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エルフという輩 3

 今日もシグの悲痛な叫びから一日が始まる。

「尻尾の毛が禿げた!もう馬車は嫌だ!」

 気持ちは分かる。

 なだめすかして早二十日。

 思ったよりエリクサーへの道は遠かった。

 オレももうしりとりやあっち向いてホイしたくないよ…。

 スマホで動画を見せたり、携帯ゲーム機で遊ばせておくと言う技が使えない昔はどうやってお子様を車中で黙らしておいたのか。

 ばあちゃんの答えはシンプルだった。

 ざ・飴ちゃん。

「マグマインフェルノ!アンド、スノウホワイト!!!」

 砂糖を溶かして冷やし固めるくらいの魔法はオレに任せておけ、ふはははは。

 あっという間にべっこう飴を大量生産してシグに与える。

 虫歯?糖尿?

 いいんだよ、これからエリクサーを入手するんだから。

「マグマインフェルノ!あーんど、トルネード!!!」

 おまけのコットンキャンディはこの世界になかったようでカティまで黙って手を出してきました。

 それはともかく。

「シャイロックさん。まだかかりそうか?」

「あと半日もすれば馬車旅はしまいやな。」

「お。やっと着きますか。」

「そっから先は馬車は入れませんな。」

「つまり?」

「自前の脚頼みちゅうわけや。」

 あー。またトレッキングか。

 ところで気になるのは徐々に近づいて来るのが実に険しい山だということである。

「よもやまさか、アレに登るってことは無いですよね?」

「アホ言うなや。エルフの郷やで?」

「ですよねー。」

「そこいらに看板掲げて旅人歓待してると思いますか?あの山の向こうに決まっているやろ。」

「さいですか。」

 まじか。

 桃太郎なつもりでいたら西遊記だったよ。

「手前に出店とかないですかね?」

 ほら、本店は山中だけど国道沿いに土産店舗出していたり?

「アホか。相手はエルフやで?」

「一縷の望みを言ってみただけですよ。」

 きっと高慢で居丈高で魔族なんて蔑視してるんだろうな。

 文左衛門さんから紹介状貰ってきたけど急に不安になってきたよ。

「なあ、カティ。エルフの知り合いっているか?」

「全く知らないわねっ。」

「だって、普段はエルフ魔女っ子姿じゃないか。」

「あいつら滅多に外に出てこないからねー。」

「そんなレアな姿じゃなく、アレクセイさんの様に人間に化ければいいのに。」

「で?魔王である可能性のある者は皆殺しだけど?」

「魔女狩りがあったのか?」

「魔王様は下等な人間になど化けないのよ。分かった?」

 カティは、魔王は…。

 何故、人間と戦ったのか。何故、未だ人間の国に現れるのか。何故?何故?

「トール?あたしが怖い?」

 カティが、怖い?

 得体の知れない、魔王様が怖いか、だって?

「笑止!貴様は魔王でもツンデレ大魔王だ!恐るるに足らんっ。我が必殺技に慄くがよい!」

 くらえっ、最終奥義っ。

「………何、これ?」

「見てわかりませんか?特盛綿あめです。さっきより当社比三倍の大きさです。」

「馬車の中で食べるものじゃないわね。シグちゃん、ヒルダ、さっさと片付けるわよ。」

 これはデレにカウントしてもいいかな?

「食後におしぼりと渋茶も用意してあるからな。」

「…ぼさっと見てないであんたも片付け手伝って。」

「ちょ!」

 顔面に綿あめ押し付けられました。デレすぎだ。魔王、怖い子。



「諸君、何故山に登るのか!」

「目的地が山の向こうだから。」

 にっこりとルキさん。

 いやまあ、そうなんですが。

「オレの元いた世界では、そこに山があるからだと続くんだよ。」

「だから?」

 つれなくカティ。

 いや、だからと問われても困るんだが。

「トール、登らないのか?」

 さくさく登り始めたシグがするすると降りてきた。

 犬じゃなく、猿だな。

 目前に現れたのは海岸の断崖絶壁程ではないとは言え、素人が登るには少々難易度の高い岩山だった。

 身軽なシグやカティとアサシン稼業のシャイロックさんは行けそうだがルキさんとヒルダさんは運動音痴っぽいからなあ。

 オレ?

