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幽霊が彼氏面してくるような気がした。 中篇

 授業がはじまってからも、わたしは落ち着かずに先生が黒板に板書している音を聞きながら、耳を澄ませていた。

 いきなりレンくんに話しかけられたらどうしよう。いきなりおかしなこと言われたらどうしよう。もし周りに変な顔をされてしまったら、一体どんな誤魔化し方をしたらいいんだろう。ドキドキしていたけれど、特にそんなことはなかった。

 むしろわたしが挙動不審にあちこち視線をさまよわせているのに、先生が怪訝な顔で「もしかして間宮、具合が悪いのを我慢しているんじゃないのか?」と言われる。スカートから出ている脚にはばっちり青あざが浮かんでしまっていて、一部はみっともないからガーゼを貼って隠しているけれど、点々とした青あざは隠しきることもできずに見えている。

 沙羅ちゃんは心配そうな顔で、絵美ちゃんは先生と同じく怪訝そうな顔でこちらを見てくるのにいたたまれなくなったわたしは、小さく「はい……」と答えた。

 先生はぐるっと周りを見回し「なら、保健室に行ってきなさい。保健委員、ついていってあげなさい……」と言ったけれど、それより先にわたしは「い、いいです……!」と言って、慌てて教室を出て行った。

 教室を出て、誰もいないガランとした廊下を、わたしはとぼとぼと歩く。

 まさか言えないもんね、幽霊の声が気になり過ぎて、授業に集中できないなんて。皆にも変な顔で見られちゃったし、これはもう具合が悪いからという理由をゴリ押ししてしまったほうがいいような気がする。

