神々のやさぐれ 2
仕方ない。ここはシグの為にも清舞決めるぜ。
「ヒルダさん。貸してあるお金、耳を揃えて返して下さい!」
「もへ?」
ヒルダさんが慌てて両手に残っていた食べかけお握りを口にねじ込む。
まるでハムスターの様な頬だ。
癒されないけどな。
「むへへまへん。」
「オレの財布で買い物しまくってましたよね?」
「もへあ…むぐ。あれは、トール殿からの貢物的な?」
「はあ?貢ぐわけないでしょうが。むしろ施し?」
「あ、じゃあ、ソレで。」
あ、しまった。
ヒルダさん、満面の笑顔でもう一つお握りのフィルムを剥がし始める。
とは言え、そもそもヒルダさんが金を持っているわけないか。
残念ながらオレの懐は目下ヒルダさんの事を笑えない状況だ。
多分シャイロックさんも。
原因はエルフである。
オレは王都での稼いだ貯蓄叩いてエリクサー用の瓶を買い、シャイロックさんも定価でエリクサーを買っていたからな。
ルキさんもあの風体で私財を持たない真面目神官だし。
となればあとはアレクセイさんから預かっているシグの旅費か。
それか、魔王に借金?
んなの、もれなく女神様ごとけつの毛まで毟られるバッドエンド必須だ。
カティがニンマリと金貨の詰まった袋を取り出してちゃらっちゃら音を鳴らしている。
足元を見る気満々だ。
となれば。
「シグ、焼肉はもう少し我慢してくれ。シャイロックさん、」
「な、なんや?金は、無いぞ?」
無い、と言った一瞬だけへにょった眉にギャップ萌えしたわ。
いける。この男なら大丈夫。
「もうすぐでダンジョンですよね?」
「ああ。あんたが倒れんかったら今ごろとうに着いていた。」
「面倒をおかけしました。で、ダンジョンの入り口には巨大マーケットが出来ているんですよね?」
「金、無いからな。」
「知ってます。稼ぎましょう。」
「…わての売りもん、もう全部飲まれましたわ。」
「それはお返ししますって。あれ?オレ言いませんでしたっけ?」
「アホ言うなや。あんな大瓶、売りに出したら軍隊押し寄せて戦争や。」
「あー。エルフもそんな事を言ってました。大丈夫です。今回の売り物はルキさんとシャイロックさんですから。」
あとヒルダさんにも一肌脱いで貰おう。
物理的にじゃないぞ。
精神的に、いやむしろ猫を被って貰う、だな。
「ひう、」
あ、あれ?
呼吸が出来ない。
「落ち着きなさい。そもそもトール如きがあんたをどうにか出来るわけ無いでしょ?」
「ぷはっ。すーはーすーはー。」
ああ空気が美味い。
じゃなくて。
「シャイロックさん?!なんで地面にめり込んでいるんですか!」
ヘニョ眉は無事ですかっ?!
ひくひくとシャイロックさんがカティを指差す。
分かります、もう、分かりましたとも。
犯人はや、こほん、カティですね。
「くおのばばあ!一度ぎったぎたに叩っ殺す!」
お、意外に元気だ。
「逆鱗も仕舞えない殻付き竜人如き?おーっほっほ。次ばばあ言ったら月まで蹴り飛ばすからね。」
「もー。何喧嘩してるんですか。この先一緒にダンジョンを潜るパーティメンバーですよ?仲良くして下さい。」
「はっ。あんたがそれ言うか?」
「トールさん。いくらシグちゃんに焼肉を食べさせてあげたいからって、ボクとシャイロックさんを売るのは困るよ?」
「駄目、ですかね。ルキさんの笑顔とシャイロックさんのヘニョ顔と仕方なくヒルダさんにも男装してもらってホストクラブ、いけると思うんだけど。」
「「「ホゲクラブ?」」」
あら可愛い。
キョトンとカティまで小首を傾げている。
「こっちには無いんですか。えーと、見目麗しい男性がもてなす店です。」
「男娼館ってこと?」
「だん…うえええ?!ち、違いますからっ。飲食店ですっ。すんません、流石にそれは失礼ですよ。変な誤解をさせて御免なさい!」
そりゃ逆鱗出すし困るよね。はい。
「わては青市に並ばされるかと思いましたわ。」
青市?あああ、奴隷商もいるんだっけ。
「重ね重ね御免なさい。って言うか、オレがそんなんするって思われていたのが心外です。」
「それは。あれや。ヒルダによく言うてるやん?」
「それは、あれです。ヒルダさんですから。」
「そら、…せやな。」
「はい。」
うーむ。
最近知り合ったばかりのシャイロックさんは兎も角も、ルキさんとはそろそろ胸襟開いた仲だと思っていたんだが。
この人達はオレの事を仲間を売り飛ばす下種だと思っていたのか。
「気にすることないわよ。」
「カティ…。」
「あたしはあんたの事信じてるわ。」
「ありがと、な。」
「いつだってあんたの、味方よ?」
「はい。下心見え見えでも嬉しいです。」
「ちっ。」
舌打ちするなら金をくれ。
後に思い返せばオレの盛大な空回りが始まったのはここから、と言いたいところだけど多分アレクセイさんの無謀な依頼を真に受けてカティやシグの保護者を自称したあたりから既に空転甚だしかったのだろう。
むしろ。
同じ転生者のよしみでオレをこの世界へ馴染ませてくれようとしていたのかな。
ふう、とため息をついてからレジ袋に一つ残っていたお握りを手に取る。
『焼きタラコ』
…買ったこと無いや。
異界で食べる初めての故里の味は。
「せめて明太子が食べたかった……。」
焼きタラコに罪は無いがそれでも何故お前は黙って焼かれたんだと問い詰めたい気分、分かって頂けるだろうか?
もそもそお握りを齧るオレを皆んなが見守っている事にも気付かず、焼かれタラコにぶちぶち心中で文句をたれ続けたのだった。




