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ノクターン 2

 ごく普通の家庭で育ち、ごく普通のサラリーマンだったオレに有効な大金の使い方など知るよしもない。

 未踏と思しきこの階層は前に周回した二千階層が初心者向けと思えるほど兇悪なモンスターがぞろ湧き、カティからして窮鼠のごとく、オレに至っては文字通り死に物狂いで武器を振るい神々にヘルプを願う。

 その結果、幸いにも未だ仲間の欠ける事もなく、ストレージは伝説級のレアアイテムのドロップ品でどんどん埋まっている。

 さほどレアではないアイテムも換金すればそれなりの金額で、女神様がせっせと貯蓄している為、残高は兆を超えたらしい。

 転生チートktkr!

「この闘いが終わったら松坂と米沢の食い比べをするんだ……。」

「無駄口叩いている暇あったら攻撃魔法の一つも唱えなさい!」

「いや、オレ、魔法禁止だし。」

「あたしが許す!」

「「「駄目ですわ!!!」」」

 むぎゅりと三女神が顔に取り付き口を塞ぐ。

 死ぬ、呼吸、死ぬから!

 どん、と背中に強い衝撃。

 ルキさんが目を回したままオレごと撃沈する。

 武器は笑顔のみのルキさんに盾役へジョブチェンジして貰っていたのだが、ほぼ紙装甲、いや装備の盾は神レアですがいかんせん腕力がね。

 ルキさんと盾ごしにオレは引鉄をひく。

 猟銃などではない、安くて丈夫で初心兵でも扱える自動小銃だ。

 使う度にカティが実に嫌そうな顔をするのが心苦しい。

 この世界で一度は軍を率いた彼女に、やはり銃は受け入れ難いんだろうか。

 前世の平和教育の賜物で心理的な抵抗はオレにもかなりあったのだが、背に腹はかえられぬ。

 モンスターを一掃してへたり込みながらカティの沙汰を待つ。

「それ、使うなって言ってるの。」

 倒した魔獣の返り血やらで全身どろどろに汚れたカティが案の定真っ先に文句をつけてきた。

「あーうん。ごめんな。怪我はないか?」

 サーラ様に目配せしただけで驟雨が皆の汚れを落とし、風が身体を温め乾かして負った小さな傷を癒す。

 今回の襲撃も何とか無事に乗り越えた事にほっと息を吐く。

「カティ、この階層だけにするから大目に見てくれ。」

「はあ?それ、寝言?寝言よねっ。」

 容赦なく小銃は没収される。

 また後で女神様に取り寄せて貰うか。

「次、使ったら腕ちぎるわよ?」

「…冗談、ですよね?」

 あまりに冷ややかな口調に思わず確かめると、魔王様がドス黒い笑みを浮かべた。

「や、でもあの、」

「なあに?」

「…ソレがないとオレ、戦力外になりますが。」

「それも寝言よねっ。さあ、起こしちゃうぞ!」

 言葉の軽快さと裏腹に上がる口角は悪魔のごとし。

「起きてます!起きてますからっ。」

「元気ですねえ。」

 ルキさんの盾を拝借し、急所を隠していると気怠い声で呆れられた。

 まあ、声も出せないくらいへたばっているシグやヒルダさんよりは元気なんだけれども。

 それはやはり剣を振るうより銃という武器の性能差ゆえだと思う。

「彼我の戦闘値差を解消する為の飛び道具使用ぐらい大目に見てください!何も一方的に虐殺、は、結果的にそうなってはいますけど結構毎回綱渡り的だし。大量に流通させて子どもを兵士にしたてようとかそういう事はしませんから。あくまで私的利用です。」

 元の世界にはもっと兇悪な大量破壊兵器だってあるんだからな!使い方分からないけどっ。

「へえ。コレ、子どもでも使えるの。ふうん。」

「いや、あの。」

 カティが自分の身長ほどの銃身を器用に掲げ、いつの間に覚えたのかタタタと掃射する。

 藪の向こうで何かが獣鳴をあげ、どうと倒れる音がした。

「あら、もう次の奴らがやって来たのかしら。兎に角、コレ、禁止ねっ。」

「だけどっ、」

「コレで倒したらお宝がドロップしないじゃない。」

「は?」

「コレで倒したら、」

「大丈夫です。耳は聞こえています。そうなんですか?つーか、問題、ソレ?」

「異界のモノで異界のモノを倒したら討伐報酬は出ませんのよ。」

 イリア神が今更な事をのんびりと教えてくれた。

「異界のモノ?」

 世界設定に関わる話のようだが、詳しく聞いている暇は無い。

「もー、いやああああ!」

 ヒルダさんの悲鳴を皮切りに、魔獣の群れが再び襲いかかる。

 仕方なくこの階層でドロップしたての雷鳴剣なる魔剣を取り出しオレも見よう見まねで構える。

「っショボ!」

「仕方ないだろっ、オレの魔力じゃこんなもんだってえええ、うひーっ!」

 振るえば轟く雷鳴は大地を震わすほどの音量だが、剣の纏う雷は静電気程度。

 カティが持てば、サトシの相棒並みにばんばん雷を飛ばすんだが。

「キャンっ!」

 シグがルキさんの背後から威勢だけよくキャンキャン吠えているが、尻尾は股の間だ。

「たーすーけーてえええ!」

 ヒルダさんの悲鳴はいつも通りなのでスルー。

 鑑定スキルと強運でいつも満身創痍ながら誰よりも無事という、彼女については心配するだけ時間の無駄だ。

「これ、剣でどうにかなるレベルですかっ?」

「どうにか、なろう?」

 ニタリと笑い、カティがばさりと魔獣を両断する。

「いやいやいや、こんな『なろう』は無理!女神様っ助けて!」

「今とっても忙しいですわ。」

 忙しい?と声の方を見やれば、血走った眼のケモ耳マッチョが本能のまま華奢な青年をかき抱き、背の翼を鷲掴まれた青年は苦痛の表情を浮かべつつも獣人の抱擁を受け入れている。

 魔獣にびびったシグたんが力任せにルキさんへしがみつき、翼を折ってしまったようだ。

 女神様、腐っている場合じゃないですから!まじ助けて!

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