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もしも魔法が使えたら 1

『ギャオース!!!』

 もう、見間違うことは無い。

 赤竜の群れが獲物を狙って待機中だ。

「でー?どうするの、アレ。」

 だからあ、あたしはこんな所来たくなかったし?

 カティさん、言外の言葉が態度にスケスケです。

「あんなん居るって知ってたら飛び道具用意しておかな。」

 不満そうにシャイロックさんが呟いて、そこら辺の石を投てきしてみるも、流石に届かず。

 拗ねて獣化したままのシグも後ろ向きに土塊を掘り上げるが可愛いだけだ。癒される。

「まー、奴ら大して飛ぶのは速くないようやから、翼人二人が囮になっている間にぼちぼち下山するより他ありまへんか。」

 軽く言ってくれるけど、オレは登る技術はあっても降りる技術は無いぞ?

「シャイロックさん、オレここ降りるのは、」

「ごめんー、ボク翔べないかなあ。」

 のほほんとルキさんが割り込んだ。

「でしょうね。じゃ、ヒルダ、あんただけ行きなさい。」

「ひぃぃぃ!無理、無理ですぅ!」

 ヒルダさん、姑息にもシグたんを犬質抱っこしやがった。

「それにしても、ルキさん。いつにも増して艶々ですねえ。」

「艶々?テカテカ違いますん?」

 そしてまごう事なくむっちりしています。

「うーん。ボク、そんなに食べられないって言ったんだけどね。」

 聞けばエルフのご婦人方による、あーん攻撃を回避出来ず、おすすめのハイカロリーなアレやらコレやらをひたすら食べていたんだとか。

 控え目に言ってデブ、控え目に言わなくてもあからさまにデブったルキさんだが、それでもキラッキラなイケメンオーラが眩しいです。

「ちょっと太っちゃって翔べないや、あはは。」

 やべえ。さすさす出っ腹をさするテディベアルッキングなルキさんにうっかり萌えてしまいそうだ。ほんと、ぱないタラシである。

「皆さん、オレを忘れちゃいませんか?天下の魔術士、トール・ヤッマーダとはオレの事ですよ、ふっふっふ。」

 お忘れだろうがエリクサーを入手したオレはチート級の魔法を使えるのである。

「そういう訳で、魔力下さい。」

 今度はカティも文句は言わないだろう。

 ぬ、と差し出したオレの手をカティがぎゅっと握っ、たりはしねえよな、このツンデレ魔王め。

 さてどう言いくるめようか。

「あんた、割と勇者ねっ。」

 お?

 いつものツンツンが息を潜め、きゅっと指先を握ってくる。

 くらくらする芳醇な力が流れ込んで来て、慌ててエリクサーを啜る。

「くれゆならくれゆってひってくらさいよ。ひっく。」

 ううう、呂律が回らん。

「くれって言ったのはあんたでしょうが。それにしても、良く平気で飲めるわね、ソレ。」

「りうに食はれるくれーならのみますよう。うぃー。はいはーい、みなはん、手をつないでねー。」

 カティの奴、容赦なく魔力を流し込んできやがる。

 あとで覚えてろよ?

「ほれではー、みなはんのたいじうをーかるくすんなー。らひと!」

 イメージは、羽毛である。

 空気の抵抗をはらんで、ふわっふわ降下いたします。

「うぃーきゃんふらーい。」

「ちょ!アホか!!!」

 手を繋いだまま、山の頂上から投身する。

『ギャオース!』

 ふんわふんわ降下中のオレ達は竜達の格好の餌である。

 シャイロックさんが焦って剣を抜こうともがくが右手はルキさん、左手はヒルダさんにひしとしがみつかれていてままならない。

「らいじょぶらいじょぶ。」

 すでに脳裏には次の魔法を構築済みだ。

「とーか!」

 す、と皆んなの姿が消える。

 あれえ?おかしいな。

 竜は迷う事なく此方へ向かってくる。

「あーそおかー。みなはんー、服ぬひでー?」

 透明人間になる為には裸がお約束だよな。いやいや、オレとした事が。

「どないせえ、ちゅーねん!」

「そもそも竜は嗅覚も聴覚もいいから、これ、無駄よ。」

 はれ?そうなん?

