ノクターン 1
預金残高が百億円を超えました。
三ヶ月余かかり階層出口のボス部屋にたどり着き、懐かしのカア子を再召喚してボス魔獣と闘って頂きました。
そして瞬殺されたボスに代わって鎮座してしまったカア子と睨み合う事十日程。
飽きたのか何なのかふらりとカア子がボス部屋を出て行った隙に、魔方陣へ魔力を流し込む。
「何故、ここなんですか!!!」
魔方陣がペカリと輝いて飛ばされた先にはミノタウルスが待っていた。
「だって、伝説の宝箱欲しいんだもん。」
当然、脱出するか、せいぜい千階までは戻ると思っていたのは。
…オレだけみたいだな。
手慣れた仕草でルキさんが結界魔方陣の描かれたブルーシートを広げて座り込む。
「もしかして、あれがドロップするまで帰れない感じ?」
「そうですねえ。魔族も天人も長命種ですし、シグちゃんも今は成長が止まっていますから。時間は沢山ありますねえ。」
ギコギコそそくさと防災グッズの手回し発電機でゲーム機の充電をするルキさんを横目に溜息をつく。
ミノタウルスを倒して表に出れば広い広い草原だ。
セスナの免許でも持っていれば別だが、あいにく普通免許しか無い。
また三ヶ月かけてオフロードのドライブか。
連続踏破の影響か、心なしモンスターの出現率が下がっていた。
その分ドロップ率も下がる訳で。
結局二周目は二ヶ月かからず踏破出来たが、宝箱のドロップは無し。
次は四千階まで跳ぶというカティに後生だからと泣きついて、更にこの階層を周ること五周目。ちなみにラップタイムはルキさんが運転を覚えたおかげで半月にまで短縮されている。
「や、やったああああ!」
弁当箱がドロップしました!
「俺様、今度は焼肉弁当が食べたい!」
「お座りっ!」
流石に同じミスはしない。
慌ててシグをルキさんの腕に押し付け、宝箱を死守する。
「うっふっふっー。もう願いは決めてあるんだ。」
にんまりとカティが歩み寄る。
「人類撲滅とかは駄目ですからね?」
「そんなの、わざわざ願わなくても出来るでしょうが。さあ、宝箱よ!わたしの願いはっ。」
ごくりと息を呑む。
もし、非道な願いならパンと叫んで先に開けよう。
「お前と同じ、伝説の宝箱を百個出しなさい!」
ずびしと、カティ。
ドヤ顔もここに極まれりだ。
あー、でもそれな。
「それじゃあ、それで、開けてみて下さい。」
「宝箱っ、一万個下さいなっ。」
めっちゃ要求が増えていますが。
「くぬ!あ、開かない……。」
「願いが認められないみたいですね。」
「何でも叶うんじゃないのっ?」
「容量制限があるんじゃないんですか?」
「あるのかないのかどっちなのよ!それじゃあ神秘の腕輪を五個寄越しなさい。それくらいなら入るでしょ?」
「開きます?」
「ぐぬぬぬっ。」
神秘の腕輪が何かは存じませんが、開かないんですね。
「願いは一つか、一個の様だ。」
隣でヒルダさんが変顔を始めたから何かと思えば鑑定スキルを使っていたらしい。
オレも鑑定中はあんな顔なのかな?気をつけよう。
「特盛牛丼を一つ、」
「ゴルァ!」
ヒルダさん、何しようとしてるんですか!
「ちっ。仕方ないわね。」
元氷帝に土下座をさせている隙を突いて再びカティが箱に手を伸ばす。
今日、人類は滅亡しちゃったりするのか?やばい!
焦って覗いたカティの顔は、だが、ひどくつまらなそうで。
さわりと草原を吹き抜ける風に混じって幼い少女の舌足らずな声が響く。
「アレクサンデルシグムンドの解呪を願う。」
小さな手が躊躇いなく箱を開ける。
すこんと開いた箱の中は空っぽで。
「…シグちゃん。随分と、」
ルキさんの困惑した声に振り返ればイケメンホストが全裸のマッチョ獣人に押し倒されている完全にRな構図。
「おい、シグ?」
硬直した女性陣はガン見に忙しいだけなので放置だ。
女神様達は羽ばたきを忘れて墜落していたが、それでも瞬きすらしないで見つめています。
一方のシグは姿が戻って歓声を上げるかと思いきや、ルキさんの上に乗っかったまま動かない。
「シグ?大丈夫か?」
「痛い!痛い痛い痛い!尻尾痛い!」
ぽん、と肩を叩いたとたん、シグが悲鳴交じりに号泣する。
慌ててエリクサーを尻尾にぶっ掛けようとして気づく。
破れた子ども服の小さな尻尾穴がシグのフサフサと立派に育った尻尾に食い込んでいる。
女神謹製の縫い目だけほつれなかったようだ。
自力で下から這い出てきたルキさんと二人掛かりでギャン泣きのシグを宥め押さえつけ尻尾穴を破り包帯を巻いて、身に合うサイズの服へ着替えさせた頃にはヘトヘトだった。
「ちびっ子シグたんも可愛らしかったですけど、これはこれで。」
「魔族×天人も王道ですが、いかんせんトールは普通すぎますものね。」
「キングオブ凡人の称号を差し上げてもよろしいですわ。」
女神様がた、そろそろルキさんのジト目に気付いておこうか?
「カティ、」
「何か文句ある?」
「大有りだ。解呪するなら一言報せてくれ。シグの尻尾が禿げただろ。」
「はいはい、ごめんなさーい。」
「それと。ショタシグたんを最後にハグしておきたかった。」
オレよりでかいマッチョ青年に戻ってしまいお兄さんは哀しいぞ。
しょぼんと肩を落とし猫背で尻尾にふーふー息を吹きかけている姿は、それでもまあ神可愛いんだけど。
しかし抱っこはもう無理だな。
「はいはいごめんねー。」
「そう思うなら。」
ひょいとカティを抱き上げて頭を撫でまくってやる。
「ちょっと!何すんのよっ。」
「シグの解呪、ありがとな。」
「は、」
もがいていたカティが間の抜けた顔で固まる。
「次はカティの解呪だな。この際、宝箱十個ぐらい手に入れておくか、はははは。」
ドロップした魔石やら何やらを女神様に渡し換算した結果、預金残高は百億円を超えました。
三つ目の宝箱は未だドロップいたしません。
そして、今出てきた部屋には4726階の表記が。
「ここから生還出来る気がしないんですが…。」
「大丈夫じゃない?多分ねっ。」
…額に浮かぶ汗はよもやまさか冷や汗では無いですよね?魔王様。
オレ達の冒険はここから始まるんだ!どうかまだまだ続きます様に!
『はいはい、一応見守っておくよ。』
あざっす!ダナス神様!




