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神々のやさぐれ 4

 表通りの健全そうな店から就活した結果、仕事にありついたのは裏通りの場末酒場だった。

 ちょっとしたポーションでも治りそうな刀疵をそのままにした強面の店主が無愛想にボトルで酒を出す。

 つまみは乾物オンリーで料理の腕のふるいどころもない。

 狭い店内のべたついた床を磨き、数少ない机を拭き上げるとあとはやることも無かった。

 こと酒に関してはばあちゃんの知恵もつまみや果実酒の作り方を教えてくれる程度で役に立たない。

 兄貴の蘊蓄の方はギムレットやマティーニの作り方をくだくだと呟いてくるが、カクテルをちびちび舐めるにはこの客層はいささか酒豪過ぎるようだ。

 蒸留酒生一本一択で、酒瓶からラッパ飲み。

 洗うコップも無い。

 じゃあ、ちょっと羽目を外して陽気になっちゃう客がいるかと思えば、そんな事もなく。

 何が楽しいんだか、皆、黙々と酒。

 ヒソヒソと密談している声に珍しいなと視線を向けたら、怪しげなブツと金貨の山を交換しているところを目撃してしまい速攻で店主の背中に隠れました。

「だから、仕事なんてねえんだよ。さっさと、」

「いやいやいや。空の酒瓶回収してきまーす。」

「っこらっ!」

 発音がゴルァ!って聞こえた気もしたが、気のせいだな。

 この店主さん、なんだかんだでオレに居座られている程度には人が良さそうだし。

「から瓶頂きますねー。お代わりお持ちしますか?何かおつまみもいかがでしょう?」

「……。」

 深くマントを被ったままの正体不明の客へ果敢に挑戦したが無言で追い払われました、切ない。

 店内でこの人だけそんなに体格がオレと変わらないから獣人じゃなくて人間なんだろうと思うんだけど。

『ゴンっ』

 店主の鉄拳がオレに落ちるのと、マント男から多分殺気が漏れるのがほぼ同時で。

「ひっ。」

 蛇に睨まれた蛙状態で店主にズルズル引きずられて退場。

 ありがとうございます、助かりました。

「余計なことをするな。」

 ひそ、と店主さん。

「特にあの客へは近づくな。」

「はあ。何者なんです?あの人。」

「詮索も、するな。というか、知らん。」

 だったらその後に何であんな大物が、とか呟くのやめてほしい。


「あ、お帰りだ。机片付けてきまーす。」

「行くな。座ってろ。」

「え、でも。次のお客様いらっしゃっいまし、」

「黙って座ってろ。」

 はあ。

 言われた通り店の奥で黙って座っていたら、ご新規の客が今はけたばかりの机にどかりと座る。

 客は転がる酒瓶を気にもせず、店主も心得たもので新しい酒を封切りもしないでサーブ。

 ものの数分で形ばかり酒を飲むと客は金貨を置いて出て行った。

 来た時は手ぶらだったのに何やら包みを持ってな。

「あれ、前の客の忘れ物じゃ、」

「黙って座って目も瞑っていろ。」

 あ、はい。そうします。

 目を瞑ると疲れていたのか本格的に寝落ちしてしまった。


 なんだか騒がしいなとぼんやり薄眼を開けたら、天使がいた。

 よりにもよって、あのダークすぎるマント男に何やら文句をつけている。あの人まだ居たんだ。

「ルキさん?」

「ああ、トールさん。起きました?」

「そのお客さんは、いや、いいからこっちに来て。」

「お客さん?」

 ああ、ルキさんもしっしと追い払われているよ。

「連れか?」

 店主があからさまにうんざりと尋ねてきた。

「はあ。旅仲間です。ルキさん、こんな所にどうしたんだ?あれ?翼は?」

「どうしたって、そのままお返ししますよ。ボクは貴方を探しに来たんです。翼は魔法屋に寄って変身魔法をかけて貰いました。」

「へえ。そんな店があるんだ。」

 背負った赤いリュックからは三女神がはみ出している。

 マント男を指差してケラケラ笑うのやめて?さっきから殺気がいたたまれないよ。

「迎えが来たならもう出て行け。」

「ええっ。でもぅ。」

 せこくバイト代をねだったら、金貨を一枚投げてくれた。

 おお、太っ腹あざっす。

 床に落とした金の音にマント男がまたイラッとしたみたいなので取り急ぎ撤収することにした。

「ダンジョン攻略終えたらまた遊びに来まーす。」

「二度と来るな!」

 とか言いながら外まで見送りに来てくれる店主さんは、やはりいい人だと思う。熊耳最高!



「あ、ちゃんと付いて来てる。」

「誰が?熊さん?」

 なんか落としたかな?

「トールさんって無自覚キャラなんだねえ。」

「はあ。色々やらかした実績はありますが、故意では無いので勘弁して下さい。」

 心当たりがあるようなないような。

 とりあえず謝っておこう。

 そうだ。

「女神様、金貨一枚稼いだのでお賽銭受け取って下さい。」

「あら、白金貨じゃない。」

「白金貨?」

「金貨十枚分の価値があるんですよ。トールさん、一体あそこで何をしてきたのかな?」

「は?いやいや、床を磨いたくらいで。」

 破格のバイト代だな。暗くて間違えたんだろうか。

「返して来た方がいいかな?いいよな。」

「やましい事はしていないんですね?」

「してませんとも。」

 やましい事どころかほぼ惰眠を貪っていました。

「やましくないお金なら、」

「「「毎度ありー。」」」

 すっと金貨が消え果てた。

「さあ、まずはルキの腰痛回復を祈願するのよ。」

「それは構いませんが、一応、お幾ら分の願いですか?」

「七千円分ね。」

 マッサージや整体のような金額設定だな。

「週二コース半年分前払いなら一回六千五百円でお得よ。」

「まんま施術料じゃないですか。いいです。宿に戻ったらオレが揉みますよ。」

 限界集落出身は伊達じゃない。

 こちとらハイハイのお年頃から爺婆の背中を揉んできたんだぜ?

「願い事はオレが決めていいんですよね?そもそもこれからダンジョンに潜るんで、お賽銭分の安心安全をくれぐれもお願いします。」

「えー。その願いー?」

「あー、もう。願われたら。」

「取り消せないからね?」

 は?

 ピコンと久々のお知らせ音が鳴る。

<白金貨一枚分の安心安全祈願を受け付けました>


 クーリングオフ制度はありませんでした。まじか!

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