「好きなだけ魔力使っていいから、さっさとなんとかしなさい!」

「や、やめへぇ。」

 繋いだ指からじんじんとした魔力の波が押し寄せる。

 やばいやばい。早く放出しないと、溺れてしまう。

「まっへ、えへーと、うーと、」

 そ、そうだ!アレだ!


 なんか、良い匂いがする。

「お、トールう。目が覚めたか?」

 オレの腹を足枕にしていたらしいシグがもそもそと身体を起こし、オレの額に小さな手を当てた。

「はれ?おへ、ねへた?」

 うーむ。まだグラグラ魔力に酔っ払っているようだ。

「まだ本調子じゃないようだな。」

「むぐ、」

 不機嫌そうなシャイロックさんに問答無用で口へ小瓶を突っ込まれた。

「いきなり何するんですか。歯が折れそうになりましたよ。」

「歯ぐらい簡単に治るだろ。」

「ひう、寒い寒いからっ!逆鱗出てますよう。」

「怒りたくもなるわ。せっかくのお宝が。」

 はあ。

 見やれば桐箱がひのふのみ、おおっと一億円分散乱している。

「あのお、」

「なんや?」

「これ、一箱ひと瓶一千万ですよね?」

「そ、お、や、で?」

 はうっ、げ、逆鱗しまってー。

「定価で買ったんですか?」

「アホか。」

「ですよね。」

「一本分おまけさせたわ。」

 あ、ちょっとドヤ顔だけど、多分それ含めて定価です。

「これ、全部オレに?」

「勝手にしたんや。礼なら要らん。」

「いや、通りで腹がたぷんたぷんだなと。」

「ほーお?それじゃ、今すぐ腹あ掻っ捌いてやろうか?」

 やだ、怖い、ヤンデレさん。

 うそうそ、冗談ですよう。

 コイン一枚を這い蹲ってヒルダさんと争う守銭奴のシャイロックさんが、どんな思いでオレにエリクサー@桐箱入り定価(笑)を飲ませてくれたのか。

 鑑定しなくとも、断腸の思いだったのは分かります。

 けど面白いから一応鑑定しとこ。

『安堵している竜人』

 安堵?どういう事だ?

 何に安堵か、再鑑定。

『エリクサーが足りて、安堵している竜人。残り一本ギリセーフ、いやっほい』

「シャイロックさん!」

 あんたって人は!

「なんや?気持ち悪い目で睨みおって。」

「これを受け取って下さい!オレの感謝の気持ちです。」

 ヤンデレに心を奪われたオレは、エリクサーのたぷたぷに詰まった大瓶をどどんと贈呈した。

「エリクサーのお礼にエリクサーってのもなんなんですが、どうぞ!」

 サイズで言えば一升瓶どころかガロンは優に入る大きさの瓶を十本並べてシャイロックさんの歓声を待つ。

 ひう。

 あ、あれ?

 めっちゃ寒い。

 何故、逆鱗?

「わい、ちょっとエルフ駆逐してくるわ。」

 くわと見開いた細目が金色でキレキレです。

「いい加減にしなさい。ぼったくられたあんたが間抜けなのよ。」

 めきょっと音を立ててカティのチョップがシャイロックさんの後頭部に突き刺さる。

 ついでにシャイロックさんがばこっと大地に突き刺さる。

 慌ててエリクサーをダバダバ掛けた。

 強すぎるよ魔王。

「今、花畑に居たような?」

「多分花畑に居たと思いますよ。カティーっ、手加減しろよ?エリクサー幾らあっても足りなくなるわっ。」

「はっ!わいのエリクサが!あああああ!」

 そうそう、シャイロックさんはこうでないとね。

 大地に這い蹲って染み込んでいくエリクサーをなんとか瓶に戻そうと泥まみれになっている。

 覆水盆に返らずって諺、こっちには無いのかな。

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