エルフという輩 6
「トール、オヤツの時間だぞー。」
ほんとかなあ?
「本当にオヤツの時間ですよ。トールさんもね。」
心の声を読み取ったようにルキさんが言って、オレの上着をはだけさせる。
腐った皆様、残念だったな。
オレの貧相な身体を舐めるように診るのは麗人ルキさんじゃなく、エルフの医者集団だ。
「いやあ、今日も立派にブレているなあ。」
「ブレブレですなあ。存在が希薄だ。」
「薄い。ぺらっぺらだ。」
もお。聞こえているんだから言葉を選んで欲しいよ。
ぺらっぺら発言の医者の上とおぼしき辺りにルキさんのパンツを降らせておく。
そうそう、シグのオヤツもな。
ジャーキーをシグの声の方に出すと尻尾のぶんぶん振れる風切り音が聞こえた。可愛ええ。
「好調のようだね。」
まあ、相変わらず眩しいし身体は動かないんだけども。
オレに唯一出来た意思表示、バックヤードに物を出し入れする、という技で無事意識がある事を伝えられたのだが、その後の進展はあまりない。
どうにかしてくれと今度こそ神頼みしてみたが、ヨルグ様がお供えのジャーキーをお裾分けしてくれただけだった。
有難いですが、もうちょい違うベクトルで助けて欲しかったです。
『エルフが何とかするのを、待て』
ご神託はその一択。
その神様方の覚えめでたきエルフ族といえば。
どうやら揃って頭にマッドが付く性格らしい。
高慢傲慢沈着冷静な種族を想像していたのだが、実情は揃って厨二病をこじらせたままの頭脳集団といったところだ。
「さて、と。トールさん。ご待望の<神界の光を遮るマシーン>が完成したぞ。」
てってれー、神界の光を遮るマシーン!
あんまりなネーミングだが、全く文句はありません。
だから、早くこの眩しい光をなんとかしてくれ。
「「「装着っ、」」」
エルフ達のノリノリな掛け声と共にすちゃっ、と鼻先にマシーンが装着された。
身体が動けば変身ポーズをかましたいところだ。
途端に視界が真っ暗になる。
完全な闇。
いや、チラチラと星が瞬いている。
今は夜なのか?
「結局サングラスじゃないか。あ。身体が動く。」
さっきまでふわふわしていた身体がやけに重く感じた。
「トールぅ!治ったのかっ?」
ジャーキーの匂いのする光の粒がアタックしてきた。
「シグか。すん、お前、また風呂に入っていないだろー。」
って事は横から漂う汚臭源はルキさんだな。
「ボクはちゃんと着替えてますよ?」
えへん、と隣の明星が言うが、その服は洗濯してあるのか?表替えし裏返しは着替えた内に入らんからな?
ゆらり、と、もう一つの明るい星が近づいて来た。
「姐さん、何しますのや?」
ひくついた声はシャイロックさんか。
仄暗い光点が星に駆け寄る。
「お馬鹿ちゃんが阿呆な魔法をまた使わないように舌の一つも引き抜いてあげるわねっ。」
星は怒りを露わに紅く綺羅綺羅と輝いている。
一瞬ぽかんと見惚れた隙に口腔へ小さな手が捻じ込まれた。まじか。
「ひゃめへ!」
「やめいて。」
うう、シャイロックさんありがとう!
「あのう、」
「わっ?!」
不意に袖を引かれて態勢が崩れた。
頬にあたるぽにょは、おー、ラッキーすけべ?
うーん、暗すぎて全く見えない。
すりすりすり。
むにゅむにゅ。
「にゃ、にゃ、にゃあ!」
あれ?声からヒルダさんかと思ったんだけど猫人だったか。
「失礼しました。ヒルダさんかと。」
「われですぅ。」
なんだ、やっぱりヒルダさんか。
他の人はほんのり光点で見えるのに、ヒルダさんはどんなに目を凝らしてもかけらも見えない。
「本当に居ますよね?」
もみもみ。
これは決してセクハラではなく、ヒルダさんの存在を確認しているだけですよ?
