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先立つもの 1

 服や靴を手に入れるのには先立つものが必要だ。

 肉を売って薬を手に入れた、ということは貨幣制度が整っているということだろう。


 さて。

 裸一貫の身としては労働を対価に稼ぐより他ないのだが、どんな場末の労働者でも裸足にパジャマという装いはないだろう。

 借金を申し込むにしても自分が何で稼げるのか知る必要がある。

「この村で仕事探しは出来ますか?今はこんなんですけど、基本身体は丈夫な方なので畑仕事も出来ると思いますが。」

「この村で職を探すのは無理だな。」

 返す刀で一刀両断にされました。

「ここも過疎地か。」

「うん?」

「いえ、何でもありません。隣街なら働き口はありそうですかね?」

「ない事はないだろうが…。おまえさん、自分の価値を分かっているのかね?」

「価値、ですか?」

 兄貴の蘊蓄が異界転生した黒目黒髪BL特典を嬉しそうに語り出したがシャットダウンする。

 あのアホ兄貴、常々腐っているとは思っていたがマジで腐男子だったんだな。

「えーと。労働意欲はありますが身売りはちょっと。」

 言っていて照れますな。

「誰が買うんだ。おまえさんみたいな貧相でのっぺりした奴を。」

 呆れ顔でライナー先生。二刀目も斬れ味抜群です。

「ぐはあ。」

 どうせ扁たい顔ですよ。ザ・ジャパニーズ低い鼻で眼鏡くいっの美学が分かってたまるものか。

 まあ、貞操は守られるみたいで幸いである。

「この美貌でなければ何の価値です?」

「美貌って…。おまえさん、バックヤード持ちだろう。そのスキル、商人には垂涎ものだぞ。」

「あれ、バレてました?」

「バレるも何も、ダニエルのところでイノシシを出しただろう?チビどもが大興奮で村中言いふらしていたぞ。隠すつもりだったのか?」

「隠した方が良かったんですかね?コレがレアスキルかどうかも知らないし、そもそもどれだけ容量があるかもわからないんですよ。」

 今も入っているのはこれだけだ、と雷獣石と光る葉っぱと記念にしまった木の枝杖を取り出してみる。

「これは、雷獣石か。これぐらいの塊だと流石にぞわぞわするな。」

「これって何ですか?売れますかねえ。」

「雷獣の糞塊で、それを持っていると大抵の獣は逃げていく。」

「糞!?」

「ああ。村じゃ無理だが街なら売れるし、売ったらひと財産だ。こっちは何だ?」

「なんかレアそうな葉っぱだったのでちぎってきました。」

 そうかー。雷獣の落し物のおかげで山中でも獣に遭遇しなかったらしい。

 まてよ?

 じゃあ最初に気配がしていた獣は…。

 済んだことだ。忘れよう。

 一方、ライナー先生は古びた本を引っ張り出してきて葉っぱを前に首を傾げている。

「載ってないな。」

「無いですか。」

 先生の手元の本を見る。

『山菜図鑑』

 先生、ボケてるの?

「薬草図鑑見て下さいよ!どう見てもレアでしょ?これ。」

「おひたしにしたら美味そうじゃないか?」

「光る葉っぱのおひたしなんて食っちゃダメ、絶対ダメ。」

 駄目だと思う、多分。

 後でこっそり図鑑を見たが、ほとんどホゲの実とかホゲの葉とかホゲ茸とか、つまりオレの想定外の言葉は全部ホゲになっていた。

 読めるのに使えねえ。

「しかしなあ。この葉は薬草園でも見たことはないぞ。」

「おー。まさにレア。期待できますね。」

「うーむ。王都の薬草園にない葉か。」

「先生、王都に居たんですか?」

 これはあれか。引退した元凄い人フラグ。

「いや、新婚旅行で嫁と。」

「さいですか。一応聞いておきますが、先生は元侍医とか、賢者の称号持ちとか、」

「おほん。この村一番の医者だ。」

「他にお医者さんっているんですか?」

「失礼な奴め。こんな寒村に医者が居るだけ感謝しろ。」

 藪か。藪なのか。深そうな藪だな。

 もとい。

 オレの甚だ失礼な物言いにもニヤニヤと笑う余裕はそれなりの大人物なのだと思う。

「話は戻りますが、その、オレの価値?ですか。それを使ったいい奉公先なんてご存知無いですかね。」

「奉公先って、人に仕える気なのか?」

「真っ当な処遇なら構いませんが?」

 前世も立派なリーマンでしたし。

 八時間労働で週休二日、勤続二十年で持ち家に手が届けばなんでもしますがな。

 社畜社畜嗚呼しゃーちーくーー♪


 魔力には長けているものの独立心が強く個で行動する事が多かった魔族は、かつてその有用性から狙われて、人間に強制使役されていた。

 長らく続いた逆境に、ついに独りの魔族が人間に反旗を翻した。

 その者は魔王と呼ばれ、賛同した魔族と結託し人間の国を滅ぼし始めた。

 やがて、魔王軍は世界を席巻、人間を荒涼とした地の果てへと追いやった。

 何故魔王が人を駆逐し始めたのか。

 その理由も人の世では朧になった頃。

 今度は独りの人間が魔王討伐の勇者として立ち上がった。

 魔王と勇者はそれぞれの種族の命運を背負い剣を交え続けた。

 長命種族であれども晩年に差し掛かっていた魔王と、短命種族であれどもまだ少年の域に居た勇者は、ともに戦い続け、そして互いの種族の理解を深め、最期に和解した。

 人は魔族を使役せず、魔族は人を殺めない。

 その盟約は魔王と勇者が亡き今も守られている。


「というのは建前で、悪い奴はいつの世にもいてな。」

「はあ。」

「おまえさんみたいなはぐれ魔族を密かに飼い殺している悪徳商人やら、国もあるという話だ。」

「うへえ。」

 いきなり昔話が始まったから何かと思ったが、なかなか殺伐としたエピソードでございました。

「じゃ、オレがふらふら出歩いたら攫われて奴隷落ちしかねないって事ですか?」

「伝説の魔王並みに強ければ無事だろうが。」

「まじか。」

 オレの攻撃魔法は手のひらプシュの水鉄砲オンリーです。

 むしろ水芸で稼げないかな、ははは。

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