伝説のコッペパン 4
陽はまた登る、えー本日も晴天なり。
「やりましたよ、トールさん!ついに伝説の勇者の剣を手に入れました!」
ウニクロのスエットを着て天人族を駄目にするソファーに埋もれたまま二つ折り携帯ゲーム機をフリフリ見せびらかすのは若干もちもち肌が復活したルキさんだ。
「あーっっっ!抜かされたあ!」
「ほーっほっほっ!げ、落ちた!」
二人で出来る携帯ゲーム機でヒゲ兄弟の車遊びを仲良くプレイしているのはシグとカティ。
「みんなそろそろ日没だぞ。片付けてくれよ。」
「えー、もうちょっと!」
「また後で幾らでも遊べるだろ。」
この階層に跳んでからそろそろひと月が経とうとしていた。
昼は草食系モンスター、夜は肉食系モンスターが襲って来る為、まともに移動出来るのは日の出日の入りの空が茜に染まっている正味二時間ほどしか無い。
その移動時間以外はカティの描いた魔方陣の中でだらだら過ごしている。
勿論、シグが大人しく待機する訳もなく、最初のうちは外で兎モンスターや羊モンスターなんかを狩って遊んでいたのだが、調子に乗って夜の肉食モンスターに挑み瞬殺されてからは引きこもり気味だ。
とはいえ、狭い空間では間が持たず仕方なしに女神様にゲーム機を召喚して貰った。
ゲームは一日三十分、って言いながらもついつい子守が楽で、実質無制限になってしまっている。
依存症はエリクサーで治るんだろうか。
「ヒルダさんも片付けて下さいよ。」
「何故われだけ花を作らなければならないのだ。」
「手に職をつけましょう?造花を作ってバニーガールの格好で売れば金持ちになれますよ?」
「…本当なのだろうな?」
「本当ですとも。オレの元世界の億万長者は大体造花作りですよ?アーティスティックかつファンタジックな職業です。」
「億万長者…。ふっ、こんな物、われにかかれば、」
「やる気出したところで悪いんだけど片付けてくれ。」
「…はい。」
オモチャと内職道具と駄目ソファーを片付けてから最後のモンスターが帰路につくのをしばし待つ。
「ルキさん、そっちの端を持ってくれ。」
静かになった草原で、ルキさんと魔方陣の描かれたブルーシートを畳む。
そうしてから。
「じゃ、みんなシートベルト締めてな。」
こちらもお取り寄せしたオフロード車に乗り込みキーを回す。
アクセルをべたりと踏み込んだトップスピードのまま、遮る物のない草原を突っ走る。
鑑定スキルで見つけた出口のボス部屋は未だ遥か彼方だ。
日没ギリギリまで進んだら、早々に現れる魔物と競争で車から飛び降りブルーシートを拡げて、また夜明けを待つ。
「気のせいかもしれませんが、日に日に猛獣度が上がってませんか?」
うっかり外のTレックスもどきと目線が合い、思わず敬語でカティに問いただす。
「出口が近いんじゃなーい?」
「いえ。まだまだ半分も踏破出来ていませんが。」
「じゃ、そ、ゆーことなんじゃない?」
「そ、ゆーこと、とは?」
「まだまだおっかないのがー、出てきちゃう?魔方陣もつかなー。」
てへぺろで誤魔化すなあああ!
「大丈夫ですよね?」
「えー、わかんなーい。」
カティが可愛く小首を傾げる。
べしんと、レックスの尾が地面を叩く。
べしん、どしん、べしどし。
「あー、こいつ頭いいわ。」
「こ、この魔獣、なんか地面を掘ってませんか?」
「そうそう。魔方陣を地割れで崩そうとしてるわねー。」
「ひっ。めっちゃ賢いじゃないですか!」
さして時間も経たないうちに周りの地面はボッコボコで、ブルーシートの下も若干グズグズになっている。
「流石、異界の宝物ですね。ただの敷き物とは違って丈夫な…。」
「ごめんっ、ちょっとケチった。これ百均の。」
ホームセンターの分厚い奴じゃなくて百均ペラペラの物をガムテープで繋ぎ合わせました。
何故、そこをケチった?何日か前のオレ!
だってさ、使い捨てだと思っていたし、どうせ上にクッションとかラグを引くんだもん。
地面が揺れるたびに下草がざわりとブルーシートを下から突く。
「魔方陣を描いているモノがそんな容易く破れるわけ無かろう。」
ヒルダさんが冷ややかに指摘し、造花作成を再開しようとしたその時。
花材がころころと転がり、魔方陣の外へ。
ぐしゃりと潰される。
「あ、あ、あ!」
続けて花材の入った小箱がつつ、と外へ。
即、ぐしゃり。
「ちょっと!傾いてない?」
「うわっ!」
一際大きな咆哮と共に地面が揺れ、ふわりと身体が浮いた。
「と、トールさんっ。これはちょっと…。」
「ルキ、変身解除!ヒルダ、翼を治して。」
先ずルキさんの白い翼が生え戻る。
ちょんとその腕にはカティが収まり、二人がはたはたと宙空へ避難する。
「ひぃぃぃ!」
貴重なエリクサーをだらだらこぼしながら、ヒルダさんもなんとか翼を復活させる。
「トールも!」
「無理ですぅ!」
シグを抱いたヒルダさんが慌てて空へと舞い上がる。
ぽかりと広くなったブルーシートにオレは這い蹲りしがみつく。
ここから振り落とされたら一巻の終わりだ。
「め、女神様、も、逃げて、」
何故かルキさんではなくオレにまとわりついている三女神に舌を噛みながら訴える。
「馬鹿者め。こういう時こそ、神頼みをしなさい。」
「わたくし達はおまえの守護神なのですよ?」
「さあ、願いを。」
女神様達が女神に見える。いや、女神なんだけれども。
オレはがくがく揺さぶられながら声を振り絞って祈願した。
「助けて下さい、女神様っ。」
と。




