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鬼術

概要:ウィル特殊能力を得る。

 レッドに案内されてウィルが現在向かっているのは、ゴブリンを狩った場所から少し離れた場所にある、また別の隠し部屋だった。


『その武器はさっきオイラが言ってた魔法使い相手に大暴れした鬼の子が欲しいって言って製作が計画されて、当時の“錬金術師”の中でもトップだって言われた奴が全面協力して作られたものなんよ』


 移動する最中にレッドはこれから手に入れようとしている物について説明する。


「錬金術師?」

『うん? 簡単に言うと魔法使いの中でも物作りに特化した連中だな。今の時代にはいないのか?』


 逆に尋ねられて記憶を探るも、その単語については何も思い浮かばなかったが。


「聞いたことはないけど、それっぽい奴は見かけた事はある」


 まだ義父の世話になっていた頃、とある魔術具を扱う店に大量の魔術具を卸している人が居たなと思い出す。


『そうか。もしかしてウィルって魔法に対する知識は持ってないんか?』

「初歩の初歩なら分かるけど、使えないものの勉強をしたところで何の役に立たないからな」


 物心ついた頃に少し試しに練習していた名残だったが、才能がある者なら赤子ですら発現できる魔力現象を起こせなかった為に、早々にそれについての勉強は諦めていた。


『なるほど。じゃあ古いかも知れんがこれからはオイラが魔法について教えていくからちゃんと覚えてくれよ?』

「なんでだ? これから鬼術って奴を教えてくれるんじゃないのか? どうしてそんな無駄な事……」

『無駄じゃないんだなあこれが。ウィルに魔法について学んで欲しい理由はちゃんとあるんよ』


 そう言って魔法についても学ぶべき理由を並べていく。


『まず鬼術の仕組み自体は魔法と共通している部分が多い。それで多分魔法はオイラの時代よりかは研究が進んでいるはずだから、今後オイラが知らないような魔法知識を手に入れたときに鬼術にも取り入れて応用できるかもしれないからそれに備えておく為だな』


 要するに、レッドでも教えられない、対応できない事態の為の保険ということらしい。


『次に将来的に“魔法陣術”を習得してもらう為だな』

「魔法陣術?」

『平たく言えば魔力の無いウィルでも使える魔法だな』


 鬼術以外にそんなものがあるのか! と食いつくとレッドが苦笑する。


『言っておくがウィルには鬼術と比べると圧倒的に使い勝手は悪いと思うぞ? 何せあくまで魔力を利用できるようになるだけだからな』


 魔法陣術というのは間接的魔力利用術と言い換えられる。

 要するに一般的な魔法と違って使用者が直接自前の魔力を使うのではなく、何かしらの方法で肉体とは別の媒体に貯め込まれた魔力を利用した魔法だという。


『自前で魔力が用意できないウィル単体じゃ使えないが、魔物から採れる魔晶石に含まれてる魔力が利用できるようになったりする。まあ、不自由ながらできることは少しは増える程度だからあんまり期待しないほうがいいんじゃねえかな?』

「それでもそんなのがあるならもっと早く知りたかったな……それを習得できていればもっとまともな生活ができたかもしれないのに」

『残念ながらそれは多分難しいと思うぞ』


 そもそも呪い子として迫害されたのは生涯誰かしらの魔力に頼り続けないと生きていけないからと思われているからではないか? とレッドが指摘する。

 更に補足として魔晶石は魔術具の材料としては非常に有用なものであるらしく、それをただ生活の為に浪費するなど周囲から白眼視されるのは想像に難くないという。


『まあ、そう旨い話は無いって事だな』

「くっ……」

『あとは……そうだな“魔法が使える奴の考え方が理解しやすくなる”っていうのも、ウィルがこれから生きていく上で重要な事だな』


 最後の理由の利点が分からず首を傾げると、レッドが補足する。


『ウィルは今後生きていく上で他の人間、つまり魔法使いとは否応なしに関わる事になるはずだ』

「それはまあ……そうだな」


 ウィルとしては不要なトラブルや身の危険を回避する為に今までのようにできる限り人から離れた生活を送るつもりだったが、人生どうなるか分からない。

 レッドは人ではないが、今回のように思わぬ出来事から思わぬ出会いをする事になるのは十分に予測できたし、生前義父が言っていた“縁”の話から完全に人間社会から離れて暮らせるとは思ってはいない。


