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もしも魔法が使えたら 4

「もそっと近う、良いではないかへっへっへ。」

「ほうか。肋骨少おし抜かれたいか。」

「やだなあ、シャイロックさん。それもまた、ご褒美!」

「…やってられんわ!」

「あああ!狐耳がああああ!」

 だってさ、シグたんは安定の可愛らしさだし、猫ルキさんときたらもうチラ見だけで鼻血出そうだし。

 うさ耳魔王は逆にチラ見しただけで惨殺されそうな兇悪オーラを発動中でオレも命は惜しいから。

 ケモ耳を素で堪能する相手は消去法でシャイロックさんだけなんだもん。

「それでもあんたプロなのか!」

「何のプロだ!プロじゃねえよっ!」

 掛け合いに律儀に付き合ってくれるところもいとおかし。

 仕方ない、これ以上揶揄うと本気でアサシンモードに変身しそうだ。

 地面に打ち捨てられた狐耳カチューシャは今宵のメモリアルに大切に保管を。

『ぐしゃ。げしげしげし。』

 …な、なんつう事を!

「こ、コン吉いいいい!」

「ええ加減にせえ!」

 びしっと額に入る裏拳はカティと違いちゃんと加減されている。

 プロ、流石です。

「はああああ。分かりました。色々ご馳走様でした。皆んなには迷惑しかかけていないのに、ありがとうな。」

「分かっているなら自重しなさい?」

 酔っ払う程、魔力をブッ込んできたのは貴女ですが、カティさん。

 でも、まあ、せっかくエリクサーを入手しても魔法を使う度にやらかすのはな。

 何か方法を考えないと。

「…また無駄な事を?考えて?いるみたいだけどっ。」

 びしっと刺した指が空気をシュンっと切り裂いた。

 この力加減の無さは、ツンだな。って事は次はデレか。

「拝聴いたします。」

「あんたが余計な気を回せば回すほど面倒くさい事になるのよ。」

「なるほど。」

 さあ、デレてくれうさ耳魔王。ばっちかもーん。

「だからあんたはご飯と洗濯の世話だけしていればいいの。」

 そ、それは。

 ちょっと待って。まだそこまでの心の準備は。

「それってあれですよね?お前の味噌汁、毎朝飲みたい的な?オレ、嫁?」

「はあ?脳味噌沸いてんの?下僕よ、げ、ぼ、く。」

 分かってますよう。

 オレだって見た目幼児な貴女相手にどうこう野望を抱く程腐っていません。

「ちょっと、その撫で回すのやめて!」

 はっ!オレの左手が萌え萌え妖魔に乗っ取られている!

「すんません。今取り憑いた妖魔を封印します。」

 うさ耳回収。

 破壊される前にしまっておこう。

「あんたねー。ま、いーわ。兎に角、あんたの仕事は下僕だからね。げ、ぼ、く。」

「分かりました。日々誠実に魔王のパンツを濯ぎまうぼげら!」

 い、今のは調子こいたオレも悪かったけど?

 ほんと、死ぬから、やめて?



