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先立つもの 3

 二十一世紀の日本出身にしては健脚な方だと自負している。

 田舎は車社会だろう、などと言われたものだが、それは国道がばんと通り大型商業施設とだだっ広い駐車場が水田を潰して建っているような地方都市を想像しているのだと思う。

 そんな生易しい田舎ではなかった故に頼れるものは自分の足だったわけで。

 とはいえ大学生の頃より八年余りなんだかんだで都会暮らしを続けた結果といえば。

「トール、もう少し早く歩けないか?これでは野宿になるぞ。」

「へぃ。」

 スタミナの問題もあるのだが悲しいかな、足の長さが違うんですよ。

 護衛をしてくれているダニエルさんの行商の荷は預かって収納している。

 剣一本下げただけの身軽格好なので余計に歩行速度は上がっている気がする。

 かくいうオレも手ぶらではあるのだが。

「仕方ない。少し早いが昼飯にするか。」

「やったぁ。」


 奇しくもそこはオレが山中からさまよい出て行き倒れてみた所だった。

 おお、懐かしい。

「それにしても鳥の姿すら見かけないな。これ、本当に貰ってもいいのか?」

「雷獣石ですか?もちろんです。どうせ獣は追い払えても悪人には効かないんですもん。オレは街中で暮らすつもりですしね。」

「それでも売れば楽ができるだろう。」

 確かにそれはそうなのだが。

「見ず知らずのオレのためにイノシシに出くわしたばかりの街道を夜通し走って薬を買いに行ってくれたんだ。せめてこれくらいは礼として受け取って下さい。」

「あんたは、」

 ダニエルさんが不思議なものを見ているような顔でオレを見た。

「…おかしな奴だな。」

「そこは奥ゆかしいでお願いします。」

「ホゲな奴だな、か?」

 わーお。奥ゆかしいっていう概念はないんかい。

 せっかくのちょっといい話が台無しである。


「トール、着いたぞ。」

「へぇ。」

 結局通りすがりの荷馬車に交渉して載せてもらい、なんとか宵の口に街へたどり着いた。

 街、と聞いていたからもっと大きな街を想像していたのだが、旅籠が何軒か並び、その周りにいくつか店が並ぶ宿場町のようだ。

 木賃宿に泊まり近くの飯屋で夕飯を済ませると早々に就寝した。

 夜明けと共に歩き出したから身体を横にしたとたん雑魚寝やカビ臭い寝具も気にならないくらい爆睡してしまった。



 えー、本日も晴天なり。

 朝市で露店を出すというダニエルさんに裏路地でこっそり荷物を返し、オレが向かった先は乗り合い馬車の駅である。

 この街のような馬車で一日分進む毎にある宿場の三つ先に領主城を抱えた都市があるらしい。

 つまり馬車に乗れれば三日目に着くのだ。

 木賃宿が一泊五百円。

 食事は酔馬亭の最期の宴会の残り物を貰ってきているので、それで賄えるか。

 ちなみに『円』ではもちろんないらしいのだが、一度『円』と認識してしまったためにもうそうとしか聞こえない。

 異世界っぽく『ゴールド』とか宛てておけばよかった…。

「あのー。領主城のある街まで行きたいんですが、幾らかかりますか?」

「クリーエルまでならこれで九千円だ。荷物は別料金だぞ。」

 荷台に椅子を作りつけただけの馬車を指して馬の世話をしていたにいちゃんがニッと笑った。

 的確に懐具合を見抜かれている。

「参考までにあっちは幾ら?」

 客車らしい客車のついた馬車を指してみると乗り心地が悪いからやめておけと言われた。

「一駅一万。クリーエルまでなら三万で出せなくは無いのかもしれないけどな。あんたや俺みたいなのが乗ると乗り心地がなあ…。針のむしろに居るようなもんだ。」

 オレの素敵な一張羅とにいちゃんの仄かに馬の匂いの漂う服を交互に指す。

 あーはい。格差社会ですねー。

「で、いつ出発しますか?」

「ああ、あんたが乗るなら丁度八人揃ったからすぐに出るぞ。」

 ふむ。

 ダニエルさんやライナー先生の娘さんに挨拶は出来なくなるが、この街にいても仕方がないしなあ。

「乗ります。荷物はありません。」

「うん?まさか手ぶらか。」

「はあ。あ、金ならありますよ。」

 隠しからぽち袋を出して払おうとしたら呆れられた。

「待っていてやるから弁当ぐらい買ってきな。」

 親切なにいちゃんだな。

「それも、一応持ってます。」

 懐に手を入れて、鶏肉のサンドイッチを出す。

 何を隠そう、懐からと見せかけて収納スキルで異空間から取り出した奴である。

 熱々のバターチキンカレーも取り出せるが、流石にスキルばれしてしまうのでここはあえてぱさついたチキンサンドだ。

「…ホゲだな。」

 にいちゃん、何言ってるか厳密には分からないですがそれ悪口ですよね?

「ホゲホゲなホゲだ。」

 あんまりホゲホゲ言われたら流石にイラっとしますが。

「まだあるので召し上がります?」

「いや、遠慮しとく。」



 馬車に揺られること三日。

 まもなくクリーエルの街である。

 ただ今の所持金三千円也。

 最後に立ち寄った宿場で座席を譲り、かわりに荷物置き場である屋根に上がってなかなかスリリングな旅を堪能している。

 その分、荷物料金に割り引いて貰ったのだが、馬車が跳ねるたびに落下防止にくくった縄が食い込んで新たな世界が開けそうだ。

「おーい、まだ着かないか?」

 屋根から御者席のにいちゃんに声をかける。

「もうすぐだって言ってるだろ。道が混んでるんだ。」

「馬車道でも渋滞するんだな。」

 家紋や屋号付きの馬車が通る度に待たねばならないらしく亀の歩みの体である。

「近いなら歩こうかな。」

「ああ、それがいいかもな。ここからなら歩いても小一時間ほどで着くさ。」

「そうか、じゃあここで降りるわ。世話になったな。」

「はいよ、毎度あり。帰路も是非使ってくれ。」

「残念。戻りは白馬四頭建の予定だよ。」

「ぶっは。まあ、頑張れや。」

 失笑混じりの激励、ありがとうございます。

 いやほんと、頑張らないとな。

 街には職安、もとい、冒険者ギルドがあるらしいので先ずはそこで日銭を稼ぎたいと思います。

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