『その関わりが良い物になるか悪い物になるかは分からんけど、相手の思考回路に近づくなりする事ができれば、良い関係はより良くできる可能性が大きくなるし、悪い状況を回避なり打破に繋がるはずだ』

「悪いものばかりになる気がすごいするけど……分かったよ。要は“縁を染める”ってやつか」


 義父の受け売りを口にすると、レッドが少し驚いた様子の声音を挙げた。


『どこでその言葉を聞いたんだ?』

「? よく義父さんが言ってたんだ。『自分の全ての縁を良縁に染められたら最後は幸せになれる』って」


 結局、それを教えてくれた当の義父はその志半ばに斃れてしまったのだが、ウィルにとっては夢にまで見る程印象的な言葉で、ここまで多くの人間が無下に扱われながらも怒りや憎しみに狂わず生きてこれた教えだった。


「もし俺が逆の立場だったら、多分何も考えず呪い子に対して酷いことをしたと思う。だって実際に俺は皆みたいに魔法で誰かの役に立つどころか、ただ一人の家族の足すら引っ張ってたから……」


 いつもお荷物で足手纏いで、善行を積もうにも人から煙たがられて、そういった機会を与えられた事すらない。

 そんな存在に対して義父が自分に接したような態度が取れるか? と問われてしまうとそんな自信はない。


「他の人から見て俺との縁は無条件にみんな悪縁なんだ。それを俺が無理に『良く』染めようとしても、たいていその努力は裏目に出る」


 近づかれるのも嫌な存在がすり寄ってくれば嫌悪感が先に立つ。

 信用が全くない者がいくら耳心地良い言葉を重ねてもそれは相手には響く事は決してない。

 それは人間として、否、生物として至極まっとうな感覚であり、しょうがない事なのだ。


 だからウィルは自分に期待するのを諦め、他者との良縁も諦め、できる限り悪縁が結ばれる事を避けるように心掛け続けて生きてきた。


「レッド。お前は人間じゃないけど、お前との縁は俺にとっては良いものだと思ってる。だけど、お前から見ると違うかもしれない。なにせ、こんなゴブリン達に飲まれ掛けた遺跡に現れる奴なんて普通はいない。選択肢なんて他にないのに俺みたいなハズレに取り付かなきゃいけなかったんだ。違うか?」

『いや、それは…………たしかにオイラも選択肢なんて無かったよ。けど、』

「別に機嫌取りしてもらわなくても大丈夫。そういう扱いは慣れてるから。心配しなくても、俺はお前に命が救われたって事はちゃんと理解してる。せいぜいその恩が返せるようにお前が言う事なら何でも――まあ、自分に危険が及ばない範囲でだけど――やってやるよ。鬼術だろうと魔法だろうと頑張って覚えるよ」

『…………そんな生き方をさせるような教えじゃないんだけどな。縁っていうのは』


 決して小さくはないはずのレッドの呟きだったが、それが今のウィルに届くことはなかった。




『ここだな』


 目的地に到着すると、さすがに三度目ともなると慣れてきたのか隠し扉がどこにあるのかウィルでもすぐに見つける事ができた。

 しかし、これまでと同じように回転式の扉の中へ押し入ってみると、今までとは全く違う光景がそこには広がっていた。


「…………ぉぉ」


 部屋はぼんやりとではあったが、廊下や他の隠し部屋より明るかった。

 その光源と思しきは、部屋の奥の床に描かれた不可思議な図形と、その中心にそそり立つ棒の周囲にふよふよと浮かぶ、二本の槍が交差した歪な球状のような、これまた不可思議な四つの物体であった。


 恐らく魔法関連の何かなのだろうと察するも、その明らかに異質で不可解な構造物が薄っすら発光するその光景は、不気味であると同時にどこか幻想的で思わず声が漏れ出た。


『ふむ。期待通りにこれが生きているとは。さすが良い仕事をするなアイツ』

「これは魔法の……何? 結界?」

『そうだな。結界魔法の一種だな。魔法陣と魔術具の合わせ技で、あの中心にある武器を守っているんよ』


 レッドの説明によると当時鬼の子用に作られた試作品の一つで、それほど危険な代物でも重要なのものでもないとのこと。

 けれども、一応は武器として製作された為にこうして盗難防止用に魔法で管理していたのだという。


「ふうん……それで、どうやってこの結界魔法って奴を解くんだ?」

『解けない』

「は?」

『この武器を持ち出すには事前に登録した人間しか手出しできないようになっている。そうでなくてもそれほど難しい術式じゃないから専門知識のある魔法使いなら時間を掛ければ結界を解くのは不可能ではないんだが……』


