エルフという輩 10
「一本一千万円です。」
ぶんむくれて獣化したまま残りの骨をあちこちに埋めているシグの姿に、流石に悪い事をしたと思ったのか、ファイブスターさんがエルフ賢者の薬屋へ案内してくれました。
こちらもこっぽり血色と肉付きの良いエルフが愛想よく出迎えてくれ、安堵する。
そして。
エリクサーを所望したオレの前に差し出されたのは桐箱に仰々しく納められたスタミナドリンクサイズの小瓶だった。
お値段は先の通り。
あのう?その中身、さっきレバ刺し食いながら皆さんジョッキでがぶ飲みしてましたよね?
「今なら古老の鑑定書付き。更に十本につき一本おまけいたします。」
「九千万で十本って事ですか?」
「まさか、一億円で十一本ですよう。」
「ですよねーあはは。」
「そうですよう、あははは。」
くそう、足元見やがって。
「箱も鑑定書も要らないんでちょっとまかりませんか?」
「箱、要らないんですか?!下界で転売する時に買い叩かれますよ?」
「いや、転売とかしないから。自前で消費します。」
「そ、それは。」
急にエルフ氏の笑みが凍る。
「そう、ですか。そう、なんですか。若いのに気の毒に。分かりました。格安でお譲りしましょう。」
え、ちょっと。
ありがたいんだけど、何か勘違いされているような?
「はあ、そうですか。いやいやわざわざ言葉に出さなくともいいですよ。辛いですよね。はあー。」
ええと。
誤解を解いて暴利ぶったかられるか、このまま心外な同情に甘んじるべきか。
「そういえば。アレクセイさんってご存知ですか?」
あの人も暴利と誤解の二択に晒されたのだろうか。
「炎帝かっこ笑アレクセイさんですか?」
かっこ笑が括弧に入って無いんですが。
「わらかどうか分かりませんがその炎帝様です。彼もこちらのお客ですか?」
「彼の方も、相当気の毒ですよね。もう、あの痩せ細って青白い見た目からして末期でしたが、その後我々のエリクサーでなんとか人生を謳歌できているんでしょうか。」
細マッチョの色白美男子も脂身上等なエルフに言わせれば死に体って事か。
この言われようだと誤解の方を選んだみたいだな。師匠、オレも見習います。
「おかげ様で謳歌していらっしゃいましたが、先日残りのエリクサーをオレに全部分けてくれたんですよ。それももう使い果たしてしまい……。」
「なんと!そう、でしたか。トールさんはアレクセイさんの?」
弟子、じゃ、弱いか。
「マブダチです!」
はい。たった今からアレク、トールの仲になりました。おお、心の友よ。
「なんと不憫な。」
「どういう意味です?」
「あ、お気になさらず。」
気になったので鑑定してみた。
「(ぶ男×ぶ男のカップリングか、萌えないな。)」
「げほっ、ごほごほっ。」
「うわ、大丈夫ですか?これ、どうぞ。」
桐箱エリクサーをあっさり開封して飲ませてくれました。
中身、水じゃないだろうなあ。
「そ、それ。いいんですか?一千万円ですよね?」
「我々をなんだと思っているんですか?困った人には実費で譲りますよ。転売ヤーにはそれなりに暴利ぶっかけますが。」
「やっぱり暴利だったんですね?」
「はて、なんの事でしょう?」
転売ヤーと言ったって、道無き道を赤竜に襲われながら求めに来るんだからもうちょいお安くして欲しい。
そうしたら市場価格も下がるのではなかろうか。
「せめて山の下に出店を作って貰えませんかね。そうしたら本当に必要としている人、ご本人は無理でも身内の方はたどり着けるんじゃ、」
「そして軍隊が押し寄せて全て攫って行き、次も炎帝が助けてくれると?」
ぱっつんぱっつんの眉間にほんの僅か皺が寄っていた。
「ま、そういう事もあるのでね。出所はなるべく極秘にして下さいよ。あと、転売するなら少量を高額にね。」
「…はい。分かりました。」
オレの平和ボケした失言は不問に付されたようだ。
「いちいち気にしてたら禿げるし痩せるでしょ?それより持って帰る分の瓶詰めはご自分でして下さいよ。あと、瓶代一本千円ね。」
「ありがとうございます!」
こうしてオレはエルフの秘薬、エリクサーをたらふく入手した。
アレクセイさんが風邪薬や絆創膏がわりにエリクサーをシグに与えていたが、今のオレも惜しみなく同じことが出来るくらいに、頂きました。
だけどなー。
背に腹はかえられないから服用はするけどさ。
エリクサー工房の秘密を知った今ではなかなかハードルが高いんだよ。
「言っておくけどあたしは、飲まないからね。」
「知っていたんですね?作り方。」
「エルフお得意のバイオテクノロジーでしょ。」
「むしろ畜産かと。」
詳しく語ると精神的ダメージががっつんがっつん来るのでもろもろ察して欲しい。エリクサーの原材料はすなわち飼料。オレに語れるのはそれだけだ。
エルフ達、よくがぶ飲み出来るよな……。
「さあ、受け取りたまえ。お望みの指輪型だ。うっかり火山に捨ててしまった時用に鼻輪型と耳環型も作っておいた。」
「どんなシチュエーションですか。でもありがとうございます。これでマスクが外せます!」
「何、礼には及ばない。マスク型に拡大するのは難題だったが、これはほれ、」
先生は最初の眼鏡型をパキンと二つに割り、ポキンと肢を折ってみせた。
「これを収縮しただけだからな。」
「ちょっとお!最初から指輪型に出来たんじゃないですか。」
「そんなグッズ、作って面白くないじゃないか。」
そうだそうだと痩せたエルフの研究者集団が頷く。
「また、遊びに来るといい。次は緑竜を手土産にな。」
こちらはファイブスターさん。
赤竜、手土産じゃないけどな。
「ユッケ!」
「レバサッシー!」
それも、別れの挨拶じゃないからな。
「これはアレクセイへの土産だ。宜しく伝えてくれ。」
賢者からの土産もエリクサーだった。
工房の瓶は大小問わずオレが使い切ったので、詰められているのは酒樽だ。
アレクセイさん、ぬか喜びしそうだな。
「はい、確かにお預かりしました。」
鬱陶しくも人なつこいエルフ達総出の見送りを受けて、帰路につく。
どうなる事かと思ったけど、なかなか気のいい連中じゃないか。
次、機会があれば、まあオレに用事が無いなら来ないけどな。
さらばエルフ。
「帰りもあそこは竜の住処だから気をつけてなー。食われるなよー。」
どうしろと?




