お兄さんと一緒 2
異世界に転生してはや半年。
朝の連ドラもかくやというオレの活躍と成長をここでおさらいしてみよう。
元旦に雷獣の棲で誕生。
その後遭難しかけたところをダニエルさんに拾われる。
村の医師、ライナー先生宅に居候しこの世界について学ぶ。
村を出て伯爵主城のある街、クリーエルの冒険者ギルドでシグにゲットされる。
アレクセイさんにシグとカティを押し付けられてダンジョン攻略をする。
リスティア王国王都守備隊緑騎士団に入団する。
炎帝と魔王の窮地を救うため炎帝直々に救援依頼される。
ほとんど炊事洗濯掃除に明け暮れていたような気もするが嘘はついていない。
「一身上の都合により本日で退団したいのですが。」
どんな都合かは右腕に抱っこしたシグと左腕に抱っこしたカティをつくづくご覧ください。
「……大変そうだな。マダム・ロッソが諒解したら構わない。またいつでも戻ってくるといい。」
忙しそうな団長を廊下の端で捕まえて、談判したらあっさりそう言われた。
騎士団襲撃のペナルティで就労していた筈なんだけどいいのかなー。いいんだろうなー。
所詮オレの価値などそんなもんである。
「ロッソさんの許可と餞別は既に頂いております。」
「そうか、餞別か。そうだな。あー、」
おっと。別にそういうつもりで言ったわけでは無いのですが、何か頂けるのであれば吝かではございません。
ぱたぱたぱた、と脇、腰、尻をはたいて何も適当な持ち合わせが無かった団長はやおら鎧を脱いでくれようとしたが、丁重にお断りしておいた。
「お気持ち有難く頂戴しました。そうだ、団長。無限ダンジョンと死霊の氷原と神界と暗黒星雲、子連れで行くなら何処がおすすめですか?」
鎧だけでなく、靴までくれようとしたので固辞しました。
最後まで心労おかけして申し訳ありません。
さてと。
義理は果たしたのでとっとと旅に出ることにする。
先ずは神官との合流だな。
「カティ、シグ。オレはサーラ神殿に行って来るから、その間に食べ物を買っておいてくれるか?」
「オッケー。さー、シグちゃんっ。片っ端から買って行くわよっ!」
「ほどほどになー。」
大丈夫かいな?
店主ごと買い占めそうな勢いですっとんで行ったんだが……。
アレクセイさんの知り合いがどんな人か分からないけれども、オレと夫婦でカティが娘、シグは里子か獣化でペットという風に偽装して旅をするのが一番無難だと思う。
サーラ神殿の神官様かー。
サーラ神は水と風を司る神なのだが、血流も呼吸も水と空気だよねと大雑把なくくりで治癒回復も加護として与えてくれる優しい神様だ。
神官達も穏やかな方が多かったように記憶している。
他に治癒系ではダナス神という生命を司る神様がいらっしゃるのだが、こちらはリスティア王国の主神に祀られていて一般庶民如きが気安く詣でることは出来ない為にまだ加護を頂けていない。
神官様、アレクセイさんにどんな借りがあるのかは存じませんが、窮地に借りを返そうというくらいのお方ですからきっと白衣の天使のような方ではないかと思います。
オレの読みは当たっていた。
白いよ。真っ白ですよ。
この世界の文明レベルはスチーム以前、いまだマニュファクチュア真っ盛りである。
魔法もあるので一概に同じでは無いのだが、高度の魔法の恩恵にあずかれるのは貴族や裕福な者に限られるのでオレの着ている服だって地味な色味の強付いた布地で出来ている。
で。
目の前には、どこのホストさんかと三度見してしまった真っ白な出で立ちのお兄さんがいる。
「トールちゃん?目の下にクマさん飼ってるねえ。育児疲れかな、あはは。」
白衣だけど、白衣でーすーが。
これじゃない。
断じてこ、れ、じゃ、無い!
「人違いですね。失礼します」
「やだなあ。そんな、つれないことを言わないでよ?ボクとトールちゃんの仲じゃない。」
「初対面ですよ。」
「あれ、忘れちゃった?一度お参りに来たでしょ。ボクが案内したのになー。寂しいなー。」
「は?あの時は、」
地味地味な神官服に身を包んだ好青年が落ち着いた物腰で案内してくれたんだが。
美形でイケボでホストが似合いそうな感じなのにストイックな神官を務めるなんて、人は見かけで判断しちゃいけないなーと思いました、た!
あー。
好青年、中身は外身通りだったか。
「あ、思い出してくれたー?」
「不覚にも。ですが、アレクセイさんからも連絡が来ているでしょうけれど、オレが同行を希望しているのは治癒士です。」
「お?ボクの能力疑っているのかな。ははは、これでもこの神殿屈指の加護持ちなんだけどな。」
キランっと笑う歯まで真っ白だ。
<『恋人の絆』
神官への好感度:レベル50
一緒に旅行してもいいレベルに到達した>
え、早くない?まだ名前も聞いてないし。でもって「オレへ」の好感度じゃなくて、「彼へ」のオレの好感度が上がるんだ。
なんかこのギフトの仕組みがわかった気がします。とほほ。
オレの告白、オーケーくれたけど本当はイケメン好きだったんだね…マイハニー。
「荷物、それだけですか?」
「うん。下級神官の私物なんてそんなに無いよ。サーラ神は諍いを厭われるから武器も持てないしねえ。」
なるべく早く旅立ちたいと告げたオレに支度をするから少し時間が欲しいと言った神官は本当にものの数分で支度を終えて戻って来た。
真っ白な服の上に真っ白なマント。そして鮮やかな赤色のザック。
なんだろうこのデジャヴ。
………あ!
救急車だ……。