 レッドにはその知識はあっても魔力が使えないし、当然この魔法陣を通過できるように登録などされていない。

 ウィルに関しては言わずもがなである。


「……俺達何し来たんだっけ?」

『もちろんあの武器を手に入れに来たんだ。大丈夫。解けないなら破壊すれば良い』


 まさかの力技で解決しようという話に一抹の不安を覚える。


「破壊って大丈夫なのかソレ? 色々と……」

『うーん、そうだな。別に壊したところで既にここが放棄されているから誰にも咎められないし、無茶苦茶にしても問題ないな』

「そうなのか? なら安心――」

『力尽くで破壊したらこの部屋丸ごと吹き飛ばすような爆発が起きるから、そういう意味では問題はある』

「――できねえなオイ!?」


 ダメじゃないかとツッコミを入れるが、レッドは『最期まで話を聞け』とウィルを窘めた。


『破壊と言っても鬼術で結界魔法を構成している術式土台ごとふっ飛ばせば別に何も起こらないから安心しろ』

「鬼術で?」

『ああ。そもそもこの武器を取りに来る事よりも、ウィルにこの結界の破壊で鬼術を練習してもらうのが主な目的だったりするからな』

「えっ、いきなり俺がやるのか?」


 鬼術を習得する気自体は満々だったが、これほどまで早く実技になるとは思っていなかった為、少し気後れする。


『鬼術は生身の肉体を持っていないと使えないんだ。オイラは鬼術の理論は知っててもこんなんだからな。……いや、今はウィルの肉体と同化しているから手本くらいならやろうと思えばできなくはない、のか? やった事ないから分からんけど』


 試してみるか? などと何やら不穏な事を口走り始めたレッドにそこはかとない身の危険を感じたウィルは「いやいい。とりあえずやってみる」と了承した。


「でもド素人だからな? 俺」

『心配するなって。ちゃんと一から教えるし、鬼の子であるウィルの身体は鬼術に適正が高いはずだから、よほど不器用でも無い限りは使えるはずだ』


 大丈夫だと太鼓判を押したレッドは『じゃあ早速始めるとするか』と言って指導を始めた。


『まずはどういう理屈でこの結界を解除、もとい破壊するのか? からだな』

「? ふっ飛ばすって言ってたから、てっきり何かこう、でっかい火の玉とかを出して爆破するとかじゃないのか?」

『そんな派手で他の事にも使えそうな便利な現象は鬼術じゃあできない。鬼術の基本は“働き掛け”なんだ』


 レッドはまず、魔法と鬼術の違いについて説明してくれた。


『そもそも魔法っていうのは、魔力を使って空間中に存在する“マナ”って呼ばれてる、目に見えない、実体を持たない物質に干渉する事で色んな現象を起こしているとされている』


 このマナは様々な生命の意思を読み取る性質を持っており、また同時に魔力は生命の意思が宿る性質を持っているらしい。

 マナは魔力に伴ったエネルギーを対価に、その意思に沿った現象や物質に瞬間的に置き換わるのだという。


『ウィルは“言霊”って知っているか?』

「それは知っている」


 言霊は一般的な魔術現象で、簡単に言うと一つの言語を習得さえすれば常に自動翻訳されるという、世間ではありふれ過ぎて逆に魔術現象である事を忘れられる事すらある程浸透している常識だ。

 もっとも、例のごとくウィルはその恩恵に預かれないのだが。


「前に国外に出ようとした時に、言葉が通じない事を理由に検閲所で国境越えが止められた事があって……」

『あっ…………なんか、スマン』


 もしかしたら国外ならもう少しまともな生活ができるようになるのではないかと思っていたのだが、よもや門前払いを食らうとは思ってもみなかった。

 更に補足として密出国を企んで魔物が跋扈する辺境地からの隣国侵入を試みた事もあったが、検閲所以外の国境には一種の結界魔法が張られていて、あえなく弾かれて泣く泣く諦めたという事もあったりする。


