買い物をしよう 2
この光景は見たことがあるぞ!
確か、劇団春夏秋冬の。いやいや、あれはもうちょっと獣よりだったかな。
「トール、鼻息が荒いわよ。」
「だって。猫耳パラダイスだよ?」
王様はロバの耳という童話があったが、こちらの王様は猫の耳である。
でぷりと貫禄のある巨体に猫耳。
お世辞にも可愛いとは言えないおっさんだけど猫耳。
その王様猫人にご注進している大臣っぽい人も、猫耳。
この人はあれだ、恩返しとかしてくれそうなスリムな猫人。
そしてその人を少し小バカにしながら控えている武人さんも猫耳。しかもトラックと戦いそうな千切れ耳。
王様の背後やオレ達の傍で控えている衛兵もね、こ、耳!
「いつまで待たせる気だ!こちらにおわす方をどなたと心得る。」
あ、ご飯が出てこなくてヒルダさんがキレた。
印籠でも出すのかな。
「才は魔王軍きっての智将と誉れ高く、立ち姿は芍薬薔薇かと唄にも聞こう、八将が氷帝とはこのお方だ!」
お。名乗りが盛り盛りだけど自分でなんとかしてくれるのか。
よきかなよきかな。
「芍薬?」
「薔薇?」
「え、オレ?」
気まずい。
背中をポンと押し出され、よろと一二歩進み出たオレを、ぽっかーんと見つめる王様猫人。
その横でやれやれジェスチャーの大臣猫人と失笑している将軍猫人。
オレの背後でもカティの高笑いが聞こえている。
「えーと、ですね。オレ、私達はこの大陸にあるらしい無限ダンジョンに向かう途中でして。海辺で妖魔に襲われて命からがら彷徨っておりました。先に武器もお渡しした通り、皆さんと戦う意思は有りません。食料も尽き、救助の上へ御厚意嘆願恐縮ではございますが、何卒しばしの滞在許可を頂きたく存じます。」
「長いな。こやつは何と言っておる?」
「はっ。腹が減って動けない、と、申しております。」
…ど直球だな。
「よし、宴会だ!」
話が早いぞ!
「此奴らを捕らえろ!」
は?何でそうなる?
「ふふふ、余の城に忍び込んだ罰に飢え死にの刑だ!お前達の前でご馳走をたらふく食べてやる!ふっふっふっ。」
「ふっふっふっ。」
あら嫌だ。王様性格悪かったんだな。
それはそれとして。
あのう、ヒルデガルドさん?
「ふっふっふっふざ、ふざけるなあああ!」
おお!
鑑定、ヒルダさん。
凄!戦闘能力値がみるみる上がって、いたりは全くしねえな、おい。
どうすんだ?まさかのオレ任せじゃないよな?
「我を謀った事、地獄で省みるがよいわっ!」
反省を促す前にさくっと地獄送りにした方がいいと思うぞ?
ライオンも、虎も、ジャガーも豹もチーターもネコ科である。
ヒルダさんがうっかり挑発したら猫人さん達が挙って猛獣の顔付きに変わってしまった。
「なあ、ルキさん。何とか落とせない?」
「女性ならともかく無理ですよう。」
加護が無いとほんと役立たずだなあ、ルキさん。
「カティ、シグ。盗賊団の時のように倒せるか?」
「武器出せってー?誰かが言ってー?素手なんですけどお?」
「俺様はやるぞ!戦うぞ!」
ありがとう、シグたん。尻尾が股に潜ってるけどな。
じりじりと包囲網が狭まり、まずは大言壮語のヒルダさんの肩に衛兵の手が触れた。
その時!
って貴女には何の期待もしていないです。
オレはシグたんを抱きしめてぎゅっと目をつぶった。
「うにゃあ!」
「にゃ!」
「みゃーっ!」
何々?何ごと?
「はっ。我を捉える?片腹痛いわ。」
なんか拾い食いでもしたか?ヒルダさん。
「か弱き乙女に許しも得ず触れるとは言語道断!天罰その身で受けるがいいっ!あーっはっはっは!」
高笑いするヒルダさんの足元で猫人達がのたうちまわっている。
「凄い!何をしたんだヒルダさん?」
「ふっ。天誅を下してや痛たたた。」
「このポンコツが何か出来るわけないでしょ?」
「まあ、そうですね。でも一体……?」
ルキさんがパタパタとチキンウイングを羽ばたかせているが、特に何もしていないよな?
「うにゃれひきょーにゃりー。」
「あら、まだ理性が残ってるの。さーすーが、王様ねっ。ご褒美あげるわよー。」
「や、やめるのにゃあああ。」
カティが完全悪役の笑顔で王様に近づくとぺしんと顔面に手のひらを撫で付けた。
「これはもしや。」
「そ。獣人対策は完璧よー?これ、武器じゃないしねえ。ほーっほっほっ。」
鑑定スキルを使わなくても分かったぞ。
カティが擦り付けたのは、マタタビの粉だ。
よくよく見れば、ルキさんがパタパタしている床にも粉が撒いてある。
「さ、今のうちよ!」
「そうだな!今のうちに逃げ、」
「トールとシグは厨房に、ルキ、ヒルダはあたしと宝物庫に向かうわよっ。」
「それは、泥棒…。」
「慰謝料よっ。苦しうないわっ!」
まー、どのみち食料は調達しなくちゃならないし、武器も返してもらわなくちゃならないからな。
「わかった。カティの言うことも最もだ!」
良い子のみんなは真似しちゃいかんが大人には大人の都合があるんだよ。
突撃 お城の晩御飯!
はい、皆さまこんばんわ。
今日は猫人のお城の厨房を突撃してみたいと思います。
「こ、これは!」
きらきらと輝くのは、ほっかりと炊き上げられた白米。
その上でちりちりと、舞い狂うのは丁寧にかかれた鰹節。
「トール、どうした?大丈夫か?」
「だ、大丈夫、だ。」
オレとした事が!
よもやまさか、ねこまんまで泣く日が来るとは思わなかったぜ。
あっけにとられた厨房の猫人達をそっちのけに、秘蔵の醤油を垂らした丼飯を駆けつけ三杯頂きました。
「トールゥ、俺様も食べたい…。」
「は、ごめん!シグにもよそってやるな。」
「はぐはぐ、美味いなこれ!」
そーだろそーだろ。泣けるほど美味いだろう。
「あの、あんた達は?」
「うむ。オレ達は王から厨房の監査を命ぜられている。ここにあるだけの食材を並べろ!」
「そうだ、並べないならマタタビ爆弾だ!」
「にゃ、にゃにゃにゃー。」
マタタビ粉撒いちゃったよ…ま、いっか。
「よし、シグ!今のうちだっ。」
「おう!レーション確保だ、突撃ーっ!」
オレとシグの通り抜けた後には米粒一つ残らなかった。




