冒険の始まらない 4
「お、トールじゃないか。姿を見ないと思っていたらこんな所で何やってんだ?」
「トールなら悪い女に引っかかって子ども押し付けられてって、トール?居たのか。大変だな、お前。」
「まさか盗賊になってるとはな。見損なったぞ?」
「待て待て、こいつが盗賊なんかになれる訳ないだろ?大方ドジかマヌケをやらかして捕まっていたんだよ、な?」
騎士団の皆様お久しぶりです。そして、オレが皆さんからどういう目で見られていたかよーく、よおおく、分かりましたとも。
「団長の密命を受けて、盗賊団に潜入捜査をしていたんですよ!」
「嘘だろ。」「嘘だな。」「嘘だ。」
「トールがそんな嘘をつく訳ないだろ!きっと酷い目に遭わされて混乱しているんだよ。な?」
若干一名のフォローが痛いです。
「それはさて置き、これから闇市場へ光の天人さんを探しに行く事になったんですが、闇市場ってどんなところですか?浮き輪売ってます?」
「ほげ?」
おっと。この世界、浮き輪は無いのか。
闇市場ってどんな所かな。
バザールとか夜市とか蚤の市とか、おー、ちょっとワクワクするぜ!
カティが水着を買おっと、なんて言うからもっと爽やかな市場を想像していました。
これはアカン!子連れできちゃアカン奴や!
ただ今、緑騎士団の本気が炸裂しております。
ネットのアングラサイトのリアル版です。
売っちゃいけないモノが売買されています。
奴隷さん助けてご主人様好きっ、とか無いだろうとラノベ読んで思ってましたが、これは好かれる。間違いない。
「カティ、シグ!ルキさんを早く助けに行くぞっ。」
「相変わらず胸くそ悪いわね、人間どもは。」
「お菓子くれるって言っても、もう誰にもついていかないヨ…。」
シグたんがぷるぷるしてます。
「お前達は子どもを守れっ。トール、お前は天人を探すぞ、来い!」
「サーイエッサー!」
でもオレも守って下さいね?
いきなり摘発を受けた闇市場関係者の皆さんがオラオラと抵抗なさっております。
「うひぃ!だ、団長?大丈夫ですよねっ?天下の緑騎士団、負けませんよねっ?」
「さあ、どうだかな。」
目の前でリアルチャンバラです。
気絶しそう!
「迷子の天人探しに来たら、」
ざしゅっ。
「知人が同行していて、」
ぶしゃあ。
「街の憲兵の世話になり、」
どごっ。
「宿を壊して逃げた挙句、」
ぐしゃっ。
「街道で立ち回りして、」
きんっ。
「てめえ!抵抗すんなっ。」
ざんっ。
「っはー。盗賊のアジトの次は闇市場強襲だぞ?はーはー。大丈夫だと思うか?あー、しんどい。」
団長なら全然大丈夫だと思います。
「あ、あそこです!ルキー、助けに来たぞー!あ、ごめんなさい、人質にとられました。」
「とおおるううう!貴様、後で生ピーマン喰わせるからなっ!」
お、おう。
私の記憶が確かならば、マヨネーズをつければなんでも生で食べられるぞ。えっへん。
「こらっ、危ないから前に出たらダメだ!」
「え?カティ、それに、シグ。なんで、来ちゃったんだよ!」
ちびっ子達がお子さまサイズの剣をかざしながら乱入してきちゃちました。
「駄目だよ二人ともって危ねっ。」
しゅぱんって、え?え?
止めに入ったオレの服が切れました。
うっわ!真剣じゃないか。子どもが振りまわすもんじゃないぞ?
何渡しているんですか!と子守騎士を睨んだら俺じゃないとふるふる首を振られました。
「トール、あんたあたしを舐めているでしょ。」
「俺様もな!」
そこから先は二人の独壇場だった。
ルキさんを人質に取られて動きを止めていた団長の脇をくぐり抜けると、獣人の俊足と小柄な体格を生かし、まず一太刀。
そして、あの小さな身体で軽々ルキさんを小脇に抱えて離脱。
その時にはカティが目にも留まらぬ剣さばきで盗賊達をやっつけていた。
どちらがヒールかわからない高笑いをしながら……。
「なあ、トールよ。あの子、魔王だと叫んでいるがもしかして本当なのか?」
「あー、えーと。」
「黄騎士団の連中がダイエットエクササイズの相手に駆り出されているという、あの、魔王なのか?」
「えーと、あー。」
「少女の形だとは聞いていたが、アレで黄騎士団を翻弄するのか。」
これ、肯定したらやっぱりまずいよな?
「魔王はゴリ婆エルフでしょう?カティは違いますよ。」
「誰がゴリ婆よ!この美少女っぷりを見てひれ伏しなさいっ。ちょっと若返っているけどこれは素の姿よっ。」
「ちょっと?」
「…ちょっとよ。」
「ちょっと、ですね。」
魔王様、刃先をオレに突きつけないで下さい。
「魔王様、御助力感謝します。」
オレの誤魔化し甲斐もなく、魔王と確信した団長がカティに膝をついて礼をする。
御助力、というかもはや主演だな。
カティが成敗した悪漢達を騎士達が捕縛していく。
アベヒデさんになっていなければいいが。
「安心せい、峰打ちじゃ。」
「それ両刃の剣じゃないですか!」
「安心して?あたしは無事よ。」
「心配なんかしてないです!」
オレは手の平にかいていた汗をそっと背で拭った。
シグの俊敏な体捌きにも驚いたが、カティの剣は素人目にも他と格が違うと判る達人の動きだった。
小さくても、魔王は魔王……。
つまらなそうに剣をしまうカティは今も変わらぬ幼女姿だ。
だがオレにはもう、人の所業に腹を立て魔族の為に立ち上がったという魔王その人にしか見えなかった。