『……あ~、それでだな。その言霊を例にするとだな』


 ゴホンと、せき込む喉も無い筈のレッドが咳払いをして話を元に戻す。


『人が会話する時に伴う“自分の意を理解して欲しい”という意思が伴った魔力が声に乗って空間中のマナに届けられる事によって、自分の言葉が相手に理解される言語に置き換わる。という流れが相互に行われる事によって自動翻訳という現象が起きる訳だ』

「ええと……つまり、魔法に必要なのは“魔力”と“意思”とそれをマナに伝える“何か”って事か?」

『そうだ。他の魔法も基本的に同じだな。詠唱であったり、魔法陣のような式には人の意思が乗っている。これに声だったり魔晶石のような帯魔物質などの媒介がマナに魔力を伝えれば、それが魔法になる』


 ここまで分からない事は無かったか? とレッドに聞かれる。

 正直馴染みの無い話でピンと来てない所もあったが、大まかには把握はできたので「問題ない」と返した。


『それでここからが本題。鬼術についての話だ』


 鬼術は魔法と共通している部分が多いらしく、明確に違うと言えるのは生命力を用いるかそれが変質した魔力を用いるか、というぐらいらしい。


「同じ所が多いっていうけど、それなら昔俺が魔法の訓練をした時に何も起こらなかったのは何でだ? 似たようなものなら何かしら変な事が起こっても良くないか?」

『似ているのは魔法と鬼術であって、そこは魔力と生命力の違いだな。魔力はエネルギー変換効率が非常に高いんだ。そうだな……例えば普通に気温に従う水と、常に人肌よりも高い温度の水があったら、どっちが沸かしやすい?』

「それは温度が高い方じゃないのか? ……それが魔力って事?」

『もっと厳密に言えば“温度が変化しやすい水”っていうのが魔力だな。沸騰させる時だけじゃなくて凍らせるにも都合がいい、それくらい魔力・魔法っていうのは便利なんだ』


 仮に生命力で水を沸騰させようとすると質と量が圧倒的に足りないらしく、何らかの特殊な仕組みを利用した上で複数人の力が必要となるらしい。


「うーん……なあ? そんな生命力を使う鬼術って一体何ができるんだ? なんだか不安になってきたんだけど……」

『さっきも言ったがマナを別の何かに変化させる“干渉”はできないが“働き掛け”ぐらいならできるんよ。あと、強い生命力は別の生命力に影響を与えられるんだが……ここからは実践してもらった方が良いな』


 そう言うとレッドはこんな指示を出した。


『両手を広げてくれ』

「? あ、ああ」

『んで、思いっきり叩いてくれ。こうパアンとしっかり音が出る感じで』


 指示の意図が分からなかったものの、言われたままにパチンと音を出して手を合わせる。


『んー、もうちょい部屋に響く感じで出せないか?』

「こ、こうか?」


 何度か練習するうちに十分な音の大きさと響きに達したのか『いつでもその音を出せるようにしおけよ』とレッドから合格が出る。


「なんなんだ、これ?」

『今から教えるのは鬼術の中でも初歩に入る“柏手”って呼ばれていたやり方だ』

「かしわで?」

『簡単に説明すると、手を叩いた時の音にウィルの気持ちを伴った生命力を乗っけて、魔法現象を起こしているマナに叩きつける技だな。魔力と違って生命力じゃ“魔法現象を止めろ”という意思そのものが伝わる事は無いんだが、“叩きつけた衝撃で魔法現象を止めてしまう”んだ』

「はあ……? なるほど? しかし何というか、そう聞くとまるでマナって生き物みたいなんだな」


 名前も人の名前みたいで、衝撃を与えられたら止まる所とか、びっくりしたら思わず固まってしまう人みたいだなとウィルは思った。


『生きているかもしれないぞ?』

「は?」

『詳しくはオイラも知らんが、そういう説もあったって程度の話だけどな』


 レッドの時代では、まるでマナに意思があるとしか思えないような現象がいくつか確認されていたらしい。

 未来に起きる危機を現実としか思えないような程克明に描かれた予知夢だとか、死に掛けていた魔法使いが何する事もなく回復魔法現象が発生して生還した、だとか。


『まあ、今は特に関係ないから話を戻すぞ? それで次は、何でも良いから今までで一番ムカついた事、悲しかった事、嬉しかった事でも楽しかった事、心に一番残っている記憶を思い浮かべながらもっかい手を叩いてくれ。魔法と同じように鬼術も気持ちの強さってのは重要だからな』

