ノクターン 3
読了感が悪いので二話まとめて投稿しています。
「はぁ、はぁ、」
カティの小さな肩が上下する。
汗を拭う暇もなく、頭を一振りして剣を握り直しギンと魔獣を睨み据える。
オレ達の前に現れた魔獣はより小さなカティに狙いを定め咆哮を上げた。
「ふ、ふ、風刃の盾ぇ!」
おっと、声が裏返ってしまった。
「何処に出しますの?」
お願いです、空気読んで?
などと反論の暇も無く、魔獣がだむと走り出す。
「我らと魔の狭間に出でよ風刃の盾!」
厨二全開で叫ぶオレを笑いたくば笑うがいい。そして、ここ来て代われ。
突如現れた風の刃にそのまま走り込んだ魔獣がバラバラと崩れて消えた。
こてん、ころころころ。
ドロップした黒曜石のような魔石が足元に転がる。
拾おうと腰をかがめたオレの上を、何かが通り抜けた。
「次、来てるわよ!」
カティの忠告に被さり、背後で爆音が轟く。
「な、な、な、何、」
「魔弾。掠めたら吹っ飛ぶ。」
何そのドッヂボール、怖い。
「砂塵、えーと、えーと、何だっけ?」
「何って何?」
「砂忍の必殺技!」
「知らないわよ!」
ですよね。
さっきは咄嗟に昔読んでたラノベの呪文を唱えたのだが、今回の忍者漫画は読み込みが足りなかったのかど忘れした。
「えーと、えーと、砂をばしゃーって撒いて魔弾に当てて暴発させて下さい!」
厨二も恥ずかしいが、これはこれで頭の悪い子やな。ぐはぁ。
「って言うか、脳内覗けるんだから無音声展開して下さいよ!」
「お前の脳内は『怖い』の連呼でよく聞き取れませんわ。」
「…。」
は、反論出来ない。
めちゃくちゃ怖い。
今の体勢は、さっき魔石を拾おうと屈んだまま、いや、正直に言う。
魔石の上にorz体勢で腰が抜けたままである。
「光魔法なんかで魔獣を一掃出来ませんか?」
「地面も融解しましてよ?」
「ソーラービームかよっ。」
剣と魔法の世界なのに妙に物理的なんだよな。
「浄化の光的なヤツを想定しているんですが。」
「駆除剤撒いたらお前達もイチコロですしねえ。」
「怖い怖い怖い。」
ぶるぶる震えるオレの鼻先にころんと魔石がもう一つ転がってくる。
そして。
「カティ、横だ!!!」
一体屠って、はふと息を吐いたカティの隙をもう一体の魔獣が追撃する。
二千階層のティラノと大きさは変わらないが触れるだけで切り裂かれる鋭く尖った鱗とその隙間から滲み出る毒液。
複眼で死角もなく、背には鞭のように自在に動く触手が四対も生えている。
遠隔で魔弾を打ち込んできたり連携攻撃する程に狡猾で、しかし、連携の相棒を捨て駒にして襲撃する程に獰猛な魔獣。
カティの瞳がキュッと細まり、魔獣がその触手をざっと振り上げる。
どくん。
一本目の触手がカティの足に絡まる。
どくん。
二本目の触手はカティが切り落とす。
どくん。
三本目の触手がカティの首に絡みつく。
どくん。
四本目の触手と、足に絡まる一つ目の触手を切り捨て、更に首の触手も。
どくん。
残り四本の触手が。
どんっと背に衝撃を受け、またルキさんが倒れてきたのかと首を捻る。
「う、あ、」
みり、と背から腹へ抜けた触手が腰に巻きつき縊る。
「「トールっ!」」
シグとカティが対峙していた敵から剣の向きをオレに変え、腰に蠢く触手を切り落とそうと足を踏み出す。
魔獣は無論一瞬のその隙を見逃すはずもない。
「がはっ。」
尾で叩かれたシグが肉を裂かれながら宙に舞う。
カティの上にはただただ巨大な口が、獲物を貪り食べんとがばり開かれて。
なんですか、その爽やかな笑顔は。
魔獣の涎べったべたに浴びながら、やっちゃったわテヘペロッて、あんたそんな可愛い性格じゃないだろう?
流石に詰んでます。
やばいです。
まずいです。
ダナス神様、まじ、助けて?
『っと、ちょお、そこ正座な。』
はあ。この眩しさは、また神界ですか?
『確かに神頼めとは言った。見てやるとも言った。確かにな。だがな?』
フレンドリーダナス様がフレンドリーに怒っている。
『誰がフレンドリーダナスだ。君ね、一度本当に神罰与えようか?』
そんなお手間を取らすなど滅相も御座いません。是非、放置で。
『この際、放置してやるのも温情かもしれないなー。』
光の中から温い眼差しをひしひしと感じた。
『とりあえず現状を客観的に把握して見ようか。』
はあ。
ポムと一枚の絵が宙に浮かぶ。
男が背と腹から触手を生やして、右手を天に掲げているスチル。上半身と下半身の角度がおかしい。
再びポムっと絵が浮かぶ。
少女と思しき足が魔獣の口から一本はみ出してぶらぶらしている。
ポム。ポム。
次の絵は犬の尾を生やした男がうつ伏していた。その身体の下には不気味に広がる赤黒い沼。
もう一枚の絵には白い翼と盾だけ。
ははは、ヒルダさんはやっぱり無事みたいだ。
助けてって祈ったのに!
助けてって願ったのに!
今度こそ、走馬燈なのだろうか。
忘れていた、否、封じられていた断末の記憶が蘇る。
お前で最後だ、と。
そう、閻魔様だって言っていたじゃないか。
記憶が戻っても、人類滅亡の理由なんて分からない。
隕石が降って来たのか、宇宙人が攻めて来たのか、未知の病気のパンデミックか、核戦争でも起きたのか。
あの日。
いつもよりも充実した思いで布団に入って。
次に目覚めた時は瓦礫の中だった。
待てども救助どころか人の気配すら無く。
何かに押し潰されてぴくりとも動かない身体から、幾度助けてと叫んだだろう。
疲れ果てて気を失いながら、ようやくこれで楽になれると死を覚悟したのに。
意地悪な運命は再び起きた大地の揺れが片脚を奪いながらも躰を瓦礫から解放しオレを生き延びさせる。
やっと這い出た外の世界に生き物は見当たらず。
なまじ都会に住んでいた分、累々と横たわる屍の間をさすらった。
既に生の食材は腐り、水道を捻ってもごぼと異臭のする濁り水が出るだけだったが、そこここに備蓄されていた非常食は豊富だった。
分け合い奪い合う生存者はいつまでたっても現れず、幾年でも尽きる心配は無かった。
実際、数ヶ月は独り生きていた。
死に際の記憶は今度こそ朧だ。
何かの病に倒れ、這うように崩れ落ちた病院へ向かった事までは覚えている。




