お兄さんと一緒 3
「獣化獣人が暴れているらしいぞ!」
「急いで緑騎士団へ知らせろ!」
これは。
もしかしなくても、シグだよな…。
騒ぎの方へ走り出そうとしたオレの手がぐいと引かれた。
「トールちゃん、そっちは危ないみたいだよ。騎士団に任せてボクらはここに居ようね。」
「や、でも。暴れているのは多分シグじゃないかと。」
「知り合い?」
「今回の件の旅仲間です。」
「ふうん。街中で獣化するなんてあまり感心しないなあ。何の獣人?肉食系?」
「犬は雑食じゃなかったかなあ。えーと、神官さん。手を離して貰えますか?」
「そういえば名前、言ってなかったね。ボクはルキウス。ルキでも、ルカスでもイケメン兄ちゃんでも好きに呼んでいいからね。」
「じゃ、イケメン兄ちゃんで。」
「え。」
ルキさん、ちょっと固まった。
良かったー、良かったよ。ジャストジョークだったんだな。
これでにこやかに返事されたらオレが困るわ。
「とにかく、手を離して下さい。早くシグの所へ行ってやらないと連れていかれてしまいます。」
「駄目駄目トールちゃん。迷子になったらどうするの。それに危ないからね?緑騎士団に連行されて獣化が解けてから会いに行けばいいでしょう。」
「緑騎士団の到着を待ってなんていられませんよ!シグたん連れていかれちゃったらどうするんですか。アホの子だからソーセージなんかに釣られてホクホクついて行っちゃいますよ!」
「ん?」
「はい?」
あれ?ルキさんとの意思疎通が微妙に図れていない気がする。
「アレクから魔族の子ども達が成長する為の秘薬だか秘宝だかを探しに行く手伝いをしてくれって頼まれたんだけど。」
「はい。大体合ってます。」
「トールちゃん、魔族の子どもだよね?」
「それな!」
違うのはそこだよ、ルキウスさん。
「オレは確かに幼生体で生後半年程ですが、転生者なので普通に大人扱いして下さい。」
「え、そうなの?ちびっ子が二人いるから子守を頼むって。一人は魔力が弱いから特に気をつけてやって欲しいと書いてあったよ?」
「ちびっ子二人も合ってますし、確かにオレが最弱です。でも、ちびっ子二人、と、オレ、なんです。オレはちびっ子枠ではありません。」
「え、そうなんだ。じゃ、コレは?」
しっかり握ってくれている手を上げる。
「必要ありません。」
「もー、トールちゃん。じゃなかった、トールさん。それならそうと早く言って下さいよ。」
やけに馴れ馴れしくしてくるなとは思っていたが漸く腑に落ちたよ。
「育児疲れだとか冷やかすから当然わかっているものだと思ってました。」
「だって見た目は大人で話し方も一人前なんだもの。遊び疲れ?って聞くよりなんかしっくりきたんだよね。で、今の話からすると暴れている獣人がちびっ子なのかな?」
「ああっ、そうでした!シグたん可愛いから誘拐されたら大変だ!」
「獣化獣人が可愛い?」
「急いで下さい!」
繋いだままの手を引っ張って、今度こそオレは走り出した。
「キャンキャンキャンっ!」
「はあ?肉ばかりで満たされるわけないでしょっ?」
「グルルルル、」
「駄目駄目!あっちのスイーツ屋台制覇するんだからっ。」
「キャウンっ。フーっ!」
串焼き屋の前は戦場だった。
完全に伏せて意地でも離れない体勢のシグと、尻尾を綱引きの様に両手で引っ張るカティ。
勝負は拮抗しているようだ。
「兄ちゃん達はどっちに賭ける?チビ犬獣人が串焼きにありつくか、ちびっ子魔族がクレープにありつくか。」
「そんなん決まってますよ!」
オレは鼻息も荒く屋台に近づくと串焼きを一本買ってふーふーと冷ましてから串を抜いてシグたんの前に置いてやった。
で、カティには拳骨。
「あんた、何してるんですか。シグたん虐めたら駄目でしょうが!」
「虐めてなんかいないわよ!よくも下僕の分際で叩いたわねっ。」
「下僕ではありません。保護者です。保・護・者。シグ遅くなってごめんなー。意地悪されちゃったなー。ちゃんと買って貰うの待って偉かったなー。屋台襲っちゃメっだぞ?」
「わんっ。」
「確かに可愛いワンちゃんですね。その子が?」
「そうそう、紹介するな。自称金狼獣人のアレクサンデルシグムンド、見ての通りアホ犬のシグたんだ。で、こっちが、」
「あたち、カティ五ちゃいよ。こんにちわっ、イケメンのお兄ちゃんっ。」
おーい、カティちゃん。ヨダレ垂れてるぞ。
「こんにちわ、レディ。ボクはルキウス、宜しくね。ずっとシグちゃんがおいたをしないように見ていてくれたんだよね?偉い偉い。カティちゃんにはボクがクレープを買ってあげるよ。」
「わあい。」
ルキさん、気をつけてー。その幼女、中身は鬼畜老婆ですよ!
っと、やばい。緑騎士団だ。
「獣人騒ぎと聞いて駆けつけてみれば、トール、貴様か!」
「団長、誤解です!それにもう出発しますから!カティ、ルキさん、逃げるぞ!」
「えーっ、まだクレープ買ってない!」
「トールさん、お尋ね者なんですか?」
「違うしクレープは後で焼いてやるから走れ!」
「わっふ!」
緑騎士団の皆さんの生暖かいお見送りを背に、こうしてオレ達は主にオレが艱難辛苦を味わうだろう旅に出たのだった。




