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ノクターン 5

 しゅ、と今度こそ伸びてきた本物の触手はいともあっさり斬り落とされる。

「惚けている場合か!」

「惚けてるわけや無い!びっくりしただけや。」

 ぐに、とオレの背を足場にした男が誰かに怒鳴り返し、また触手を斬り落とす。

 背中から降りてくれ、シャイロックさん。

 心の声が聞こえたか。

 ご丁寧にも一際強く後頭部を踏みしめてから、背の重みが消える。

 痛むおでこを摩りつつ、視界を上げると。

 灰色マントを翻しながらシャイロックさんが戦っていた。

「シャイロックさんっ?!なんでここに、」

「リヒャルトっ?!なんでここに、」

 オレの声に被さって、カティが驚愕の声をあげた。

 リヒャルト、と呼ばれた男の返事は割愛する。

 ほぼほぼ<ぴー>音でかき消されるような発言で大した内容はない。

 そのリヒャルトのえげつない一撃で魔獣の躯体に風穴が開き、ごうと倒れた。


 舞い上がる土煙の中からゆるりと人影が現れる。

 ナイフを両手に逆刃持って佇むシャイロックさんは、猫城の牢で会った時の様に窶れ、細目の片方は眼帯に覆われ、なお頬を抉る傷痕が隠しきれずに表情を分からないものにしていた。

 その背後でカティを睥睨する男がリヒャルトなのだろう。

 背にぼろぼろの翼を掲げ、無造作に縛られ垂らされている髪は黒色。

 半ばこちらに背を向けている為、顔つきは分からないが。

 若干草臥れているものの、この人もまたイケメンオーラが眩しいことこの上ない。

「お。お宝や。魔石も大きいな。」

「文左衛門さん!」

「はいはい、わてもおりましたよ。」

 すみません、今気がつきました。

 せっせと転がるドロップ品を回収してから、おもむろにぼこんばこんと立ち尽くすシャイロックさんとリヒャルトさんをどつく。

「トールさんやったか。エリクサー残っておまへんか?こん人ら、そこそこ大きい怪我負ってますねん。」

 その大怪我している人達を今思いっきりどつきましたよね?文左衛門さん。

 二人とも声もなく地面で悶えてますが。

「ど、どうぞ。」

 エリクサーを差し出したら、文左衛門さんがまず飲み干した。

 おい。

「…誰があたしをピーしてピーして、ピーするって?ほーっほっほ。」

 カティがリヒャルトさんの背で仁王立ちて高笑いしながらびしゃびしゃと頭に水、否、エリクサーをぶっかけた。

 オレも慌ててシャイロックさんの口元にエリクサーの小瓶をあてる。

「起きて下さいシャイロックさんっ。なんだか分かりませんが、カティとリヒャルトさん?を仲裁して下さいっ。」

 文左衛門さんにとどめを刺されたシャイロックさんがこくりこくりと、エリクサーを呑み込む間にも復活したリヒャルトさんがカティの細首を鷲掴む。

「けほっ、アホ言うなや。魔王と風帝のタイマンに割って入れってか?」

「でも、」

「何をなさるんですか!」

 自分の実力は承知しているのであくまで他力本願なオレを余所目に、ルキさんがリヒャルトさんの腕を抑えた。

「はあん?貴様、こいつの、」

 つんつんと袖を引かれて横を見ると、シグが、キラッキラした目でリヒャルトさんを見ていた。

「なあなあ、あいつ、何て言ってるんだ?ピーのピーのピー?」

 即座にシャイロックさんの両手を借りてシグの耳を塞いでからオレはリヒャルトさんに飛び蹴りをかました。

「うおっ、な、なんだ?」

「小さな子が居るんだ。品の無い言葉を垂れ流すのは辞めてくれ!」

「小さな?はぁ?コレのことか?」

 馬鹿にしたようにカティの頭をポンと叩く。

「違う。あの子の、ことだ。恥を知れ!」

 びしっとシグを指してやる。

 全くいい歳の大人がなんてザマだ。

「……小さいか?アレ。」

「可愛いだろう。」

「可愛い?」

 訳も分からないまましゃがみ込みシャイロックさんに耳を塞がれて、ふぁさふぁさ尻尾を振っている。

 うん、可愛い。

「シグ、なのか?」

「シャイロック、ちっさくなったな!」

「いや、あんたがでかくなったんだが。」

「俺様は元に戻っただけだぞ?」

 きょとんと小首を傾げる。

 大事な事なのでもう一度言っておこう。

 シグたん可愛い。

 毒気を抜かれたリヒャルトさんがカティの戒めを解く。

「ふーっ。あんた、あたしを殺す気?」

「いや。ピーして、っと、もういい。」

 はあああ、とリヒャルトさんが深いため息をついた。

「ヒルデガルドはどうした?魔獣の餌になったか。」

 とんっ、と翼を広げ宙に浮かびあたりを見回す。

 はい、すらりと手足も長いイケメン兄さんです。ジャンルはおらおらヤンキー系。

 クールビューティなアレクセイさんを筆頭に、マッチョガイのシグ、ダダ漏れ色男ルキさん、細目アルカイックなシャイロックさん。

 もう美形はお腹いっぱいだ。

 まあ、それぞれにおっさんとかわんことか甲斐性なしとか、小銭スキーとかの残念な属性が付いているんだけれどな。

「見つけた、ヒルデガルド!」

「り、リヒャルトっ!何故ここに?!」

 おー。ヒルダさんも無事だったようだ。

「はー。腹も減りましたわ。なんぞ、食いもんありませんか?」

「文左衛門さん。いらしたんですね!」

「だからさっきからおりますて。」

 文左衛門さんは。

 よし。誰が見ても美形じゃない。

「再会できて大変嬉しいです!」

「ようわかりまへんが、なんか腹が立ってきますわ。」

「減ったり立ったりどないやねん?トール、あれや、お握り食わしてくれ。」

「任せて下さい!女神様、例のブツを召喚して下さいっ!」

「分かりましたわ!」

「出でよコンビリお握り!」

「大人買い!」

 ふっふっふ。

 ビリオネアとなった今、お握り召喚ごときは児戯に等しいのだよ。

 ふははは!


 高笑いしている一瞬の間に、お握りは全部なくなりました。

 絶望した。

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