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先立つもの 2

 ネトゲも密林も無い世界で引きこもりを推奨されてもな。

 いやそもそもニートでは食っていけない。

 イイね!で広告収入なんてものも無いしなあ。

 古典的内職はありますでしょうか?

「造花や箸袋詰めは、」

「ホゲホゲとは何だ?」

 こちらの世界に通用しない言葉もまたホゲに変わるんだ、へーえ。

 じゃ、なくて。

「まあ、焦りなさんな。まともに飯も食えない病み上がりを追い出すほどの非道はせんよ。そのかわり掃除洗濯炊事は頼んだぞ。」

「あざっす。逆玉に乗れるよう家事スキルを上げたいと思います。」


 ただいまのステイタス

 所持品:雷獣石一個、木の枝一本、何かの葉八十八枚

 装備:破れたパジャマ

 習得魔法:雑巾を濡らせる水が出せる

 職業:家事手伝い

 状態:病み上がり


 いいかげんパジャマをなんとかしたいぜ。

 ぴこん。

<『嫗の知恵』>

 キタ!

 ばあちゃん、どうかわらしべ長者のなり方を教えて下さい。

<作務衣の縫い方>

 あ、はい。そっちか。

 甚平や浴衣の作り方もメニュー表示されました。

 うん?

 兵長や白血球って…。

 兄貴、ばあちゃんに何作らせてんだよ!

 うわあ、メニュー表示長っ。ばあちゃんもノリノリだなっ。

「いい歳こいて腐男子レイヤーか。そら盆暮れ正月はゾンビ化しているわけだ。」

 脳内の端で兄貴の蘊蓄が再び語りっぱなしだが碌な情報は無いので無視。

「先生、古布と針糸分けてもらえませんか?服を縫いたいので。」

「器用だな。そんな事も出来るのか。それなら確か…。」

 奥さんの形見の品という作りかけの何かが色々入った箱をくれた。

「大事なものではないんですか?」

「なに、捨てるのも勿体ないから取っておいただけだ。そうさな、端切れでハンカチの一つも作ってくれ。」

 未練マシマシだな。

 よっしゃ。

 奥さんの罪庫、オレが活用させて頂きます。



 なんということでしょう。

 寡男の廃屋が山小屋ペンション風に生まれ変わりました。

 はい。

 ひと月が過ぎました。

 オレのステイタスは目下こんな感じだと思う。


 所持品:木の枝一本、何かの葉八十八枚

 装備:こぎん刺しの作務衣

 習得魔法:たらい一杯の水、それを沸かすくらいの熱、そよ風

 職業:フリーター

 所持金:一万二千三百二十円

 状態異常:茶髪


 ばあちゃんスキルの指導のままにちくちくと縫い進めていたら中世欧州風の村に似合わぬ小洒落た作務衣が出来ました。

 これなら兵長の服の方が良かったかもな。

 そうそう、水魔法の次は火魔法と風魔法を覚えたぜ。

「ウオータースプラッシュ!」

 ちょろちょろちょろーん、とたらいに水が満たされる。

 そこに灰汁を混ぜてからの。

「フレアバースト!」

 じんわり水が温まる。

 でもって洗濯物を放り込んでですな。

 じゃぶじゃぶと洗うわけであります。

「トール、こっちにも湯をおくれよ。」

「へいへい。」

「トール、こっちにもね。」

「ういーっす。」

 すっかり洗濯マダム御用達の給湯器である。

 濯いでから絞って干す。

「ウインド、」

「今日は一日天気も良さそうだから乾かさなくてもいいんじゃない?」

「…ですね。じゃあこのまま天日干しで。お疲れ様でした。」

「ホゲはやらないのかい?」

 刺し子?こぎん刺し?

 お互い全部ホゲに変換されるからよく分からん。

「手芸はやらないです。今日は酔馬亭で最後の仕込みです。代わりに夜来てくれたら刺繍図案を一つ進呈しますよ。」

「それは行かないと。」

「最後とは寂しいねえ。もう、ライナー先生の後妻さんになればいいのに。」

 くっ、笑えねえ。

「そのうち凄え美人の嫁さん連れて戻って来ますよ。金持ちでボンキュッボーンでムッフンな上に貞淑かつ料理の腕も最高な若妻を見てひれ伏して下さい!」

「たまにいるねえ、男を見る目だけない可哀想な美人さんが。」

 ……。

 もうね、何を言ってもマダムには勝てません。

「街で辛い目に遭ったらいつでも帰っておいでよ。」

「あんたはすぐ騙されそうだから心配だよ。」

 まあ、騙されるのは仕方ないとして犯罪だけは犯さないようにしたいと思います。


 その夜、アルバイト先の酒場『酔馬亭』には村中の人達が別れを惜しんで来てくれた。

 得体の知れない魔族?のオレを居候させてくれたライナー先生。

 髪をブリーチする為のエールを貰いに行ったらバイトに雇ってくれた酒場亭主のロンさん。

 洗濯仲間のおばちゃん達。

 他にも異邦人のオレを厭う事なく受け入れてくれた村の人達。

 ちりん。

 ドアの鈴が鳴って猟に出ていたダニエルさん達が入って来た。

「遅くなってすまないな。ロン、土産だ。これで美味いものを作ってくれ。」

 ダニエルさんが肉を差し入れてくれた。

 何度聞いてもホゲ肉としか聞き取れないのだが、味は鶏にそっくりで肉塊はかなり大きい。

「じゃあ、オレが作ります。」

 唐揚げや照り焼きを作りたいところだが醤油が無いのでフライドチキンにする。

 元の世界ではかつて高級品だった筈のスパイス類だがこの世界では割と安価で種類も多い。

 そうだ、あれも作るか。

 バターチキンカレー。

 それに叩いて味噌もどきと合わせてつくね。

 味噌というか甜麺醤やコチジャンに近い。

 げせぬ。何故味噌や醤油が無いんだ!

 ばあちゃんの知恵がアレも作れコレも作れと長々リストをあげてくる。

 そりゃあね、独身男の手料理よりもばあちゃんの料理の方が美味いでしょうが。

 醤油にだし汁必須だと何も作れませんよ。

 ああ、和食が食べたい。



 翌朝、日の出とともに出立のオレを村の入り口までライナー先生が見送ってくれた。

 行商がてら街まで同行してくれるダニエルさんは美人の嫁さんが見送りだ。

「街には娘夫婦がいる。何か困ったことがおきたら、まああの婿ではさして役には立たないだろうが頼ってくれ。」

「先生、まだそんな事を言ってるんですか。嫁がせて何年です?往生際の悪いこと。」

「先生がお元気だと伝えますよ。色々世話になりました。」

 ぴこん。

 お?

<『恋人の絆』

 ライナー先生からの好感度:レベル10

 愛娘を紹介してもいいレベルに到達した>

 …ツッコミどころが満載だな。


 こうしてオレは始まりの村を旅立ったのだった。

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