 そう思いながら歩いていたら「間宮」と声をかけられたのに、わたしはビクン、と肩を跳ねさせた。

 廊下には足音は聞こえない。今はわたし以外廊下にはいない。でも、たしかにレンくんの声が聞こえたんだ。


「あ、のう……」

「大丈夫か? 青い顔してるけど。後遺症とか、そういうのではないんだよなあ?」

「ち、ちがうよ……! 本当に、体はどこにも問題がないの。ただ」


 レンくんはいったい、どんな顔でわたしを見ているんだろうと思った。

 呆れているのかもしれない、困っているのかもしれない。面倒臭いって思われているのかもしれない……見えないから、全然わからないんだけれど。

 面倒臭いなと自覚しながら、わたしはおずおずと口を開いた。


「……レンくんが、いきなり話しかけてきたらどうしようと、思って、そわそわしてた……」

「はっ」


 いきなり噴き出した息に、わたしはビクンと再び肩を跳ねさせる。

 途端に、前に聞いたような笑い声が響いて、わたしはますますいたたまれなくなり、縮こまる。


「あ、あの……わたし、そんなに笑われるようなことを、言った覚えは……」

「ははははは……ああ、ごめんごめん。別にお前を笑ったんじゃないんだ……」


 どうにか笑いをこらえようとしているみたいだけれど、全然こらえきれていない。

 わたしは真面目に困っているのに。わたしは思わずむっつりと唇を尖らせると、レンくんは「ごめんごめん」と言いながら、言葉を続ける。


「別に授業の邪魔はしないから安心しろって。それに、下手にちょっかいはかけないから、それも安心しろって。なっ?」

「で、でも……今は……」


 それだったら、どうしてそのまま放っておいてくれなかったんだろうと、自分勝手な言葉が付きまとうわたしは意地が悪い。

 わたしが思わず落ち込みそうになったけれど、レンくんはあっさりと言ってのける。


「今は、間宮が本当に顔色悪いから、保健室までは一緒に行ってやるから。そこで先生に休ませてもらえって。なっ?」

「う、うん……ありがとう……」


 わたしはようやく、保健室への道を再び歩きはじめる。

 保健室の先生はわたしの顔を見ると、すぐに顔色を変えて「あとのことはちゃんとやっておくから、一時間寝ちゃいなさい!」とベッドをひとつ用意してくれた。

 この数日見慣れてしまった真っ白なカーテンに真っ白なベッド。それに思わず顔をしかめながら、わたしは「レンくん?」と小さく声をかける。

 返事は返ってこなかったし、あちらから声をかけてくることもなかった。

 ……なんでこんなに勝手なんだろう。自分勝手なことを思いながら、わたしはもぞもぞとベッドに横たわって、布団を引き上げる。

 でも。たった三日入院していただけで、ふくらはぎはぷにぷにになっていて、はっきり言って体力が戻っていない。それで授業受けただけですぐに疲れてしまったのかもしれないと考え直す。

 自分だと全然気付かなかっただけで、レンくんが心配してくれたのは本当なのかもしれないと、そう思うことにした。

 わたしは見えないのに、どうしてこんなに優しくしてくれるのかは、全然わからないけれど。


****


 それから次の授業は普通に受けられた。

 三時間目は体育だったから、皆が体育を受けているのを端に座って見ていたけれど。

 女子はバスケットボールで、男子は外でサッカーをやっている。

 うちのクラスにもサッカー部の人が何人かいるから……滝くんも、全然接点がないけれどうちのクラスだ……何組かに分けてバスケット勝負を行っているけれど、ゴールネットが足りなくって順番待ちしているグループは、わたしと一緒にときどき外の男子を応援したり、女子のグループを応援したりしていた。

 沙羅ちゃんも絵美ちゃんも特に運動が上手くないから、運動部の子たちにボールをパスして、どうにかゴールの近くにいて、走ってくる子の邪魔をするにとどまっていた。沙羅ちゃんは身長があるから、誰もいなかったらボールをネットにまで入れるのは楽なんだけれど、走りながら入れることは全然できないんだ。

 わたしはそれを眺めながら、体育館の戸に持たれて体育座りをしていたら。戸の隙間から勢いを付けてボールが入ってきた。わたしは慌てて戸から立ち上がって避けると、サッカーボールが床でいい音を立ててリバウンドしていた。

 どうもサッカーに熱が入り過ぎて、男子のボールが体育館まで飛んできてしまったらしい。

 当然ながら、運動部の子たちが「こら、男子! 危ない!!」と怒鳴りながらボールを拾うと、男子のほうからボールを取りに来た。

 来たのは滝くんだ。本当に顔が整っているけれど、取っつきにくい雰囲気が原因で、ほとんどしゃべったことがない。沙羅ちゃんは滝くんのことを気にしているのは知っているけれど、彼としゃべったことがあるのかどうかまでは、わたしもわからないな。

 彼とまともにしゃべれるのは、運動部の子だけじゃないかな。彼は運動部の子に怒鳴られながら、しゅんとしてボールを受け取る。


「……すまん」

「サッカー部危ないからこんなところまでボール飛ばすな!」

「悪かった。あ」


 滝くんは相変わらずの不愛想な表情のまま、逃げていたわたしのほうに視線を寄こしてきたのに、わたしは思わず肩を跳ねさせる。

 な、なに? 滝くんとは全然接点がなかったと思うんだけれど。

 わたしが勝手にビクビクしていたけれど、こちらのほうに軽く会釈してきた。


「間宮、すまん」

「ええっと……別に、大丈夫。です」

「そうか」


 滝くんはほっとしたように息を吐いてから、サッカーボールを抱えてグラウンドのほうに戻っていってしまった。

 そのままグラウンドで他の男子と合流してしゃべっているのが目に入る。

 わたしはポカンとしながら、彼の背中を見送る。

 ええっと……たしかに戸に座っていたのはわたしなんだけれど。滝くんが謝るようなことだったっけ。

 たしかにグラウンドからボール飛ばしてきたんだけれど。

 わたしは滝くんの意図がさっぱりと掴めないまま、スポーツ刈りの綺麗な髪を見届けていた。

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