書を持たずして旅に出よう 3
「てんちゅーっ!月に代わってお仕ぎゃふん…」
「誰か何か言った?」
あーまた変なのが出てきたよ…。
遡る事半月前。
王様自ら説得にあたったが、ルキさんの決意は固く一緒に旅に出る事になってしまった。
仕方なく王様は秘蔵のエリクサーひと瓶と各騎士団から回収したポーションを山のように持たせてくれた上、最初の目的地、アレクセイさんの居るクリーエルまで馬車を仕立てて更には黒騎士団を護衛につけてくれました。
おかげで安心安全快適な旅となりました。
とはいえ、王直属の精鋭騎士団が伯爵城下にに立ち入るのは流石にいらぬ火種を撒く事になると、街の入り口ですっかり馴染みの憲兵隊長さんにオレ達を引き渡したのがつい先刻。
ホームタウンに戻ってシグの足取りも軽く、迎えの馬車を断わり長旅で凝り固まった体を下町の屋台などを冷やかしながら歩き始めたばかりである。
「いいや、何にも聞こえないぜ?」
「トールっ、俺様の耳にはぎゃふんって聞こえたぜ!」
隊長をお供に買い食いしに先行していた筈のシグがどやあと耳をぴくぴくさせて報告してきた。
あーあ、もう。ダメだよまともに相手をしたら。
「はーっはっは!魔法の使えぬ魔王など、恐るに足らんっ。積年の恨み、ここで会ったが三十九年目だっ!」
無駄に突っ込みどころが多過ぎて対処のしように困るな。
「とりあえず、足をどけてやれ。可哀想だ。」
カティに一蹴され、あまつさえ上に仁王立たれていながらなお強気の台詞回しは、まあ買ってやらなくも無いが、見ていて哀れすぎる。
カティを脇に下ろしてから立ち上がるのに手を貸して、埃を払ってやる。
「魔王の下僕にして情けを知るとは天晴れだ。いつか報いがあると思い知れ。」
「粘着そうなので忘れていただいて結構です。」
助けた亀に竜宮城なんかへ連れ込まれたら人生終わりだ。
あ、そうだ。
「玉手箱下さい。」
カティ達に老化の煙を浴びせたら問題解決じゃないか!
「くっ、手救けも只では無いということか。」
そう言われると心が痛むが、って何コレ?
「受け取るがいい、守銭奴め!」
「いやいや、オレが欲しいのは玉手箱で金では無いし、そもそもコレは金目のものですらないでしょうが。」
懐かしのグレイトバナナ、しかも皮のみである。
率直に言ってゴミだな。
「大体ほげとはなんなんだ、ほげとは!」
「お気になさらず。先を急ぐので、失礼します。」
「うむ、そうか。って、待てい!我に対する数々の仕打ち、よもや忘れたとは言わせぬぞっ。」
「えー?忘れたー。忘れた忘れた忘れたー。」
「きーこーえーなーいー。」
ガキの喧嘩か、全く。
「くんくん。俺様、こいつを覚えているぞっ!こいつはアレクの、お友だちだ!」
「おお、君はアレキサンデルシグムンド君ではないか!久方ぶりに会ったが小さくなったな!よし、焼肉を食いに行こう!」
「本当か!」
「散歩もしよう!」
「絶対だぞ!」
「ボール遊びもしような!」
「カティ、トール、この人はいい奴だ!俺様が捕食するぜっ。」
シグたん、食べちゃ駄目だよー。それを言うなら保証な?
「トールさん、まだかかります?ボクは先にアレクの所へ行っていてもいいかな。」
「新たな下僕、天人か。また見目で侍らせたな。隷属の軛から今解き放ってくれるわ!覚悟しろ。」
「えーと、この人なんて仰ってます?」
「魔王にストーキングされているなら今助けるよ、骨は拾ってね。」
「そうは言っていない!」「誰がストーカーよ!」
「ははは。女の子に好かれるのは大歓迎ですよ。」
女神由来のキラキラエフェクトと真っ白な服こそ無いが、たらしイケメン顔とフェミニストぷりは相変わらずのルキさんである。
隊長、ここに窃盗の現行犯がいますよ!大量の女心を盗んでいきましたっ。
「ほーっほっほっ。まあ、あたしの人徳って奴かしら?昔のポンコツ下僕なんてお呼びじゃないわけ。」
「誰が下僕だ!我は魔王軍八将氷帝ヒルデガルドだ!」
「下僕じゃねえかっ!」
思わずノリ突っ込みを入れてしまったが、ヒルデガルドさん、氷帝ですか。
ははは。
オレが騙った事は黙っておこう。
「駄目だぞ、嘘は。氷帝はトールなんだから、な?トール。」
うおーい、シグたん。そして、カティさん。道端で抱腹絶倒しないでください。状態異常、笑いすぎ、だそうですよ。
「いつまでやっている気だ?歩かないなら馬車を呼ぶぞ。日が暮れてしまう。」
隊長、ごもっともです。
氷帝と魔王の対決なんてオレがどうこう出来る話じゃございませんとも。
ここはサクッとアレクセイさんに事態収束を任せましょう!
「ヒルダ、紹介しよう。新氷帝のトールだ。」
アレクセイさああんっっっ!
オレの今のステイタス。
称号:七神の祝福を持つ男
称号:新氷帝
称号:魔王の下僕
称号:獣人シッター
称号:炎帝の使いっ走り
称号:天人の引き立て役
…きっとこんな感じ。