「ひーん。」
「いい加減にしなさい。」
一等星カティに裏拳を食らいました。死ぬわ。
宇宙の虚空でずっと落下し続けているかのような感覚。
一際明るい星、ルキさんが側に居てくれないとなんだか心細くてたまらない。
「神々の視え方かもしれないね。」
「こんな真っ暗な世界が?」
「うん。一度女神様方に言われた事があるよ。ボクは明るいから見つけやすいって。」
あの、眩しく輝く光が神界なら、この世界は神様達にはこれぐらい暗く見えているということか。
ルキさんは星粒でもキラキラオーラ満載なんだな。
シグは動きがシューティングスターだ。
ひとところにじっとしている時はにちゃにちゃジャーキーをかじっている時と遊び疲れて寝落ちた時だけ。
星になっても見ていて飽きない、可愛ええ。
シグの近くにはカティもいる筈だが、オレを壁にめり込ませて以降その緋色の星は姿を見せない。
「何をキョロキョロしているんですか?」
「いや、別に。」
ツンデレ魔王が何処で何をしていようと構わないんだが、真っ暗な世界にいるオレにはあの光源が惜しい。
ルキさんとシグと、時折やってくるエルフの弱い瞬きだけではーーー瞑いんだ。
「ああ、シャイロックさんなら腕まくりしてどっかに行ってしまいましたよ。稼いだるでー、って。」
「大丈夫かなあ?あの人。変なもの仕入れて来なきゃいいけど。あー、ええと。ヒルダさんは?」
「ヒルダさん?そこに居るじゃないですか。」
そこ、と言われても。
そこ、と言われた辺りをはたはたと手探りする。
ぽふぽふ。
うん?
なでなで。
うーん。
ごろん。
「霜降りの枕が有りました。」
「霜降りじゃ、無いいいい!!!」
おー、ヒルダさんだ。
うむ、全く見えない。
目を凝らしても、何の輝きもない。
電球切れてんのかな、この人。
「そういや、あの後どうやってここまで来たんだ?ここ、エルフの里だろ?」
「あの後、ですか。あの時はねえ、本当にびっくりしたよ。トールが喰われるって、シグちゃん飛び降りるんだもん。」
「そうだったな。シグ、ありがとうな。」
「はいぃぃ!われも飛びました!」
いや、あんたはどちらかといえば蹴り落とされてよな?ヒルダさん。
「へえ。気がつかなかった。」
「くぅぅっ。これも修行、存分にわれを貶めるがいいっ。」
やっべ。ヒルダさんが妙な世界に覚醒しそうだ。
「嘘ですよ。見えてました、ありがとうございます。で、その後ってどうなったんですか?」
「え?トールさんがピカーって光って、それからカテ」
ばんっ、と扉が乱暴に開いた音。
待望の紅い星がチラつく。
「ルキ!少し黙って。うるさくて昼寝出来ない。」
「ごめんね、眠いよね。夜の付き添い、ボクがするよ?」
「煩い!寝るっ。黙って!」
また、バタンと乱暴に扉が閉まる。
「あの時、一瞬カティが戻ったのよ。魔王エカテリーナに…。」
ひそりとヒルダさんが囁いた。
「アレが彼女の本性、」
ルキさんも珍しく畏怖混じりの呟き。
「あーいうおばちゃん、トールは好きだと思うぞ!」
代わりにジャーキーを食べ終わったのか、シグが闊達に言い切った。
「アレクセイも言っていたぞ?泣く子とボインには勝てないって。」
「アレクセイ、帰ったらブッコロ!」
隣室から呪いの声が聞こえて来たよ。
アレクセイさん、骨は拾います。
いやあ、早くカティを元の姿に戻してやらないとな。ふっふっふ。




