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異世界へようこそ 4

 空きっ腹を抱えて行き倒れること小一時間。


 悲報、誰も通りません。

 日はまた暮れようとしている。

 ぼうっと座り込んでいる間に閻魔様の冊子を読んでみたが、大した事は書かれていなかった。

 いや、この世界の大要は書いてあったのだが、七種族六大陸とか今のオレには何の役にも立たない情報だ。

 このままでは本当にまずいと疲れ果てた体を起こそうとしたが、じいちゃんの我慢もかあさんの頑張りももう力を貸してはくれなかった。

「水…。魔法世界じゃ、なかったのかよ。」

 手を宙にかざして水球を思い浮かべる。

 せめて末期の水ぐらいは飲みたい。

 掌に溢れた冷たい水を貪り飲んだのは、果たして妄想なのだろうか…。



 陽はまた昇る。

 健康な人間は必要な水分が取れれば、そうそう行き倒れないらしい。

 どうやら水魔法は使えたようで空腹は相変わらずだが喉の渇きは癒えていた。

 …早く知りたかったよ。

 それはさて置き。

 気絶するように睡眠も充分とったので気力体力共に復活している。

 この道もローマは無理としてもどこかには通じているはずだ。

 静々と昇っていく太陽に拝礼してから歩き出す。

 歩きながら、水が出るなら食い物も出ないかと、肉肉肉などと念じてみたが反応は無い。

 やむなく手のひらにちょろんと溢れる水を時々啜り、ひたすら歩いた。


 そして、ついに。

 つ、い、に!

 祝、ファーストコンタクト!


 いや、これ。

 喜んで良いのでしょうか?


 だってさ。


 行商人っぽいおっちゃんが何かと闘っています。


 えー、オレのステイタスなう。

 武器:木の枝、拾った石

 防具:パジャマ

 攻撃魔法:手のひら一杯の水

 状態:行き倒れ寸前


 対しておっちゃんが剣で闘っているのは二足歩行のイノシシ。

 しかも、でっか!

 いやこれは無理。

 むしろ死亡フラグでしょ。

 いいよ?閻魔様。山ん中にいきなり放置でもさ。

 そこそこ野生児育ちですから。

 でもね。

 ファーストコンタクトの相手を見殺しにして逃げるか、無謀承知で突撃するかの二択なんてひど過ぎやしませんか?

 しかも、救ける相手はむつごくてあまり裕福そうでもないおっちゃん。

 打算も触手も働きませんがな。

「ちっ、」

 日本男子総てが空手武士道心得ていると思うなよ、こっちは通学片道二時間で部活すらやった事ねえっての!

「うりゃあ!!!!」

 片手に持つ石を投擲し、木の枝を無茶苦茶に振り回しながら参戦を決意する。

『ブモモモモォォォーーー⁉︎』

 イノシシもどきが目をひん剥いてこっちを振り向いたところにおっちゃんの剣がぐさりと刺さる。

 勢いついて走りこんだオレの上に絶命したイノシシもどきがどうと倒れこんできた。


 お、重い。


「あんた、大丈夫か?」

「な、なんとか。ありがとうございます。」

 ジタバタしていたらおっちゃんがイノシシもどきから引きずり出してくれた。

 助けたんだか助けられたんだか非常に微妙な感じになってしまったが、まあ、お互い無事でよかったです。

 言葉もあっさり通じて、二度ほっとする。

「あんたは、」

 おっちゃんが剣をしまいながら、言い淀む。

 気持ちは分かります。

 布団から這い出た格好のヨロヨロ異邦人を見れば、どこから突っ込もうか迷いますよね。

 オレも、訊きたい事は山程あります。

 が。

「すんません。厚かましいのですが、何か、食べるもの、貰えませんか…。」

「お、おう。残り物の詰め合わせだが、食ってくれ。」

「ありがとうございますっっっ!」


 あまりの食べっぷりに弁当の他に売り物の干し芋や干し果物、干し肉までご馳走してくれた。

 うう、めっちゃいい人だ。

 見捨てなくて良かった。

 助力が必要だったかは、今となっては疑問だが…。

「いやいや、助かったよ。あんたが雷獣石を投げてくれたからイノシシに隙が出来た。調子に乗って倒してしまったが、まさかあんたまで突っ込んで来るとはな。棒術の達人なのかい?」

「いえ、全く。流石に投石だけの加勢では居た堪れなかったというか。」

「それは無茶なことを…。」

 生暖かい目で見られてしまった。

 無事で済んだから良いようなものの助っ人に来た相手が怪我でもしたらおっちゃんも寝覚めが悪いよな。

 考えなしですみません。

「さて、あんたここで待ってな。荷馬で戻ってくるから、ちょっと肉番していてくれ。」

「え?」

「雷獣石があれば他のケモノも襲っては来ないさ。ほんの一刻ほどだ。肉は折半でいいな?」

 雷獣石というらしい御大層なネーミングの石ころも気になるが、それよりも。

「肉って、コレのことですか?」

 御臨終の二足イノシシを指す。

 小冊子には獣人なんて記載もあったからちょっぴり不安だったのだが、コレはケモノの範疇らしい。

「ああ。隣町まで行商に行こうかと思っていたんだが、あんたのおかげで思わぬ稼ぎになったよ。」

「ええと、それならば。」

 テッテレーはい、四次元収納!

 閻魔様、さっきは文句をつけてごめんなさい。

 収納スキルに言語チート、水も、たいへんありがとうございます。

 さくっと仕舞ってみたらおっちゃんが唖然とした。

 あれ、これってもしかして。

 本物のチートスキルなんだろうか。

「あ、あんた、」

「はい!」

 勇者か?とか訊かれちゃうのかな。城から迎えが来ちゃったり。

「あんた、魔族だったのか!」

「へ?」

「黒目黒髪だからまさかとは思ったが…。」

「!!!」

 薄々察していたが、容姿は元の標準的日本人のままらしい。

 自分で言うのも何ですが、ブサメンではありません。イケメンでも無いけどなっ。

 一番良い評価が好青年。

 一番悪い評価が地味。

 いや、そんなことよりも、だ。

「オレ、魔族なんですかっ!?まさか勇者に討伐されちゃったりするんですかっ?」

「おち、落ち着け!なんだか訳ありそうだが、自分の事も記憶に無いのか?」

「あるような?」

「な?」

「ないような。」

 そのあたりは説明し難いのですが。

「…そう、か。とにかく、村まで戻るぞ。付いてきな。」

「はい!死にものぐるいで付いていきます!」

「いや、歩けないなら無理をするなよ?馬、連れてくるからな。」

 おっちゃん、あんたいい人すぎるぜ。くう。

 情けは人の為ならずって本当だな。

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