もしも魔法が使えたら 5
もしも魔法が使えたら。
前回のダンジョン攻略中にはそこまでの余裕はなかったので、試していない事がある。
カティの魔力で魔法を発動する今回は、更に万能感上昇中で。
今なら、出来る気がする。
…地球の復活うぎゃああああっっっ?!!!
『懲りない奴め。世界創造は神の領域だ。』
ああああああっっっ!
『あと、時間を巻き戻すのも、駄目だぞ。』
ぐあああああっっっっっ!
『あと、女子にパン咥えさせて走らすのもな。』
「トールっ?!」
「トールはんっ?」
揺さぶられて恐る恐る薄眼を開けてみればもう焼き尽くされるような光の洪水は無く、カティとシャイロックさんがオレの顔を覗きこんでいた。
「何が神の領域で何が大丈夫なのか教えといてくださいよ。」
「何やって?」
「いや、こっちの話です。あふ、すみません寝落ちてましたか。」
ほかほかした陽気とシャイロックさんの抜群の馭者スキルにいつの間にか眠っていたようだ。
「えらい寝言で何ごとかとおもたわ。」
「あーうー。ちょっと神様に叱られてました。」
「何で叱られたのかは聞きたくないからねっ。」
今まさに話そうとしていたのをぴしと背筋を正したままのカティが的確に遮る。
「パン咥えて走らせるのは駄目だそうです。」
「聞きたくないって言ってるんだけど?…なんで駄目なの?」
「さあ?」
「鬼斬ならいいの?」
「機会があれば訊いてみます。」
お握りか、うん、それも有りだな。
朝ご飯がわりに会社の近くのコンビニで買ったお握りの海苔を巻きながら歩いていたらOLとうっかりぶつかって。
相手の持っていたラテがスーツにかかっちゃってさ。
クリーニングしますとか、オレが余所見していたから、とか、でも出勤前だからお互い時間が無くて連絡先交換だけでその場は解散したんだけど退社時間を計っていたかのようにスマホが振動し、見れば朝の彼女からの着信…。
「本当にあんた、大丈夫か?」
ニマニマ緩んだ顔をしていただろうオレをシャイロックさんが本気で案じていた。
すまん。
「ちょっと駄目かもしれません。」
急に里心がついたのか前世の記憶が溢れてきて仕方がない。はい、ごめんなさい、ほぼ妄想に耽っていただけです。
だけど朝のコンビニお握りのくだりは本当だ。基本自炊なんだけどたまにコンビニのお握り食べたくなるんだよな。
「トール?」
またボーっとしていたのか今度はカティが顔を覗きこんでいた。
「は。や、ちょっと。魔法でお握り出せないかなー、なんて。うおっ?!」
膝に乗せていたカティから不意に魔力が流れ込む。
「ひゃにするひう!」
口にもエリクサーの瓶が捻じ込まれた。
「おかか。あと、あの酸っぱいのがいい。」
俄然カティの瞳がキラキラしていた。
お握り食べたさにオレを妖魔堕ちさせるんか、あんたは。
すぐに酩酊し蕩けはじめた脳みそで片っ端からコンビニのお握りを思い浮かべる。
カティは梅が好きなのか。やっぱり歳をとるとあっさりしたのが好きなのかな。じゃあ、昆布もおススメだ。シグたんにはスパム握りやかやくお握りだよな。ルキさんには…。
「ふええとお。」
世界構築したら駄目なんだよな?
「しょうかーんコンビニおにひりーってってれー!」
確か地球と同じような世界の平行宇宙はあるって言ってたよね?閻魔様。
作っちゃダメならお取り寄せ。
ドヤア!
『何やってんだああああ!』
だ、ダナス神様?!
『異世界アイテムの召喚なんてしたらお前のチンケな魂ぐらいすぐ吹っ飛ぶぞ?』
『足りず縁の深いモノからとも連れだ。金狼を消滅させる気か?』
そのお声はヨルグ神様まで。
『さっき神託した事を忘れたのか?』
忘れてないから召喚にしたんですが。はー、コンビニお握り……。
『この者…世界………滅ぼし、』
『始末………だが、………』
『最初の加護は、………だから………』
強烈な光に身を焦がされ多分のたうちながら沙汰を待つ。
悪気は無かったんですよう。
許して下さい。
お握りが食べたかっただけで。
『魔法、禁止。』
永劫、光の檻に囚われるのかと絶望しかけた頃。
ようやくダナス神の神託が下った。
『とは言え、お前のソレは異界の神からのギフトだから制限出来ないんだよな。なので』
『目付を遣わす』
ぱあっと更に光が強まった。
この重々しいお声は、ラウラ神様?
『魔法を使う代わりに、その者達を使役するがよい』
『きゃっほい!』
『トール、良くやったわ!』
『ルキ〜待っていてねー!』
ニーハイと豚と例の紐が脳裏を掠めたんだが、ええっと……オレ、どうすりゃいいんだ?
「トールっ、トールうう。」
「うぷ、シグ、揺さぶるな。」
お腹がたぷんたぷんで気持ち悪い。
カティに無理矢理預けたエリクサーの大瓶が空になっている。
「トールさん、大丈夫ですか?」
ルキさんがさらりと額を拭ってくれた。
「げふ。これだけエリクサーを飲まされれば枝毛まで治っていると思いますが。それより皆んなの方が顔色悪いけど、何かありました?」
「べーつーにー?」
前言撤回。
カティに今の今まで握りしめられていた指が物凄く痛いです。
「別にって。なんもなくて指を握りつぶさないで下さいよ。」
「何もて、あれ程びったんびったん跳ねていたのに、なんも覚えてないんかいな。」
「はあ。俎上の鯉みたいな言われようですが、跳ねてました?」
こくこくと蒼白のヒルダさんが頷く。
「怖かったですう。白眼むいて泡吹きながら痙攣してました。」
「あー、眩しい処にいたからなー。」
明るい部屋で離れて見なくちゃいけないのに神様方ったらピカピカなんですもん。
「あんまりカティちゃんを心配させないでね。ところで。ちょっとボク訊きたいことがあるんだけど。」
ルキさんのへにょっとした困り顔、惚れるわ。
「えーとねえ。この方々、心当たりあります?」
心底困っているのか前髪を気怠げに掻き揚げて無駄な色気を迸らせつつ。
くるり、とルキさんが背中を向けた。
そこには。
ふさふさツヤツヤに生え戻っている真っ白な翼と。
「うふふふふ、ぐふふふふ、でへへへへ。」
「くんかすーはーくんかすーはー。」
「すりすりすりすりすり。すりすり。」
とりあえず視覚暴力な例の紐は速攻でぶち切りました。