 木登りマスターの称号は伊達じゃない!

「ルキさん、ヒルダさん、登れそうですか?」

「うん、無理かな。」

 スマイリールキさんは、当然のようにそう仰った。

 オレもそう思う。

「為せば成る!」

 一方、ヒルダさんは胸を張ってくれたがフリーフォールしていく姿が浮かんだよ。

 うーむ、やっぱり無理そうだ。

「どうしたものかな。」

 カティから魔力を貰ってオレがエリクサー飲みながら飛ぶか。

 あれ?

 何かが、引っかかった。


 ぽくぽくぽく、ぴっかちーん!

「もしかして、ルキさんヒルダさん、飛べます?」

「えーとね?トールの事を見捨てたりしないから安心して。」

「飾り物だとでも思っていたのか!」

「偉い人だから分からんのですよ!」

 ふんぬと反りくり返るヒルダさんへ反射的に突っ込みを入れてからオレはまじまじとカティを見つめた。

「何?」

「もしかして、海辺の崖、登れたか?」

「あれは無理ね。」

 そ、そうだよな。

 流石のちびっ子魔王様でもあの断崖絶壁は無理だよ、うん。

「カティちゃんやシグちゃんぐらいなら抱っこして飛べるけどねぇ、トールはちょっと無理かな、ははは。」

「馬鹿者っ、それは禁則事項でござる。」

「あ、内緒だったっけ?」

「なんで隠していたんだよ!」

 つまり、あれか?

 オレが居なかったら海岸サバイバルキャンプなんか一瞬で脱出出来たし、そもそもかあ子を召喚なんてしなくてもダンジョンまで楽勝で来れたのか。

「仲間割れでっか?日が暮れる前に登ってしまわんとえらいことになりまっせ?」

「…登るよ。」


 オレが怒ったとかいじけたとか泣いたとか、みんなが好き放題言っているのをBGMにして黙々とロッククライミングをすすめる。

 時折、シャイロックさんが引き揚げてくれたり、しぶしぶヒルダさんが足場になってくれたりしてなんとかオレも険しい岩場をこなしていく。

 考えてみれば飛べるといったって海上を何日も不眠不休で飛び続ける事は出来ないだろうし、隠していたのもオレを慮っての事だろう。

 足手まといである事は否めなくとも、決して仲間外れにされていた訳では無い。

 オレが僻む必要も、彼らがオレに気を使う必要も、無い。

 ルキさんとヒルダさんはシグとカティを連れて早々登頂済で上からオレに足場を指示出ししてくれている。

 あと一息。

 山登りを終えたら、皆んなと話そう。

 オレにしか出来ない事、主に料理とか洗濯とかだけど、日常生活はフォローするからそれ以外では心置きなく手救けしてくれ。

 女子供イケメンに助けて貰ってもささくれるようなプライドは特に持ち合わせていないから安心しろ!

 オレの心中の暗雲が晴れると同時に、絶景を夕陽が赤く染め上げた。

 嗚呼、なんて綺麗なんだ。

「シャイロックさん、見ろよ、夕焼けが綺麗だ。鳥も巣に帰って行く…。」

「鳥?あかん、トールっ早う登れ!」

「え?」

「ちっ、先行くで。」

「あ、はい。」

 なんだよ。シャイロックさん、つれないな。

 あと少しなんだから付き合ってくれてもいいだろうに。

「とーるぅぅ!頑張れー、あと少しだぞー!」

 シグは優しいのう。

「トール!」

 お、カティまで応援か。

「トール殿おお!ご飯は置いて行ってええ!」

 ヒルダさん、声援がおかしいよ。

「トールさんっっ!!!」

『ギュエエエエ!!!』



 え、何?

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