エルフという輩 2
「もう嫌だ!」
乗り心地はさほど良くは無いものの、徒歩よりよっぽど楽な馬車旅をシグが全否定した二日目の朝。
オヤツで釣っても骨肉で釣っても地べたにひっくり返ってイヤイヤと暴れるシグにカティが早々に匙を投げた。
「大体、ダンジョンとは真逆じゃない。行く必要があるの?」
「ある、ありますとも。せっかく文左衛門さんからエリクサーの入手先を聞き出したんだ。ここはダンジョン攻略前に仕入れておくべきだろう?」
「エリクサーなんて、ようは怪我しなきゃいいんでしょ?」
「エリクサーがあればオレだって魔法がばんばん使えるんですよ?」
「魔法なんて大袈裟な。たかたかダンジョンじゃない。」
「そのたかだかダンジョンに辿り着く前に決死の覚悟をさせたのはあんたでしょうがっ!」
「あー、蟹は食べてみたかったわね。」
泣く泣く巨大蟹を放置したのも断腸の思いだったがそっちじゃねえよ。
「なあ、シグたん。無効の指輪を手に入れないといつまでもちびシグのままだぞ?シルバータグの冒険者、金狼のシグに戻りたくないのか?」
「戻ったらオヤツが小さくなるからこのままでいいっ。」
無駄に賢いな。
「とにかく、回復アイテム無しにダンジョンへ潜る気は無いですから。」
「それじゃ、さ。あたしはこの辺りで待ってるから、あんた行って来てよ。」
「この辺り、ですか?」
ルキさんが怪訝な顔で辺りを見回す。
舗装のされていない馬車道の脇にある小さな広場に井戸と焚き火あと。他には何も無い。
昨夜は野宿だったんだよね。
「どうした、腹でも痛いのか?」
「そうそれ、それそれ。」
嘘臭さマックスだな。
「言い訳は馬車の中で聞きますからとりあえず乗って下さい。そういえば市場の土産もまだ渡していなかったですよね。シグも、こんな野っ原で駄々こねていると肉スラが出るぞ!」
「その手には乗らないぜ!」
「肉スラ、狩って来まひょか?この辺りには巣があった筈ですわ。」
「行こう、トールっ。モタモタすんな、出発すんぞ!」
言葉の威勢と裏腹に尻尾が脚の間に挟まってプルプルしてますが。
相変わらず癒されるわ、シグたん。
「トールさん、何かよからぬ事を考えてない?」
「いやあ、ちびっこシグたんと美女アレクセイさんのままでもういいんじゃないかな?」
「ボクもそう思うけど、戻ったらアレクに殺されるよ?」
「炎帝の怒りは怖いでござる。」
ヒルダさんも蝙蝠の様に翼を身体に巻きつけてガタガタ震えている。
うざい。
「はー。じゃ、出発しますよ?」
まだ二日目なのに、皆んなのやる気が底をついている。
嫌な感じだ。
馬車の中でも引き続き雰囲気は最悪だった。
要領の良いルキさんは早々にシャイロックさんと馭者席に座ってしまい、オレはぐずぐずのシグと能面顔のカティと妙にハイテンションなヒルダさんと狭い空間で膝を突き合わせている。
「ほら、シグ、カティ。市場の土産だよ。そろそろ、機嫌直そうぜ?」
「あああ!そうであった、トール殿っ。我の戦利品をここへ!」
「あー、そういえば荷物持たされてましたね。返して欲しいですか?」
「あ、当たり前だ!貴公はか弱い婦女子をお、脅すのかっ?」
「別に?荷物持ちの屈辱でどこにしまったか、あれー、取り出せないなあ。」
「そ、そんな!トール殿っ、トール様!後生ですから返してください。」
もはや言わずとて土下座のヒルダさん。
カティの眼差しが冷ややかでオレが居たたまらないからやめれ。
「冗談ですよ。オレがあんなヒラヒラ持っていても仕方ないでしょ?それともアレクセイさんへの土産にでもします?」
「我のー、我のですうぅ。」
「はいはいはいはい。返しますよ。」
どっさりと戦利品の山にヒルダさんを埋葬してやる。
「ちょっと、邪魔!早くしまって。市場で見つけられなかったって、買い物を楽しんでいただけじゃない。」
「ヒルダさんはそうでしたけど、オレは探しましたよ。現にシャイロックさんの脚も治ったし、他にも」
「土産なんて誰も頼んでいないわよ。」
出たよ、ツンデレ魔王様。
「頼まれて買うのは土産ではなく買い出しです。一体何が気に入らないんだ?そりゃ、多少遠回りになるけど、エリクサーを手に入れてからダンジョンに向かった方が安全だと思うのは間違いか?」
「間違いね。たかがダンジョン、魔王のあたしがさくっと攻略してやるわ。」
「そうだそうだ!俺様がさくっと攻略するぜっ。」
「幼生体は引っ込んでなさい!」
そこまで言いますか。
「そうかよ。じゃあ、シグ。もし、カティが怪我でもして魔法が使えなくなったらお前は赤ちゃんになってしまうがいいんだな?カティ、シグを危険に巻き添えて後悔しないな?」
「偉そうに。何様のつもり?」
「保護者代理様だ!参ったか?」
オレはここぞとばかりに言い切った。
そう。
オレは引率者なんだよ。別に誰もオレに期待はしていないだろうけどさ、アレクセイさんの所へ無事シグを連れ帰るまでは言い負かされる訳にはいかない。
「あ、そ。じゃ、お手並み拝見だわね。」
「なんだよ、その含みは?」
「べーつーに?それより見せて貰おうかなっあたしの土産とやらを。」
「ファンネル放出してえな、おい。」
「ほげ?」
くうう、つ、通じない。異界転生、つらたん。
「はい、どうぞ。レインボークッキーです。」
「オヤツか?」
「シグにはこれな。スパイシージャーキー。それと、」
あうっ。視線が痛い。
「………。」
ヒルダさんが衣服の山の下から物凄い上目遣いで見つめてきます。
「あのですね、ヒルダさん。」
「わ、我とてわかっているっ!土産は、土産は、留守番のご褒美。」
「あ、じゃあヒルダさんの分はオレが食べて、」
「あるのですかあああ、私の分っ?どこまでもついて行きます!トールさんっ。」
いや、きびだんごじゃないから寧ろ付いてこなくても良いんだよ?
この人の返品先はやっぱりアレクセイさんだろうか。
ヒルダさんのおかげで竜骨とどこでもの裏口の事を報告しそびれてしまったが、まあ、この狭い中で渡すことも出来ないし後でいいか。
ちなみにルキさんへの土産は前述の通り、ニューパンツ。
オレには眼鏡、シャイロックさんにはサングラスが土産です。
ポーションで近視も治る世界ですが、眼鏡は玉ねぎの山の横で売っていましたよ。
なるほどねー。




