書を持たずして旅に出よう 1
「トールくんはアホの子ですかあ?」
へいへい、なんとでも言って下さい。
「あれえ?お返事ないなあ。悪い子にはお仕置きしなくちゃねっ。」
「ちょ!何する気ですかっ!ぎゃあ!」
か、カツ丼っぽい何かが、オレのご飯がーっ。
「あら、美味しいじゃない、これ。」
「ううう、団長の差し入れが…。さらばトンカッツー、君の勇姿は忘れない…。」
くそう、シグたんがお膝でうたた寝をしていなければ直ぐにでも救出したものを!
「団長おー。部外者放り出して下さいよ。全然話が進まないじゃないですか。」
「そうは言ってもな、」
団長が立ち上がってカティをつまみ出そう素振りを見せるとひんやりとした魔王の殺気発動。
団長があきらめて椅子に座る。
「たかだか事情聴取で殉職する気は無いぞ。それより魔王が召し上がっている間に進めてしまおう。」
「デザートにはケーキが食べたいわっ。」
「オレはトンカッツーと再会したいです。」
「…はあああぁ。」
仕方ないじゃないか。腹が減っているんだもの。
ルキさん復活とともに<生命の書>が消えて、なんで私に使わなかったのかとカティにマジギレされたオレは団長御自らにダナス宮へ運んで頂き、大神官から治癒を受け危うく一命を取り留めました。
ついでにダナス神ともコンタクトして天界の情報も仕入れたぜ。
下界大好きでめちゃくちゃフレンドリーな神様なのに生真面目な神官しか祈祷して来ないと退屈していて、愚痴と噂話に付き合ったオレに加護を沢山下さいました。
まあ、そんな感じですっかりリフレッシュしたオレは丁重に礼を述べてから再び旅に出ようとしたのだが、待ち構えていた団長に取っ捕まって懐かしの緑騎士団に連れ戻され事情聴取を受けている次第だ。
「じゃあ最初から説明しますね。覚悟はいいですか?」
「ああ。」
団長、話を聞くだけなのに悲壮な顔で頷かないでくださいよ。
「冒険者ギルドの現総長が、魔王軍八将炎帝だと知ってますか?」
「そ、そこからなのか…。」
流石です。ご存知のようである。
先日、家出シグたんを連れ戻しに来た御仁だと気付いているかな?まあこれ以上心労を与えてるのは本意ではないからスルーしておこう。
「で、そこの幼女が魔王で、」
「はあああぁぁぁ。」
いやいや、まだ本題に入ってませんよ?登場人物紹介で落ち込まないで下さい。
「二人が喧嘩して、あ、大丈夫です。クリーエル消滅とかしていないですから。」
「してたまるか!」
「はあ。消滅の代わりに、魔法の誤爆でカティとシグが幼児に、アレクセイさんは美女になってしまいました。」
「もうそれでいいじゃないか。」
団長、独り言聞こえてますよ?
「姿が変わった以外にも、カティは魔法が使えない、シグはカティの側にいなければならない、アレクセイさんは伯爵城から出られない、という制約がかかってしまい魔法解除は必要です。」
「魔法が使えない?」
「魔法なんて使わなくても一国滅ぼすのくらい楽勝よ?試す?」
「カティー。一々喧嘩売らないで、黙って食べていて下さい。団長も大人なんだからそういう事は後からこっそり確認して下さいよ。」
「す、すまん。」
まったく。
「それで、秘宝の類で解呪しようという話になり、アレクセイさんは身動き取れないのでオレとアレクセイさんの知り合いのルキさんにカティとシグの秘宝探索の付き添いを頼まれた訳です。」
「大神官殿や赤騎士団には解呪出来ないのか?」
「さっきお会いしたので一応聞きましたが、無理だそうです。」
「あたしに解呪出来ないものが、人間ごときに出来る訳ないでしょ?」
「そう思って、ダナス神にも聞きましたが単なる解呪は専門外だそうです。」
「ダナス神に聞いた?」
だからあ、そういう質問はオフレコで、ね?
「ルキさん以上の祝福持ちになれば解呪は問題ないようですが、そうなると日常生活に支障をきたすからオススメしないと仰ってました。神の祝福って、君のこと好きだからいつでも神界においでねーっていうある意味神の呪いだそうなので。」
誰にでもモテまくるとか、草生えるとかは確かに嫌がらせでしかないよな。
「そのルキという天人は何者なんだ?」
「そういえばルキさんは?」
「サーラ神官長が迎えに来て、王宮で晩餐の筈だ。」
「オレは団長とトンカッツーなのに?」
「不満なら貴様も王宮送りにしてやるぞ?礼服着せてな。」
「団長と差し向かい光栄です。」
まあ、魔王を城内に連れ込むわけにも行かないだろうしな。
貧乏くじを引いているのは団長も同じか、気の毒に。
「で、ですね。ルキさんに秘宝を取りに行くという事情を説明していたら、ルキさんを加護している女神様達があっさり探そうとしていた<生命の書>をくれたんですよ。ルキさんが何者かというほどオレも付き合いは無いですが加護していたのはサーラ神とフローラ神とイリア神の三女神だそうです。それでですね、」
「待った!待て待て待て。三神の加護持ちだと?!」
おっふ。
驚くのはそこか。
こと加護だけならオレの方が持っているぞ、レベルは低いけどな。
「はあ。で、頂いた本をアレクセイさんに届けようと街を出たら金遣いの荒かったカティ達が盗賊に狙われていて、その巻き添えでオレとルキさんも捕まっちゃったって訳です。」
「神託はどこに絡むんだ?」
「もー、何でもオレに聞かないでくださいよ。」
とはいえ、本当に知りたいのはそこなんだろうな。
カティももぐもぐ食べながら耳がこっちを向いている。