 来た道を馬車で戻る間中、下僕認定されたおれは馭者席においやられ、なんの呪いか転生してこのかた温暖な気候が続いていたのにこの時ばかりは氷雨や雷雨、暴風雨。

 疲労でくたりと倒れ伏しても容赦なくエリクサーで回復されて、ひたすらに下僕を全うさせられました。

「さあっ、一緒に魔王を討伐しようではないか!」

 ヒルダさんから仲間認定をされたのが一番辛いよ、オレは。

 へろへろのオレを見かねてシャイロックさんが隣で手綱を握る。

「コン吉の幻影が見えます。」

 油揚げ備えて拝んでおこう。

「アホか。道が混んできよったからな。事故を起こされたらかなん。」

「そういやそうですね。」

 言われて見れば、いつの間にか行き違う馬車も、追い抜く旅人の姿も増えていた。

「あと一日かそこいらで無限ダンジョンに着くはずだ。」

「お、やっと着きますか。」

「誰のせいで時間がかかったと思ってんの。」

 べしべしとカティが後ろから叩いてくる。

 普通にこ痛い程度なのでツンではないようだ。

「わ、ちょっと危ないですよ。」

 オレの髪を手綱がわりにして、馭者席へ上がり込みちょんとオレの膝に収まる。

「どうしたんです?別にシャイロックさんに押し付けて安眠貪ろうとか考えていませんよ?」

 ちっ。

「…風にあたりに来たのよ。」

「風、ねえ。」

 明け方まで吹いていた寒風はシャイロックさんが手綱を握ったとたんになりを潜め、今はほかほか心地よい日差しが眠気を誘っているだけだ。

「平和ねえ。」

「ふあい。平和ですよ。」

「のどかねえ。」

「のどかで眠いです。」

「少しくらい嵐が来てもいいのにねえ。」

 おいこら。三日前の嵐の日には一歩も外に出てこなかったよな?

「あによ?何か文句ある?」

「ございませんよ、別に。シャイロックさん、肩で笑うのやめてくれませんか。」

 失笑される程、下僕が板に付いてきたのか。はー。ヒルダさんの仲間入り?凹む。

「トールはん、姐さんに随分と気に入られてまんな。」

 にまにまとシャイロックさん。

「まあ、気に入られてはいるんでしょうが。」

 下僕としてな。

「姐さんのこんな姿、勇者が亡き後、始めてじゃないですかね。」

「シャイロック?その口、縫い付けておく?」

 だがその口調は満更でもないのんびりとした口調で。

 デレという訳でもなく。

 気心の知れた相手に心底リラックスしているような。

「勇者相手にもロリ姿だったんですか?」

「げほっ、馬鹿なの?あんた。」

 そういや魔女っ子エルフ姿だったっけ。

「言わずもがなでしたね。」

「言っておくけど?アイツと戦っていた時はあたしもまだ若かったんだからね?」

 つまり今は若くはないんですよね。

「いでででで!弁慶も泣くところ蹴らないで下さい!」

「失礼な事考えなかった?」

「考えてませんよ?って、何で蹴るんですか。」

「べーつーにー。」

「シャイロックさんも、笑ってないで止めて下さいよ。」

「そうやな。こんな気い抜けた姐さん、今なら息の根止められそや。」

 またまた、無糖すぎるコメントを爽やかに垂れ流してくれます。

「竜人も懲りないわねー。一度滅ぼしておこうかしら?」

「冗談ですがな。依頼も無いのに働いたらご先祖様に顔向けできひん。それとも、トールはん。魔王討伐希望ですか?」

「オレを巻き込まないで下さいよ。」

「雇い主ですもん。一連托生ですわ。けけけ。」

 ツンデレとヤンデレのデレ抜き、いたたまれません。

「もー。二人とももうちょっと長閑な会話は出来ないんですか?」

「会話で済んでいるだけでのどかだけどねー。」

「やだやだ、脳筋はこれだから。例えば、シャイロックさん、御するのがお上手ですね、とか。カティはいつも姿勢が綺麗だね、とか。話題、あるでしょう?」

 ルキさんが言いそうな事を挙げてみる。

「さり気なくいつも助けてくれてありがとう、とか。心配させてばかりでごめんな、とか。」

 あとは、天気の話題が無難だな。

「今日は一日良い天気になりそうだね、とか。もしもし?聞いてます?」

「あかん、無理。」

「ごめん、あたしが悪かった。」

 まじか。カティが謝るだって?

 このお天気、嵐の前の晴天じゃないだろうな。

「カティ、顔が赤いな。日焼けしたか?」

「どっちかっていうと胸やけね。」

 紅く染まった頬のままツンと鼻を上に向け、ビスクドールのような美しさでカティは背を正した。

 合わせて無駄口をやめたシャイロックさんも冴え冴えとした漢の気品を漂わせ、口許にアルカイックスマイルを浮かべている。

 絵画のような二人に見惚れているうちに、オレはいつしかうとうとと微睡んでいた。

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