高望み、するだけならロハ 4
これは夢だ。
この世界では生後二ヶ月程のベイビー魔族らしいオレだが、ぶっちゃけ前世の身体と精神を宿したままなので自分では成年男子だと思っている。
オレを下僕扱いしていたカティはアレクセイに愚痴愚痴叱られて早々に遁走し、ドキドキしながら弁償を申し出たエリクサーや魔石や魔剣については無謀な事を言わなくていいと温情を貰い、墜落事件で肉塊になりかけたシグも告げ口をすること無く俺様もダンジョンで頑張ったんだぜアピールしかしなかった為、オレの心配された髪は今なおフサフサのままだ。
いやー、ストレスフリーでふかふか布団最高です。
しかも、横に添い寝るは右にうっふん、左にあっはんな美女である。
はい、夢です。
いいでしょ?健全な男子の夢じゃないか。
でもねー、明日の夜には本当になるんだよ、これが。
カティが居なくなってヒゲおやじに戻ったアレクセイさんが、オレの苦労を労って吉原観光に連れて行ってくれる約束をしました。
お子様シグたんは勿論留守番です。
魔剣等を弁償出来る程ではないが、支度金を返済して、なお暖かい懐具合。
同行者はギルド長たるチョイ悪オヤジ。
モテる、モテるよ?確実に。
ギルド内のちょっと良い部屋に宿を取り、ふかふかのベッドで幸せな夢を堪能しておりました。
はい。
先程までは。
「アレクセイ!」
「夜中だ、吠えるなバカ。マリーナ、私が戻るまでバレル殿にギルド長全権を預ける。よしなに伝えてくれ。」
「畏まりました。」
「アレクセイー、今助けるから、」
「バカたれ。獣化したらカティが飼いにくるぞ?」
「ひっ!」
「大人しく待っていろ。ちょっとした誤解だ、すぐに戻る。王都の土産、買ってきてやるから。」
オレより一回り大きな吸魔石がついた魔封じの枷をかけられて、なお立ったまま色々指示出ししているアレクセイさん。
時々思い出したかのようにくっと顔をしかめて見せるあたり、その枷、全く役に立ってませんよね?本当は。
一方のオレ。
床にダウンして、身動き一つとれません。
安定の効果です。
レベル上がった気がしたんだけどなー。
そのままパジャマ姿で護送車に放り込まれてアレクセイさんとともにドナドナ。
解せぬ。
一体オレが何をした?
「っしゅんっ。流石に寒いな。シグの着替え持たせていたよな?上着、出してくれ。」
「………。」
「ああ、連中なら幻覚見せているからもう動いて平気だぞ?」
「……………。」
「………まさか本気で封じられているのか?」
ええはい、そうです、と頷くことも出来ないくらいしっかりと。
察してようやく枷を外してくれました。
「すまん、演技かと思っていた。」
「十日封じられた時は有難くエリクサー使わさせて貰いました。アレクセイさんは何故裸なんですか?まさか、オレに内緒で先に吉原げふんげふん、」
「あのな。いいから上着寄越せ。腹が冷える。」
シグの上着は流石に大きくて彼シャツのようになっている、兄の腐った蘊蓄うぜえ。
「ま、まさか、夜な夜なシグたんを!」
枷を嵌められてしまいました。外してけろ。
「寝ぼけて翼が出るんだよ。次ふざけた事を言ったら燃やすぞ?」
八将炎帝様の恐喝頂戴しました。
身動き出来たら涙鼻水だだ漏れ必須です、ガクブル。
「だいたい、貴様のせいだぞ?誰が八将氷帝だ?緑騎士団に剣を向けたそうじゃないか。」
状況が全く読めていないオレを足蹴にしたままアレクセイさんが説明をしてくれました。
もう腐発言しませんから許して下さい。
「魔族煽動の疑いで俺まで王都へ連行だぞ。せっかく定職に就いたのに、罪人扱いで枷まで嵌められて。シグがぐれたらどうしてくれる?」
え、問題そこ?
もー、どんだけシグたんラブなのさ。
「まあ、あいつも勝手に他の冒険者とパーティ組んでクエストこなすようになったからな。そろそろ親離れする頃合いか。」
確かに勝手に懐かれましたが、そのあとは全て貴方のお膳立て、しかもカティに泣かされていただけで全く働いていませんよ?御宅のお坊ちゃま。
そして親離れを心配する前に子離れしてやれ。
「ちっ、エリクサー渡してくる間が無かった。風邪でもひいたらどうしてくれる。」
アホは風邪ひかないから大丈夫だと思う。
はー、馬車の揺れが辛い。
そのまま夜明けまで愚痴愚痴ブツブツ文句を垂れていたアレクセイさんはオレを足乗せ台にしたまま就寝してしまった。
傍目には魔封じでぐったりしているように見えるのか。
いつのまにか着込んでいる彼シャツには誰も気づかぬふりで連行は昼夜徹して続けられた。
氷帝とか盛ってごめんなさい。
俺つえー、やってみたかったんだよ。
高望み、するだけなら只じゃん?
ぴこん。
え、何?
<『厳父の稼ぎ』
只より高いものは無い>
ちょっと泣いていいですか?今あなたの教えがクリティカルヒットしましたよ、とーさん。
アレクセイさんのご機嫌を損ねてしまったオレは瀕死で護送車の床に這いつくばったまま王都に入りました。
ごはん下さい、水分下さい、死ぬから、死んじゃうからっ。
そのまま衛兵に両脇抱えられて、入城。
意識は朦朧としております。
ずるずると長い回廊を引き摺られ、かなり奥まで進み、重厚な扉をくぐりました。
そうして石畳は石畳でも高級大理石っぽい、磨き抜かれた床にぺんっと投げ出されました。
今ここ。




