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異世界でゴー 5

「誰が魔王やねん。そんな面倒な肩書きいらへんて。」

 二人に寝首を掻かれそうになっていたのが余程恐ろしかったのか、シャイロックさんはオレの背中にべったり張り付いたまま文句を言う。

「ですよね。中二の頃ならともかく、そうそう欲しがる大人は居ないと思います。」

 前の世界の常識が、こちらで通用するかは怪しいが。

「なあ、トールよ。つかぬ事を聞くが、もしかしてそいつに餌をやったか?」

 アレクセイさんがニンマリと聞いてきた。

「な、な、な、何言うてますん?無い無い、無いですわ!」

「やったんだな。」

 残念な子を見るような目つきで何故か団長がオレを見る。

「餌って、失礼な。家庭料理には少々自信がありますよ。」

「そう言う話じゃ無いんだが。」

 ちょいちょい、とアレクセイさんがシャイロックさんを呼び出しオレに声の聞こえないところまで離れて行く。

 仲良しさんだなあ。

「マオス、来い!」

「家訓が…」

 しおしおと団長も呼ばれて行く。

 また二人がシャイロックさんを虐めないか心配だったので様子を伺っていると、最初は嫌そうにアレクセイさんの話を聞いていたシャイロックさんがくわと目を見開いた。

 それから満面の笑みで揉み手している。

 別の意味で大丈夫かと心配になった。


「一体何の話をしていたんです?」

「積もる話だ。気にするな。」

 積もる話にしては随分短かったが。

「あっちゃん、なあ、」

 つんつんとシャイロックさんがアレクセイさんの袖を引く。

 あっちゃん?!

「やめてくれ。」

 アレクセイさんが顔を覆った。

「ぶはっ。」

 団長がザマァ感満載で吹き出しすと。

「笑うな!『みっちゃん。』」

「っ!」

 漫才トリオでも始めるのか?この人達は。

「トール!腹減った。唐揚げが食べたい!」

 黄騎士団の皆様と一通り筋肉体操を終えたシグがきらきらした目とじゅるじゅるした口元でオレにおぶさってきた。

「シグー。汗ぐらい拭いてくれよ。」

「唐揚げっ、かーらあげっ、きゃうんっ!」

「おいこら、トカゲっ。いきなり反故にする気か?」

 急にひやりとする空気にシャイロックさんを見上げれば、くわっと開いた三つ目をまたアレクセイさんに突かれて悶絶するところだった。

「何事ですか?」

「腹が減ってるんだろ。さっさと唐揚げ作ってこいつにも食わせてやれ。」

「おにぎり…。」

 額を押さえたままヒソヒソ声でシャイロックさん。

「おにぎりも。おにぎりって何だ?」

「シャケ……。」

「あー。シャケおにぎりを作ってやってくれ。これ必要か?」

 腹話術ネタか?うーん、面白さがいまいちわからん。


 その後、やれ、シャイロックさんが剣を抜かない様に手を繋いでおけ、だの、汚いから風呂に入れてやれ、だの、低体温だから一緒に寝てやれだのアレクセイさんと団長の無茶振りが酷かった。

 低体温って。

 竜人は変温動物なのか?

 むにゃむにゃとオレを抱き枕にして爆睡中のこの人は普通に温かい、よなあ。

 それにしてもシャイロックさん、あっちゃんみっちゃんのあまり面白くないネタ振りに諾々と従っている。

 なんか弱味を握られ、じゃないな。

 小銭でもせしめたか。

 どうでもいいが、おっさんトリオに巻き込まないでくれ。

 あ………まさか、カルテットじゃ無いよな?

 いやいや、いやいやいやいや。

「とおるぅ、肉じゃが………スヤスヤ。」

 ぴこん。

<称号『魔王降臨を阻む者』を獲得した

 月神の試練を一つ達成した

 神威『変性』を得た>

 ………あー。はい。

 変性?

 性別が変わるって事か?

 なんか使い難いスキルを得たよ。

 そうだ、シャイロックさんを変性しよっかな。

 せめて円やかな女体にしがみつかれたい。

 いいじゃん?男の子だもん。

 アレクセイさん女性化バージョンも麗しかったな。

 寝言も言わなくなって完全に寝落ちたシャイロックさんの抱擁からようやく抜け出せたので、酒盛りをしているおっさん達の所へ行く。

 酒はもちろんオレが錬成した物だ。

「おう、お前も飲むか?」

「この酒は中々美味いな。」

 アレクセイさんのバックヤードにあったパンからウオッカとウイスキーを、果物からブランデーを、芋からは焼酎を錬成してみました。

 ワインとかエールとかだと物足りなそうだし。

「オレはこっちにします。錬成:日本酒っ!」

 秘蔵の米からコップに一杯分の日本酒を錬成する。

 うん、美味い。

「それは何だ?お、これも美味い。」

「ちょ!それ、オレの!」

 ううう。

 貴重な米の酒がゴリ、もとい、黄騎士団員に奪われてしまった。

「ツブツブもこうすりゃ美味いもんだな。」

「緑の。俺も飲んでみたい。もっと出してくれ。」

「えー。まあ、いいですけど、ちゃんと味わって下さいよ?」

 緑の、ってオレの事だよな。

 ちらと団長を見たら苦笑して頷いてくれた。

 よし。団長公認頂きました。

 これからは緑騎士団員って名乗らせて貰おう。

「いやあ、それにしても変な森に跳んで来てどうしようかと思いましたが、黄騎士団の皆さんとシャイロックさんもいれば安心です。これだけ戦力も揃えば魔王誕生も阻止出来たみたいですし。ねえ?団長。」

「戦力の問題では無いと思うが。」

「いやいや、皆さんのお力ですよ。」

「俺様も居るからなっ。当然だ。もう一杯!」

「おー、この強炭酸を飲み干すとは、流石金狼様だな。虫歯になるからこれで最後だぞー。」

「ふんっ、これぐらい大したもんじゃない。」

 酒盛りのおっさん達に混じり、しゅわしゅわ弾けるコーラをちみちみ舐めてご満悦だ。

 はー、シグたん、癒される。

 えーと、何の話だったか。

 そうそう、アレクセイさんを美人さんに。

 裸族を反省するがいい!

「変性:女性化!」

 ごくり。

 いえ、酒を飲んだだけです。

 どうせ半信半疑だったよ、ちくしょう。何も変わらないじゃん。

「おっかしいなあ?変性:獣人化!」

 今度は団長を狙ってみる。

 性別じゃなくて種族かな?団長なら何の動物かなー。馬かな。馬車馬のように働かされているもんな。

「変わらない……。あのう、団長?人参食べます?」

「要らん!さっきから何をぶつぶつ………はあああ。」

「おいトールおかわりを、ぶはっ!」

 やばい。いたずらを仕掛けたのがバレたか?

 団長とアレクセイさんが真顔でオレを見つめてくる。

「お、おかわり、出しますね。」

「………とりあえず呑むか。」

「………そうだな。」

「そうしましょう、ささ、どうぞ。」

 ウオッカの焼酎割りをジョッキでサーブする。

 チェイサーは日本酒だ。

 良い子のみんなは真似しないでね。合掌。

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