「ん…………難しいな、ソレ」


 思い出そうとしてすぐにそう言って渋面を浮かべると、レッドは意外そうな声を出す。


『はあ? 何言ってんだ? 今まで散々苦労してきたんだろ? 未だに何か引き摺ってそうな辛い出来事とか、逆に唯一の心の拠り所的な優しい思い出が一つくらいあるんじゃないか?』

「いや、そういわれても……」


 確かに振り返れば苦々しく思う記憶はたくさんあるし、義父との思い出が無いわけではない。

 けれども、義父との思い出は本当に些細な事ばかりで、辛い出来事に至っては在り過ぎた為に、できるだけ気にしないよう忘れるように生きてきたウィルにとって、怒りや悲しみといった感情には慣れ過ぎてしまっていた。


 また、生きる事そのものを目的にしていた為に、取り乱して泣いたり、後に尾を引く程怒ったりする感情の揺れは体力の消耗にしか繋がらない。

 安易にそうならないよう歯を食いしばって耐えてきており、最近では罵詈雑言を浴びせ掛けられるなど、死に直結しない程度の事なら全く動じないくらいには精神が鍛え上げられてきた。


 故にウィルの心情としては「一々気にしていられるか! そんな事より飯と寝床だ!」なのである。


『お前ってホント枯れてるなあ……じーさんじゃあるまいし』

「まあ、そこらの老人より生きる事の大変さは知っている自負はあるよ」


 しかし困ったな、とレッドが悩み始める。

 魔法と同じように鬼術においては意思の強さは重要な要素であり、初心者がそのコツを掴むまでは、何らかの激しい感情を伴わせた方が成功しやすいのだという。


「ん? つまり、激しい感情は絶対に必要ってわけじゃないって事なんだよな?」

『必須ではないし、そもそもその内そんな感情に頼らないようにもしなきゃならない。一々使おうとする度に怒りで我を忘れたりしてたら都合が悪いしな。けど、練習で最初に感覚を掴むときぐらい利用した方が成功しやすいって話だ』

「じゃあ、とりあえずやってみても問題ないんだな? 要するに“止まれ”って思いながら手を叩くだけなんでしょ?」

『いや、たしかにそうなんだが、単純だけどそんな簡単なものじゃ――』



 パアン!



 部屋に破裂音が炸裂した瞬間、宙にふよふよ浮いていた魔術具が急に脱力したようにゴトンと音を立てて次々と落ちた。


「へ?」

『!?』


 床に描かれた魔法陣はしばらく発光し続けていたが、次第にゆっくりと光が薄れていき、然程時間も掛からず沈黙した。


「…………ええっと。これは成功って事で良いのか?」

『…………うそだぁ』


 目前に広がっていたこの世のものとは思えない光景があっさりと消えてしまった事に、実行した本人であるウィルは急な変化に付いていけず手を合わせてまま固まり、その脳内にレッドの茫然とした呟きがポツリと零れ落ちていた。

あっさり鬼術成功させるなんてさすがなろう主人公!おれたちにできない事を平然とやってのけるッ そこにシビれる!あこがれるゥ!


まあ、鬼術を完璧に修得した所で彼の生活が穏やかなものにはなりません。というかさせるつもりはありません。

もっとも鬼術を習得できればこれまで絶望的状況だったのが絶体絶命ぐらいの状況になって切り抜けられるようになるのは確かです。やったねウィル! もっと危険な目に遭えるよ!


次回はようやく武器入手回です。元々剣と魔法の世界な物語を書きたかったので、これが終わればようやくまともな対人戦を書ける下準備が終わるので、いよいよ遺跡&ゴブリン達の巣からの脱出劇にシーンが移せます。


早くウィルもレッドもお日様の下に出してあげたいものです。


2018年1月18日 文章を少し簡素化しました。

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