来ない。

 息巻いて、同族の誰にも告げずに来たことが悔やまれる。

 猫族ぐらい大した相手ではないと思っていた。

 実際、大した事もなく、標的の王に近づけたし。

 なのに、小金好きを煽られて簡単に理性を飛ばし逆鱗で暴れて自滅した。

(あほやな。)

 回想すればするほど、落ち込む。

(腹減った。)

 なまじ生命力が強い竜人は多少の飢えでは死なない。

 が、腹は減るし、辛いは辛い。

 この先何年もしおしおのままここに囚われていなければならないのか。

(腹減った。)

 しかもだ。

 ここで干からびていれば、いつか誰かしら身内が助けに来る。

 早く助けて欲しいと願う反面、出来れば姉には来てもらいたくない。

 絶対。

 絶対の絶対に。

 馬鹿にされる。

 冬眠でもしていれば、多少楽にしのげるのだが。

 助けが来た時にぐーすか寝ていようものならば。

 絶対の絶対の絶対に。

(それだけは堪忍や!)

 やっぱり助けは要らない。

 と、思った先から早く助けて欲しいと思った。

 へたれすぎる竜人、シャイロックは痛む身体と空きっ腹に、それから三日だけ辛抱してからウトウトと冬眠に入った。


 がんっ、と大きな物音がした。

 びくり、と、それ以上に剣呑な気配に叩き起こされた。

 寝起きのぼうっと霞む世界に、再び、がんっと音がして鉄扉が壊された。

 ゆっくり鼓動が戻る。

 冷え切った体温を上げようにも、熱源となる物が無い。

 つかつかと近づく気配に圧倒され、無理矢理覚醒を促される。

 姉達に匹敵する、否、この人とあの人だけは別格だったと思い出す。

 敵わない相手は多々あれど、あの人の逝った今、この人に勝てる者など居ない。

 冬眠を気付かれたか、埒もない話を声掛けられる。

(はいはい、今起きますよって。)

 鼻先に出された食いもんを奪われて、つい恨めし気に睨む。

(鬼畜か!)

 仕方ない事とはいえ、泣きそうだ。

 と思ったら、再び食い物が鼻先に来た。

 思わず手を伸ばして、食いついた。

 魔王が目をパチクリと瞬いてからニンマリとするのが見えた。

(やっちまったあああ!)

 目の前に黒髪の男が愛想笑いをしている。

「カティもあんたを助けたくてここまで来たんだ。腹が立っただろうけど、大目に見てくれよ?」

 大目にだって?見れるかボケェっ何さらしてくれとんじゃ!

 …とは言えない。

 よりにもよって、コレ?コレですかい?姐さん。

 ちらと魔王を見るとぷふと笑われた。

 酷え。

「大目に見てもええですが、なんぼ出せますか?」

 そう返したら男は物凄い間抜け面で固まった。

 そのあと渡されたポーションは毒を食らわば皿までなので有り難く飲み干した。

 幸いな事にトールと名乗る男は竜人の習性を知らないらしい。

 こちらの事情に、気づいてもないようだ。

 助かった。

 冬眠明けの餌付け、インプリンティングされたなんて。

(はーもう、自分が嫌になる。ちょろすぎだろ、自分。)


 とりあえずついて行く事にした。

 いざとなったらトールを姉達に差し出そう。

 …魔王のお気に入りみたいだけど。

 姉貴、頑張れ。弟のピンチだ。

(頑張って、くれるかなー。)

 よりにもよって長命種の魔族に魅入られてしまうとはつくづく、間抜けか。ああ、へこむ。

 前回人間にインプリンティングされた時はアレクセイが解放してくれたが、話を聞くと炎帝の覚えもめでたいらしい。

 シグを人質に取れば、こっちについてくれるかな?

 いや、そもそも、トールの不利益になる事は出来ないんだけどなー、ははは。

 そうこうしている間にブンザに出くわした。

 即座にインプリンティングされた事を気付かれ、めちゃくちゃ説教された。

 で、トールを処分すると言われたから必死で止めた。

「そんなんされたら後追うたるわ。」

「刷り込まれとるだけや。安心しい、絶対せんわ、そんなん。」

「じゃ、先逝く。知らんやろけど、ほんま、辛いねん。」

 魔王が勇者とやり合っていた頃。

 とある人間に飼われていた時期があった。

 冬眠もインプリンティングも拷問混じりの無理矢理で、その後の扱いも奴隷相当で魔王軍と戦わされていた。

 それでも主に声をかけて貰えれば、それが罵声でも嬉しくて。

 腐ったような残飯でも、手づから餌を与えられれば額ずいた。

 インプリンティング、怖い。

 同じように隷属させられていたらしいアレクセイがある日ブチ切れて暴れた。

 勿論、駆り出され、戦わされようとした矢先、主が目の前で亡くなった。

 あの時の絶望は、偽物だと理解していても、今思い出しても、涙が出てくる。

 インプリンティング、やばい。

 あの下衆の最期に、まだ泣いてまう。

「トールは割といい奴なんや。それに、インプリンティングにも気づいてないねん。しかも魔王のお気に入りやねん。姉貴ら束になっても、かなんよ?竜人滅亡するからやめたって。」

「魔王も来ているのか?」

「ここにはおらんけど。」

「さよか。」

 すう、とブンザの目が細まる。

 ごめん。トールに手を出すなら反撃するわ。

「流石にその脚では止められんやろ?」

「でも、あかん。手え抜かれへんよ?そもそもあいつは雇い主やもん。金ももろうてるし、守るんが当たり前や。」

「…金、受け取ってんのか?」

「せや。」

 竜人を雇うには端金だけれども、金は金だ。

「あほか、お前は。」

 生半可には雇われないけれど、いざ、雇われたら何がなんでも任務を遂行する。

 竜人の掟であり、守らぬは恥どころか同族から狙われる。

 竜人の契約は崇高だ。

 主たるトールから金を受け取るのはなんとも気まずかったが、貰っておいて良かった。

 どうせ端金なら小銭でも良かったんだけど、ヒルダに奪われてしまった。

 ちっ、ヒルダめ。

 トールにあまりひっつくな!

 トール、嬉しそうだな。

 やっぱりぱいおつ最強か。畜生。

 早くトールの側に行きたいな。


 舌先三寸で奪ったエリクサーを惜しげもなく渡してくるお人好しぶりに、しぶしぶブンザも見逃す事を首肯した。

「しゃあないな。様子見にしとくか。」

「おおきに。はー辛い。インプリンティング、ぱない。ブンザ、でかぱい売ってへん?」

「知らんわ、そんなん。」

 全くだ。

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