神々のやさぐれ 1
「愛と豊穣の女神フローラよ。」
豚の着ぐるみが言った。
「水と風の女神サーラよ。」
ニーハイが続いて名乗る。
「大気と精霊の女神イリアよ。」
女神が言った。
「わたくしだけキャラ立ちしていないんだけど、どういう事なのかしら?」
「や、紐は動きにくいかなと。そうだ、アホ毛とかいかがですか?」
「仮にも女神の分身に向かってアホ毛などと、…それ、悪くないわね。」
ぴょんと髪が一房重力に逆らう。
御本人はしごくご満悦であるが寝癖にしか見えないな。あ、ルキさんとお揃いだからいいのか。
御三方、女神像とは打って変わった魔法少女の小ぶりな使い魔サイズ。ころんころんの二頭身だ。
サーラ神のニーハイ絶対領域は残念ながらぽっこりお腹が悪戯して毛糸のパンツが見えている。
フローラ神のピンクなもふもふはヒルダさんの豚鼻のインパクトが強すぎて二番煎じにしか感じられない。
イリア神のアホ毛は。
アホっぽいな、うん。
三神とも背中にはちんまりした翼が生えている。
フィギュア売りのおっちゃん、出来る造形師だったんだな。惜しい事にあの女神像には翼はなかった。是非とも今度教えてあげたい。
「姿なんてわたくし達には無いもの。」
「偶像を拝借しましたわ。」
「ルキ〜、可愛い?ねー、可愛いでしょー?背中、お揃いー。」
名指しで呼ばれてルキさんが目を瞬く。
「本当にサーラ神様、なのですか?」
「そうよ、ルキウス。色々大変な目に遭ったわね。でももうわたくしが降臨したからには不自由させないわよ?はい、お握り。」
顔はにこやかだけど体格的に差し出しているお握りは重いらしく、ふんすと鼻腔が広がっていた。
「あ、ありがとうございます。」
「イチオシのツナマヨよ。ここを引っ張って海苔を…、」
ピリピリとフィルムを剥がして海苔を巻く作業をルキさんが慎重に行うももう少しの所で転げ落ちる。
「嗚呼っ!」
「大丈夫、まだまだあるわ。」
「それ、海苔とか破かずに巻くの、結構難しいんだよな。」
不器用なルキさんからお握りを取り上げて、巻いてやる。
って!
「ちょお!これっ、コンビニお握りですよねっ?」
「そうよ。わたくし達は料亭の仕出し弁当くらい用意してあげたかったのに。誰かさんがコンビニお握りしか願ってこないんですもの。」
ぴしっと指差されたのはオレで。
「ま、待って下さい!勝手にオレの魂をお握りにしないで下さい?!」
返品だ返品。
ルキさんの手中から慌てて一つ回収し、もう一つ、転がっていった筈のお握りを探そうと目線を落とす。
「ヒルダさん、もしかして食ったのか?」
「は、半分はシグにあげたわよ?」
「ちゃんと三秒以内だったからな?」
終わった。じ、えんどだ。
「カティ、シャイロックさん。後は頼んだぞって!あんたらまで何食ってるんですか!」
もぐもぐとお握り食べ放題になっています。何そのレジ袋。
「ルキのお握りを返しなさい。えいえいっ、」
サーラ神様の神罰が下った。えーと、水鉄砲?
「このお握り、魂と等価なんちゃらって言う奴じゃないですね?大丈夫ですね?」
「ああ、それは大丈夫ですわ。これは神の奇跡。そもそもお前如きの魂では米粒一つ召喚出来ないわよ。」
オレの価値は米粒以下か。
「ごま粒以下でもあるわね。」
ううう、地の文を勝手に読み取らないで下さい。
「そんな事を言って良いのかしら?口には出せないあんな願いやこんな願いも叶えて欲しいのではなくて?」
どうぞ、脳内リーディングフリーでよろしくお願いします。嗚呼、皆んなの視線が胡乱だよ、女神様。
「仲間の目潰しを願うなんて、非道ね。」
「いやいや、そんなん願ってませんから!オレの人格を不当に歪めないで下さいよ。」
「そこの犬獣人。この者はお前の事を抱きしめて撫で回して匂いを嗅ぎたいと思っている変質者ですわよ。お気をつけてあそばせ。」
あのな。
否定はしないが、女神様方がルキさんにしている事と同じだからな!
「俺様は金狼だ。あと、俺様はイイ匂いだから仕方ないのだ。」
時々腐敗牛乳臭だけどな。かわええ。
「腐った牛乳が好きなの?」
「違いますから。ええっと、ラウラ神が仰ってましたが御三方はオレの使い魔、使い神?として降臨されたって事なんですか?」
「分身体で神と言うほどの神聖は無いですわ。ご安心なさい。」
「そうそう。本体で光臨してしまうと色々大変でしょう?サーラは大洪水と密林化で文明崩壊おこしちゃうし。」
「其れを言うならイリアだって大気が濃くなるでしょう?」
「大したことないわよ?わたくしなんて。皆んながハッピーになるだけですわ。」
それ、トリップ的なハッピーのニュアンスがぷんぷんしているのですが?
「そんなアンモラルなものではないわよ。空が極彩色に見えて天使精霊が乱舞するだけじゃない。」
フラスコの天井画がリアル世界にやって来ちゃうわけですね。
「フローラの光臨に較べればわたくし達なんか、ねー。」
「わたくしが何ですって?いつもの地上の営みじゃない。むしろマイノリティが居なくなるわよ?全てのモノが愛し愛され?」
フローラ神様が光臨された暁にはなろうからバンされる世界になるわけな。
取り敢えずお握り女子とぶつからせて下さい、お願いします。
「懲りないわね。」
男の浪漫ですから。
「トール、スイーツが食べたいハート。」
「脳みそ沸いたのか?」
カティがスカートの裾を持って上目遣いにおねだりしてきた。
しくった。
三女神がオレの使い神だと理解したらしい。
「!!!」
あ。
シグも鼻が効いたな。
「俺様は肉。焼肉。焼肉ー。」
姑息にも腕の中にすっぽり収まり、垂れ耳をすりすりとなすりつけてくる。
反則的可愛さだ。
「女神様、焼肉、お願いします。松坂神戸米沢あたりでどかんと。」
パンパンと柏手を打ち礼をする。
オレは何頼もうかなー。あー、ラーメンとか食いたいなあ。それから寿司な。
「何ですか?この手は。」
三女神の小さい手が三つ並んで差し出された。
「御賽銭足りないわよー。」
は?
「コンビニお握りで前の賽銭は使ってしまったもの。お買い物するには賽銭が必要でしょ?」
買い物してるんかい。
「万引きしてこいと言うのですか?」
「いちいち人聞き悪い意訳をしないで下さいよ。神の奇跡なんて仰るからまさか有料と思わないでしょ?」
「異界で買い物して来てるのよ?充分奇跡的でしょう。はい、レシート。」
「あ、ども。」
「因みにレジ袋もレシートも異界のモノだから持ち帰りは有料ですわ。」
「…次回からエコでお願いします。」




