伝説のコッペパン 2
無限ダンジョンというからには凶悪なモンスターや罠がぞろぞろ出てくるのかと思っていました。
「えーと。」
第一層目は洞窟風ダンジョンで薄暗くジメジメしたいかにもな作りになっていた。
落とし穴なんかもあって、最奥には物々しい扉のボス部屋まである。
あるのだが。
いかんせん人が多すぎて、ダンジョン感が全くありません。
入場制限した方が良いのではなかろうか。
階下に降りるパーティと登ってくるパーティでボス部屋なんか開きっぱなしだし。
人混みを掻き分けるという意味でやっとの事辿り着いたボス部屋に、さらに小一時間並んでからの魔方陣へようやくオン。
「うわっ?!」
不意に魔力を吸い出され硬直すると同時に足元の魔方陣が青く光って揺らぐ。
「凄え、蒼光だ!」
誰かの感嘆が微かに聞こえた。
身体が動かない。
強張る手でストレージから出した魔石を握り魔力を吸い出す。
「み、皆んな大丈夫か?」
視界が戻ってもなお暗闇の中で必死に呼びかける。
「とおーっ!」
シグの雄叫びだ。
「ひぃぃぃっ!」
ヒルダさんの悲鳴だ。
「ハンバーグ!」
カティの、何なんだ?
「トールさん、動かないで。」
おお、このほんのりと良い香りはルキさんか。
この体勢も何かおかしいが、そこはスルーだ。
「あ、でもちょっと膝からは降りて貰おうかな。足が痺れちゃって。」
…スルーしてくれ。
「一体何がどうなっているんだ?」
「カティちゃんがねえ。張り切って魔力を込めたんですよ。」
「嫌な予感しかしないんだけど。それで?」
「トールさんの魔力も魔方陣に吸い出されたみたいですね。」
「で?」
「割と下層階に跳んできたようですよ。」
「で?」
「着いたら魔物の群れが待ち構えていました。この辺りまで潜る冒険者も少ないんでしょうねえ。あはは。」
あははって。
闇に目が慣れると、オレ達の下にはぼうと揺らめく魔方陣。
そのすぐ外側に。
「ひっ!」
「大丈夫ですよ。魔方陣の中には入ってこれませんから。」
すぐ横にひしめく魔物達。
牛頭の半人、ミノタウルスか。
牛の枕詞はめんこいじゃなかったのか?!
眼は爛々と紅く光り、シックスパックどころじゃないもりもり筋肉。何故、牛に牙?
こいつら絶対草食じゃないよっ?!脂身無い安肉だよっ?!
「し、シグ達、これと戦ってるのか?」
返事を確かめるまでもなく。
「焼肉定食っ、ビーフシチューっ、ローストビーフっ!」
頼むから素直に心配させてくれ、魔王さま。
「オレも、」
「早まらないで。トールさんが行っても足手まといになるだけですっ。」
「っ!」
それは、そう、なんだろうけど。
「…ボクも戦えませんから。」
ルキさんが俯いて囁く。
そうか。ルキさん、神官は武器も持っちゃいけないんだったな。
この暗闇の中魔物に囲まれて、戦う術もないルキさんの不安はいかばかりか。
「わ、わかった。いざとなったらオレが、いや、オレは戦力外なんだけど女神様達に、…女神様達は?」
「女神様方はドロップ品を拾ってますよ。」
「そう、か。」
よく見えないが、そそくさと金目の物を拾っている女神様達の姿が脳裏に浮かぶ。
もう一人の落穂拾いの顔も浮かんだ。
「シャイロックさんも今頃がめつく稼いでいるのかな。」
金貨一袋の端金じゃ雇えないなんて言ってたもんな。
無理矢理旅の道連れにしたけど、つまりは愛想を尽かされたって事か。
「つれないよな。せめてお別れくらい直接言ってくれりゃいいのに。」
「…シャイロックさんの事を言ってるんですか?」
「うん。あー、くそっ。もっと胃袋掴んどくんだった!」
「餌付けは済んでいると思いますけど…。と、大分静かになりましたね。」
どこかでギギギと扉が開く音がした。
「さあ、ここからが本当の戦いよっ。」
燦々と輝く太陽の下、緑の草原がどこまでも広がっている。
その牧歌的な光景と真逆のスプラッタに染め上げられたカティとシグとヒルダさん。
転移部屋のミノタウルスを一掃したら、ようやくこの階層の入り口が開いた。
光につられてふらふらとオレ達が外に出た途端に、転移部屋が搔き消える。
その部屋が消える前に。
「2146階って書いてありませんでした?」
「細かいところを見ているのねっ。」
「指輪って千階くらいでドロップするんじゃなかったですか?」
「清々しい空気ねっ。」
「カティ?」
「あんたの魔力の所為でもあるんだからねっ?ここまで跳んだのは。」
「オレの魔力でどれだけ跳べたんです?端数分の六階層ですか?」
「階段三段分くらい?」
思った以上にショボかったです。
「ところで、あっちの方からモコモコが土煙りをあげて近づいて来るのですが。」
「さあっ、ここからが本当の戦いよっ。ジンギスカンっ!」
「ひぃぃぃ!」
一通りの食えそうな肉はゲットしました。
ヒルダさんが泣きながら描いてくれた魔方陣の中でオレとルキさんは一日中ほけーと魔王のジェノサイドを眺めていたよ。
「あ、終わったかな。」
「終わったみたいだね。あいたたた。」
多分ヒルダさんが一人で篭るつもりだった狭い結界に大の男二人で身を寄せ合っていたのだが、腰痛持ちにはさぞ辛かろう。あとでまたマッサージしような?
どういう仕組みなのかは分からないが、夕日が落ちて草原がオレンジ色に染まってゆく。
「今日は一歩も進めなかったなー。さ、夕飯でも作るか。」
「そうですね。お昼もおやつも抜きだったからシグちゃん、途中で生肉食べていましたしね。」
「寄生虫とか大丈夫なのか?」
よし、今夜は肉祭りだ。シュラスコにでもするか。




