バナナはオヤツに入りますか? 2
今日のお迎えはギルド長アレクセイさんその人だった。
「…はあ。あんた何をやってんだ?」
何って、なんで逮捕されたかオレが知りたいです。
そう聞き返したいが、吸魔石が良い仕事をしてくれていて声が出ません。
アレクセイさんも魔族ならこの脱力感分かるでしょうに。先に外して下さいよ。
「街中で故意に獣人を獣化させたんだ。処刑されても文句は言えねえぞ。」
えー、そんなあ。
「シグだったから何事も無く済んだがな、理性の吹っ飛んだ獣化獣人の捕物だと死人が出てもおかしくないんだからな。」
「わふっ。」
凄むアレクセイさんの足元で名前を呼ばれたシグがオヤツの骨つき肉から顔を上げて尻尾を振っている。
確かに人間の尊厳のかけらも見当たらないイヌっぷりだ。
丸い顔、太い脚。つぶらな目。
シグってまだ仔犬だったんだな。
でかいけど。
ガチャリ。
ようやく手枷を外してくれた。
「そんな事、知るわけないじゃないですか。」
「獣化出来る事は知っていて、か?」
「それは異世界事情です。」
水をかぶった美少女が猫になったりな。
こいつもお湯をかけたら戻るのだろうか。
「シグは、」
「わんっ!」
か、かわいい。
どうやったら人型に戻るか聞こうかと思ったのだが、もうこのままワンコ姿でいいんじゃないだろうか。
そんなオレの不埒な企みを察したのかおもむろにアレクセイさんがシグの鼻先を鷲掴みにして床に押し付けた。
「ぐるるるる。」
「ちょっと!いい子にしているのに酷いじゃないですか!」
「躾けたのは俺だから責任は感じているんだがな。こいつはほっておくと人化しないんだよ。」
獣化した獣人はひと暴れして発散したら大体我に返って人化するらしいのだが、アレクセイさんにスパルタで育てられたシグは獣化したら犬生活を満喫してしまうのだという。
駄犬オブザ駄犬だ。
犬姿だと理不尽な目に遭う、そう悟らないとそれは嬉しそうに三食オヤツ、朝晩散歩付きの生活を堪能するのだそうな。
いやいやアレクセイさん、シグたん可愛がりすぎだろう。
「キューンキューン、」
「ダメだ!」
「クゥーン、」
「ダメだって。」
「ワフン。」
「人型に戻ったらボール買ってやるから。」
うん。駄犬になるべくしてなったんだなっ。
「わんっ!」
その後、また苦しそうに呻きながらシグは人化した。
変化は体の苦痛もあるようで、それもあって余程危機的な状況ではないと獣化する者はいないらしい。
オレに煽られたぐらいで変身しちゃうシグは、まあ駄犬なんだな。アホかわいい。
アレクセイさんにこっぴどく叱られてふん俺様だって怒ってるんだぜアピールでぷんすか歩くシグをなだめつつ、ようやくオレは本来の用事を済ませに市場へと向かっている。
ダンジョン攻略に必要なもの。
名工の剣?
加護付きの鎧?
アンデッド対策の聖水?
はたまた回復薬に毒消し草?
ブッブー。
正解は、飯。
美味い飯である。
気力体力を回復させ、明日への活力になる、ほかほかのご飯である。
っていうかさー、オレ戦えないし。
バトルはシグたんに任せてヒーラー@給食係に徹したいと思いまふ。
トール君の三十時間クッキングー!
ぱふぱふっ。
いやあ、作りに作ったぜ。
最初は常備菜的な物を作っていたのだが、オレの収納スキルに時間経過が無いと分かってからはばあちゃんのギフトが炸裂した。
揚げたての天ぷら、茹でたての蕎麦、蒸し立ての小籠包、焼き立てのお好み焼き。
大豆を見つけて味噌醤油も仕込んでみたぜ。
熱々のシチューやカレー、冷製パスタ、アイスクリームまで作っちゃった、てへ。
「もお食えない。」
味見と称して片っ端からぱくついた駄犬が足拭きマットのごとく伸びている。
「そうかー。ローストビーフの切れ端、味見しないのか。」
「す、する。」
「あーん、」
「あー…ギャンっ!」
「痛って!」
アレクセイさんの鉄拳がオレにも落ちました。
「腹壊すぞ!馬鹿たれ。バカ犬にば飼い主。」
ば飼い主って、それそのまんま返しますよ?
「う。俺はあれだ。ブリーダー?」
「へーえ。」
そうおっしゃってもね、飼い始めて三日目の飼い主とここまで育てた育て主、どちらが責任あるんでしょうねえ?
冷ややかなオレとすらっとぼけたアレクセイさんが無言のバトルをしていると、シグが構ってくれとばかりに間に割って入ってきた。
「俺様をイヌ扱いするな!」
あ。
そうだよな。
余りにば可愛くてついついレトリバー扱いしてしまったが、シグは獣人だ。
「ごめん、悪かった。」
「分かればいい。俺様は金狼だ!」
そこ?そこなの?
ちらと横を見ればアレクセイさんがめっちゃデレていた。
うん、わかる。アホな子ほどかわいい。きっとオレも同じ顔をしていると思う。
それにしても何をしにきたんだ?この人。
味見か?
「ごほん、げふん。あー、トール?」
「はい、何でしょう?」
「俺はダンジョンコア破壊のクエストを出したよな?」
「ええ。支度中です。」
「料理をしているようにしか見えないのだが?」
「はい。料理をしています。」
「…。」
納得がいかなさそうなアレクセイさんに遠征にはいかに弁当が重要か滔々と説いた。
補給がなければ帝国陸軍も皇帝軍も犬死なんだぞ。
「い、いぬじに…。」
シグが涙目になっている。
お前、金狼じゃなかったのかよ。
「わ、わかった。飯は重要だ。異論はない。だがな?屋台で買った物をストックするのでは駄目なのか?」
あ。
あー。
あー、なるほど。
ばあちゃんのお手伝いがあるとはいえ所詮素人の家庭料理よりプロのご飯の方が美味いよな。
まして、この世界はスパイスが豊富なだけあってご飯凄え美味いんだよ。
ライナー先生の手料理を除いて。
「ひとつ確認をしたいのだが。」
「へえ。」
「よもやまさか、旅支度は飯作りだけじゃないだろうな?」
「他に何かありますか?」
「貴様は、」
アレクセイさん、怖いですよ?
「そのけったいな服とサンダルでダンジョンへ潜る気か!」
「作務衣と草履です!でも仰る通りですね。服と靴、買いに行ってきます!」
「そのまま、すぐに街を出て行け!今日中に出ていかないなら俺が叩き出してやる!!!」




