異世界でゴー 1
「外出禁止ならそうと言っておいて下さいよ。」
「うろちょろするな。緑騎士団の敷地から出るな。他に質問はあるか?」
「そんなにキッパリ駄目出ししないで下さいよ。」
「もう一度、牢にぶち込むか?」
「冗談です。」
団長の食事はカルシウムが足りていないのかな。
やれやれ。
ちょっと市場に買い物へ行こうと、たまたま人気のない昼下がり、騎士団の敷地から誰にも見咎められず表に出たのだが。
ゴミだらけの道に首を傾げながら数分ばかり歩いたところ、前方には道を塞ぐオラオラ系の方々が、背後からはオレを追って来た緑鮮やかなマントの『ミドリ』さん達がこれまた道を塞いだ。
「わざわざ護衛ですか!助かりました。」
いそいそと緑チームへ駈けもどると、いきなり吸魔石の枷を嵌められ簀巻きにされた。
一応、金出せオラオラさん達も捕縛して連行した様だが、オレがそのまま牢屋に放り込まれたというのに連中は入れられた気配が無い。
解せぬ。
床の冷たさを満喫しながら転がっていること数時間。
ようやく団長が事態に気づいてオレを牢から出してくれた。
そして冒頭の会話となる。
カルシウム補給に小魚の佃煮でも作るか。
「で、いつまでここに居ればいいんですか?」
「…不満か?ここで働きたかったんじゃないのか?」
「それはそうですが、これじゃあまるで軟禁じゃないですか。オレだって市場で新鮮野菜を目利きしたり、ルキさんやシグともたまには会いたいし、ダナス神殿にもお参りしに行きたいし、パンを咥えた魔女っ子と街角でぶつかったりもしたいんですよ。」
冒険の類はもうこりごりだが、別に引きこもりたい訳ではない。
「およそ百年程前の話だ。勇者が初代国王であり神々の加護も厚い大陸屈指の大国にふらりと一人の魔族が現れた。」
「いきなり昔話ですか?」
「初めこそ警戒したものの、あまりにその凡庸な姿人なりにすぐに取るに足らずと皆が気を許した。だが、それは大きな誤りだった。」
「なんといっても魔族ですからね。油断しちゃいけませんよ。それで?」
団長はストーリーテラーの才能があるようだ。
低く響く声は中々堂にいっている。
「………はあああ。」
あれ?落語に変わったぞ。
粗忽者の店子を叱る前の御隠居さんのようなため息だ。
芸が細かいな。
「無害な素振りで王都の神殿を巡ったその魔族はある日とうとうその本性を現した。巫子神官を唆し、神殿を出奔させた挙句神聖を奪い拐かしたのだ。」
「眼鏡を外したら実はイケメンだった?」
巫女さん、世間知らずすぎだ。知らん奴について行っちゃダメ!神聖奪われるのも、なろうアウト!
「巫子を奪われた神は怒り、人々に加護を与えなくなった。国は乱れ、荒廃の一途を辿った。」
「大変じゃないですか!早く巫女さんを救出して誘拐犯を捕まえないと。」
「そうだな。つい先日、ようやく保護し捕まえた。」
「それは何よりですが、何故オレのこめかみぐりぐりっ?!いだだだだっ!」
痛い痛い痛いって!
「わかったら、ふらふら出歩けると思うなよ?」
「だからなんで、…え?前髪をあげたらイケメン魔族ってもしかしてオレの事ですか?」
「そんな話は全くした覚えは無いが貴様の事だ!」
「えーっ。」
ってことは巫女さんはルキさんの事か。
「そんな。唆したり攫ったりなんて。」
「サーラ神殿に行かなかったか?」
「行きましたけどアレクセイさんに言われたからですよ?」
「連れ出したんだな?」
「む…そう見えなくも無くは、ない?あ、でも神聖は奪ってないですからね?むしろオレの精神衛生がごり削られました。まあ、確かに<生命の書>は使いましたけど。」
「…そうだな。」
「ましてや誘拐なんて。ルキさんが自主的について来たのは団長だって知っているでしょう?」
「帰還前、この国で最後に目撃された姿は魔族が妖魔へ引きずり載せている姿だった。」
「あー、多分ルキさん独りでよじ登れなかったから手伝ったんだと思います。全部冤罪です!」
「百年も昔の無実をどうやって証だてるんだ?」
「だって生き証人がいるじゃないですか!」
慌てて団長を指差す。
「だから、軟禁で済んでいると私に感謝するんだな。」
「感謝って…。」
納得がいかない。
不満モロ出しのオレのデコをピンした団長はまた深いため息を吐いた。
「とにかくお前は大人しく厨房で料理でもしていろ。なんだったかな?お前の作るホゲ汁?あれは美味い。毎朝食べてもいいな。」
「謹んでお断りします。」
冗談じゃない。
「あのなあ、」
「それ、オレの元いた世界では古典的プロポーズですからね。」
「………。」
状態異常、ストレス性急性胃炎。
団長お。メンタル弱すぎでしょう。
抜け毛対策に海藻サラダも添えよう。
「おかげで献立が決まりました!」
味噌汁、佃煮、海藻サラダ、それに定番の焼肉だな。はー米が食べたい。
「はああああ。」
御隠居ばりのため息を背に、団長室を後にした。




