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エルフという輩 9

 竜、という生き物は概ね爬虫類めいた容姿に描かれる事が多い。

 前世では空想上の生き物だったのでもう少し愛嬌のある生き物に似せても良かったのではないかなと個人的には思う。例えばペンギンとか。

 それはさて置き、今世では先日涎を浴びる至近距離で対面した通り、実在の生き物である。

 自身が魔法特性を有する魔法生命体。

 シグ達、獣人は獣化変身能力がある。

 ちょろんとヒゲが生えたりする様ななんちゃって獣化ではなく、しっかり骨格まで変わるので中々に大変な特性だ。

 では、竜はどのような特性があるのかというと。

 まず、あの巨体ながら空を自在に飛び回る。

 高速飛行で名高い白竜は通り過ぎる時に大地が裂けるという。

 ソニックブームを発生させているらしい。

 一方、そこまで飛行能力は発達していない赤竜に特筆すべき事は無いかと言えばそんな事はない。

 口から炎、である。

 このファイアーブレスは赤竜の上位種炎竜などでは岩をも溶かす高温を吐き出してくるのだそうな。

 赤竜は肉を程よくウェルダンにするくらいだとか。

 充分すぎるわ。

 あの竜が生食志向で良かったよ、ほんと。


 さてと。

 フードカッタートルネードでのお手伝いももはや手慣れたシグたんとルキさんが大量に作ってくれたパン粉をまぶし、あとは油に落としていくだけのメンチカツの山山々。

 壮観だ。

「残りの肉はどうする?」

「うわっ!」

 音もなく忍び寄り耳元で問うはブラッディシャイロックさん。

 手にはこれまた物騒なカラーリングの牛刀を提げたままである。

 み、味方で良かった……。

「塊肉はローストドラゴンにします。臓物の残りはモツ煮にするので細切れにしてくれますか?骨もスープを取りたいので鍋に入るサイズに砕いて下さい。」

「簡単に言うてくれるわ。全く。」

 だって簡単そうなんだもん。

 巨体すぎて血抜きも出来ないような竜をそれはそれは惚れ惚れするような刃物捌きで切り分けていく。

 表皮には鱗がびっしり並んでいて、オレもこっそり包丁で撫でてみたが、全くお話になりませんでした。

 それを一体どう斬り分けるのか、するすると腑分けしていく姿は、よ、アサシン、漢前っ!

 細い目をさらに細めて、口許に薄っすら笑みを浮かべ、頬に飛んだ血飛沫を親指ですっと拭う。

 だるそうな言葉と裏腹に実に生き生きとしていらっしゃいます。



「トールぅぅ!」

 シグの悲愴な叫びが響き渡る。

「トール殿ぉぉぉ!」

 ついでにヒルダさんの声もな。

 いや、オレだって絶叫したいよ。


 火や油が危ないから一旦シグには厨房から出て貰ったのだが、代わりに押しかけて来たのはエルフのつまみ食い集団だった。

「ほく、これは中々、」

「あつっ、うむ、揚げたては、」

「はふ、うっま!」

「うまいな。」

「うまい。」

「うまいうまい。」

 揚げる端から皿ごと奪われ、文句をつける隙に勝手に鍋に投入される。

「うわっ、何やってるんですか!」

「もぐ、こっちは任せておきなさい。」

「ファイブスターさん、大丈夫ですか?全部つまみ食いしないでくださいよ?」

「うむ、味見だ味見。」

 もちろん、信じたオレが馬鹿だった。

 ローストドラゴンとモツ煮を仕込んで戻ってみれば、油汚れがついた空の皿が鎮座していたよ。

「あー、まずまずだな。うむ。」

「ぜ、全部食べちゃったんですか?!」

 気分的にこそこそ、物理的にはゆさゆさとエルフ達が解散しようとする。

 中にスレンダーなエルフが混じっているじゃないか。

「なんでここに居るんです?先生。オレの装置の新作は出来たんですか?」

「あー、えーと。不具合が無いかと様子を見に来たんだよ。」

「不具合だらけです!早く改造して下さい。」

「それ、かっこいいと思うんだがなあ。」

「否定はしませんがオレには似合わないんですよ!」

「それもそうだな。」

 分かっているなら早くしてくれ。


「メンチカツ…俺様が作った、メンチカツ。」

 作ったのはひき肉とパン粉だけど、あ、うん、シグたんが作ったメンチカツだよなー。よしよし。

「一個もない。一個も、ない。一個も……。」

 大事だから三回言ってみたんだな。

 そーだな。一つ残らず食われちまったな。

「とーるううう、めんちかつ、ない。」

「大丈夫だ!シグよ。ローストドラゴンがまだあるからな?気をしっかりしろ。」


「だ、大丈夫だシグたん。まだ骨スープがあるからな?な?」

「俺様のローストドラゴン……。」

 まだまだ生焼けの未ローストドラゴンと、多分まだまだ硬かったに違いないモツ未煮が空になっていた。

「少々生臭かったな。」

「当たり前です!生なんだから。」

「魔族の料理は生で食べるんじゃあないのか?」

「レバ刺しとユッケだけですよ、生で供したのは。って言うか、あのでかいドラ肉、もう無いんですか?」

「ユッケ、イイネ!」

 イイネ、じゃねえよ。

「トールぅ。エルフ、食えるかな。」

 気持ちはわかるけど、シグたん、やめておこうな?腹壊すから。

「シグよ、お主の腹立ち、よくわかるぞ!今こそ正義の鉄槌をエルフどもへ!!!」

「その割には下っ腹ぽっこりしていませんか?ヒルダさん。」

「ななな、なんの事でせう?」

「揚げたてのメンチカツ、美味かったでしょ?また食べたいですか?」

「至福の味覚でしたっ。また食べたいですっ!ぎゃあ!」

 シグたん、ヒルダさんも食べたら腹下すからやめておけよ?齧るだけな?

「だから言ったでしょ?エルフなんて、ろくな奴が居ないんだから。」

 最初から最後まで傍観していたカティがやれやれとため息をついた。

「言ってましたっけ?」

「言ってたわよね?」

 聞いてねえよ?エルフの食い意地悪さなんて。

「その可笑しなモノ、被っていれば動けるんでしょ?さっさとこんな所から出て行くわよ。」

「あと一晩だけ、猶予を下さい!いくらなんでもこの白いマスクは恥ずか死にます。」

 そ、それにエリクサーも頂戴しておりません。

「エリクサーねえ…、はあああ。」

 …カティさん?そのため息、なんなんでしょうか。

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