高望み、するだけならロハ 3
「あれえ?肉片ひとつ残ってないね。やだあ、トールったらえげつない。」
大変人聞きの悪いことをニンマリとした表情でおっしゃりながらカティが舞い降りてきた。
この先、ゆっくり伏線回収するほど身の安全が保障されていないので改めて紹介します。
魔女っ子エルフ、カティちゃんこと魔王エカテリーナ様です。
何故エルフ少女を見て魔女っ子だと思ったのか。
それは閻魔様から渡された、あのうっすい冊子の表紙のせいである。
あの表紙。
勇者とその仲間のエルフちゃん、ではなく、勇者と魔王だったわけです。
一緒にドラゴンと闘っていた?
いいえ。
ごはん(注、ドラゴンの事)の取り合いをしている姿を描いたものだそうな。
分かるかよっ!
そういう訳でエルフの正体は魔王ですが、魔王の正体はエルフではありません。
何のこっちゃかというと、アレクセイさんの無精髭おっさん姿のようにエルフに変幻させているということです。
じゃあ、本体はどんなお姿かというと。
きっとゴリマッチョだと、げふん、世の中には知らない方がいい事もあるのです。
え?フラグ?立ててませんよ?きっと本性も可憐な魔族様だと思います。心から。
何々?
魔王は高齢で老衰死したのではなかったのか、ですと?
一応、世間的にはそういう話になっております。
ここだけの話ですが、驚く事に魔族に寿命はない。
魔素だまりで生まれるので、魔獣に喰われたり戦に巻き込まれたり、まあその他あらゆる陰険な危険に晒されて大抵は儚く幼生体で生涯を終えてしまうらしい。
運良く生き延びても最初のうちは魔力もたいして無いので、人間と同じように怪我や病気でも呆気なく御臨終となる。
その後、人間に敵対した魔族はだいたい討伐され、人間と共存した魔族は依存されることに面倒になって姿を晦ます。
従って、魔族の寿命はだいたい四、五百年程だと信じられているのだそうな。
さて。
以上を踏まえた上でオレの運命はどんなものかというと。
「さあ、ダンジョン攻略に行くわよっ、氷帝ちゃんっ!」
「聞いてたんですかー。やだ、恥ずかしい。」
「トールってば本当面白いわね。下僕にして正解だわ。」
魔王様に気に入られて下僕一号を拝命しております。
勤務時間朝〇時から夜〇時まで、休日無し、給与無し、昇級無し、時々エリクサーが必要になる健全なお仕事です。
これ、普通に人間に取っ捕まって奴隷落ちした方が容易い仕事だったのではなかろうか。
ダンジョン内にいた調査隊の騎士達を滅殺する気満々のカティちゃんから守りつつ氷帝モードで追い出し、低層階のモンスターでお馴染みの肉スラさんとの遭遇にもう帰ると泣き出したシグたんをオヤツのジャーキーで宥め、そんなオレを労わること無く湧き出てくる空気を読まないモンスター達を切り捨て御免で突き進んで、オレのHPはとうとう残りゲージが1ピクセルです。
「なんで最弱のオレが先陣で戦ってるんですかっ!」
「えー。だって手を出すなって怒ってたじゃない。」
「帰りたい。もう帰りたい。」
せっかく仕込んだホカホカご飯も、座ってほかほか食べたのはあなた方だけでオレはエリクサー一気飲みしながら戦ってるんですが。
ジャパニーズビジネスマンの誉れである。
そこのリッチーよひれ伏せたまえ!
「氷・斬・剣っ、どりゃああ!」
「ちょっとー、寒いしー。」
「仕方ないでしょっ?!こっちもあっちも氷属性なんだからっ!」
シグの剣なら色々な属性の攻撃を載せられるんだけどなー。
ちらっ。
「駄目だ。貸さないぞ!これはアレクセイが俺にくれたんだからなっ。」
「ちょっとぐらいいいじゃん。貸せよー。貸して下さいよー。」
つうか、代わりに戦って?
ただ今のステイタス。
装備からだ:ぼろぼろの服
装備あたま:ストレスで禿げてないか心配な黒髪
装備あし:どろどろで穴が空いたブーツ
武器:真・氷斬剣
持ち物:魔核二十一個、肉スライムの塊肉百キロ、醸し中の味噌と醤油
称号:魔王の下僕、自称氷帝、金狼シッター、ダンジョンの覇者
「ダンジョンコアを破壊しました。」
そう報告をしたら、アレクセイさんから麗しの御姿にてフンと鼻を鳴らして頷きました。
魔王とシルバータグの獣人が居て武器は魔剣である、当然だ、そう言わんばかりのフンである。
ええ、そうでしょうとも。
「エリクサーと魔石は使い切りました、お借りした剣はこれです、ありがとうございました。」
そう続け、オレと同様にぼろぼろのなまくら剣を突き返したら彫の深い眼窩の奥から目が飛び出してきた。まあ、比喩的表現なので相変わらずの美形なんだけどね。
いや、剣がぼろぼろなのは本当の話。
だってオレの魔力ではかき氷はおろか、保冷剤がわりにもならない氷斬剣さんなんですもん。
そこで、オレは考えました。
シグの魔剣が魔石で発動するならこれもいけるんじゃないかと。
石を嵌め込む場所が無いので仕方なく魔石とともに握り込む。
そうして脳内雪の女王ばりに、オレは何でも出来るー自分を信じてー。どりゃあああ。
って、発動したのまでは良かったんですけどね。
この魔石が曲者で、魔力を放出すると吸魔石に変わるんですよ。
魔剣←魔力←魔石=吸魔石←魔力←オレ。
魔力を吸われて力が出ないー。
トール!新しい魔石だよっ!
などと、カティ達が魔石を投げてくれる訳もなく。
更にオレは考えました。
魔剣←魔力←オレ←魔力←魔石。
つまり、魔石の魔力を直接魔剣に与えるのではなく、オレに取り込ませるわけですよ。
事前に取り込んでおけば戦闘中に吸魔変換されて硬直する、なんてことも無くなるからな。
この素晴らしい発想転換のおかげで、寒いから使うなと言われた氷斬剣にオレの火魔法や風魔法、水魔法を載せて無理矢理発動した結果。
「一体どういう使い方をしたらこうなるんだ?」
「う、すみません。やはり高価な物でしたか。」
頼みの綱の魔石も尽きて、最後のダンジョンコア戦では硬い殻を割るのにがっつんがっつん叩いたしな。
「まさかと思うが、」
汚れひとつついていないカティと、最初の墜落以降はメソメソしていただけのシグをチラ見して、アレクセイさんは更に目をひん剥いた。まあ、比喩的に。イケメン爆ぜろ。
「ええ。オレ一人で、ダンジョンコア破壊してきました。」
ただ今のステイタス
冒険者レベル:鉄タグ
なお登録更新料二千円は成功報酬からきっちり差し引かれた事を記しておく。




